テンプル騎士団 のことも映画の「マスク」 のことも書いてから少々時間が経ってしまってますが、

いずれもヴァイキングとの関わりがあったわけでして、さらには昨年スウェーデンに行ったことなんかも

思い出してみるにつけ、もそっとヴァイキングのことを探求してみても…と思っていたのですね。


ですが、どうも「これ!」という本にもめぐり合えず、

あれこれを齧ってみては「どうも違うような」「なんとも面白くない」という状況で、

時間ばかり経ってしまいました。


まあ、ヴァイキングにも方向性の違いがあるようで、

スウェーデンのヴァイキングは今のバルト三国の辺りからロシアへ、やがてトルコへと

内陸の河川を船で行き来することによって交易を行ったのだとか。


彼らが「ルス」と呼ばれたことから、その「ルスラント」というエリア呼称が生まれ、

よく考えてみるとそれが今の「ロシア」のことかと考えますと、

ロシアとはスウェーデン・ヴァイキングの国ということになってしまうではないかと思ったり。

ちなみにそうした時代に奴隷として扱われたのがスラブ民族のいわれでもあるとか。

ふ~んと思いますですね。


で、むしろ一般的なヴァイキングのイメージに近いのはデンマークやノルウェーの方であったようで、

もっぱら他国に攻め込んでは略奪の限りを尽くした…というイメージ。

英国史に出てくるデーン人は、そうしたデンマークからやってきた人々ですし、

フランスのノルマンディーに土着したのも、地中海に廻りこんでシチリアでノルマン朝を開くのもまた同じ。


とまあ、興味の尽きないヴァイキングであるわけですが、

本を探しあぐねているときにたまたま一冊の本に目を留めました。

歴史書ではなく、小説。しかも(?)日本の作家によるもの。

佐伯一麦さんの「ノルゲ」でありました。


ノルゲ Norge/佐伯 一麦


タイトルの「ノルゲ」とは確かノルウェー語で自国を指す言葉であったなと気付いたものですから、

どんな内容なのか(もちろんヴァイキングとの関係があろうとも思っていませんが)知らないままに

ノルウェーというだけで図書館から借りてきたのでありましたですよ。


ところがですね、これは面白かったですねえ。

ですが、「面白かった」という言い方はちと誤解を招くかも。


個人的には何かと凝ったストーリー、捻った展開でもってできてるお話を

「小説でなくてもいいんでないの?」とくさすことしばしでありまして、

面白い話がさも小説然としてあることに「違うんでないの」と思っているものですから、

ジェットコースターのような展開を見せる話とは全く離れたものなのですね。


ストーリーというものが果たしてあるのかという話。

妻がオスロの工芸大学で一年間学ぶことになって、

鬱病の気があるために一人で置いておかれないために妻に付いて行くことになった

小説家の夫がオスロで過ごす日々が淡々と綴られていくわけです。


事件が全くないわけではない。

言葉が不如意なために巻き起こす失敗の数々。

彼の地で突然に襲われるになった群発頭痛の発作。

こういっては何ですが、人それぞれのヴァリエーションの下とは思うものの、

日常に目を向けてみれば、誰にでもあるようなことどもが、いわば事件であるのですね。


この突飛でないところが、ある種、普遍性の担保であると言いましょうか、

日常のことを書くのなら誰にでも書けそうなのに、実は書けそうで書けない。

というか、人様に読んでもらうようなものにはならない…というべきでしょうか。


「私小説」と言われる類いでしょうけれど、とかく私小説のちっちゃな世界と瑣末な話は、

単に地味なものとしてしか扱われないように思いますが、どうしてどうして、

言葉での表現を尽くす点では侮れないものであるなと改めて。

オスロの空気といったものが、かなりしっかりと伝わってくる気もしますし。


全くもってふとしたことで手にした一冊ですけれど、読み終えて

小説らしい小説を読んだなぁという気になっているところでありますよ。