周囲を圧倒する超高層ビル。
高さのみならずモダンなデザインで目をひく建築物でもあった。


見晴らしの良い高層階では、着飾った多くの人々がパーティーのひとときを楽しんでいた。
しかし彼らの知らないところでは、その後の惨劇に繋がる事態が密かに進行していたのであった。


彼らがことの重大さを知ったとき、すでに事態は彼らの退路を遮ってしまっていた。
屋上からヘリで逃げるか。それもままならない。


そんなとき、彼らを助けるべくビルの中を動き回っている者がいた。
どこから不意打ちを食わされるかわからない状態で、
地上から吹き抜けで下のようすも窺い知れないような場所を通り抜けたりもしながら…。


てなふうに書いてみますと、ある映画を思い出しませんでしょうか。
ある映画ったって、記事タイトルに「ダイ・ハード」ってあるではないか。


確かに意識して書いてますから、「ダイ・ハード」をよくご存知の方なら
クリスマス・パーティーの開かれているロサンゼルスのナカトミ・ビル(実は20世紀フォックスのビル)を
占拠したテロリストが上で言うところの「事態」であり、「彼らを助けるべく動き回る者」とは
世界一ついてない男とも言われたジョン・マクレーン刑事(ブルース・ウィリス)で、
下も見えないエレベータ・シャフトを通り抜けていたっけと思い出されるはず。


しかし、しかしですよ、上に書いたことの舞台はロサンゼルスではなく、実はサンフランシスコ。
1975年に日本公開された映画「タワーリング・インフェルノ」のお話なのでありますよ。


タワーリング・インフェルノ [DVD]/スティーブ・マックィーン,ポール・ニューマン,ウィリアム・ホールデン


20世紀フォックスとワーナーがそれぞれに
「グラス・インフェルノ」、「ザ・タワー」という高層ビル火災を題材にした映画を作ろうとしていたとき、
プロデューサーのアーウィン・アレンが辣腕を発揮して、

2社協力の下に一本の映画として仕立て上げた大作。

登場する顔ぶれがまた当時としてはまさにオールスター・キャストで、

大きな期待度をもって迎えられたものですから、
特別鑑賞券をしっかり事前購入して、映画館に見に行きましたですよ、公開当時。


で、これをふと思い立ってDVDで見てみたわけですけれど、
思ったりよりも良く出来ていたようだなと改めて。


そして、同じ超高層ビルを舞台にして火災とテロリストという設定は異なるものの、
外構えは「ダイ・ハード」と実によく似ていることにも気付いたわけです。


細かいところでも、先に触れましたジョン・マクレーンがエレベータ・シャフトを通り過ぎるところ、
これはポール・ニューマン(火災にあうビルの設計者)が避難路を求めて

下から上まで吹き抜けのダクトを渡る場面とそっくり。

どう見ても「タワーリング・インフェルノ」の影響は

「ダイ・ハード」に及んでいると見てよいのではないかと。


また別の部分で「ダイ・ハード」とは別の話になりますが、
ポール・ニューマンと主役を分け合う形のスティーヴ・マックイーン(消防士役)のセリフに

「う~む」となったのでありますね。


曰く、安全に消せる火災は7階建てまでというのに、上へ上へと作りやがって…的なこと。
設計・施工する側安全には最大限の注意を払った上で、超高層を建てることに挑むのでしょうけれど、
実際に事が起こるようなことがないように、ないように考えてはいるものの、
起こってしまったら大丈夫なんだろうかというあたりまで気がまわっているのでしょうか。


そして続けて、「今回の犠牲者は200人くらいで済んでよかった」と言った後に
これからも建築は上へ上へと向かうであろうことを苦々しく思いつつ、
「こうした超高層でやがて1万人もの犠牲者がでるだろう」的なことを呟いて去るのですね。


当時は思いも寄らなかったにせよ、今なら多くの人が思い浮かべるシーンがあると思われます。

2001年9月11日のニューヨーク、国際貿易センタービルでありますね。


火災が直接的な原因ではないにせよ、

超高層ビルでの、超高層ビルだったからこその多大な犠牲を出した出来事でありました。


このときも我が身を投げ打って救助に当たったのはやはり消防士の人たちであったことは、
その後の映画「ワールドトレードセンター」などにも描かれていただけに、
「タワーリング・インフェルノ」での消防士のひと言との繋がりを感じてしまうところです。


ところで(と、深刻なところからちと離れますが)「タワーリング・インフェルノ」で

火災になったビルというのはいわゆるセットでの特殊効果なのでしょうけれど、

エントランス・ロビーから最上階のパーティー会場へと向かうゲストたちが乗るエレベータ。


吹き抜けのアトリウムを思わせる館内に

シースルーのエレベータが昇っていくシーンが見られますけれど、
これは実在の建物でありまして、サンフランシスコのハイアット・ホテルなのですね。


メル・ブルックスの映画「新サイコ」にも使われたりもしたものですから、
サンフランシスコに行った折りにはロビーだけ覗きに行きましたですよ。「おお、ここか!」と。


とまれ、懐かしい映画とだけ思ってこれまで見返すことのなかった作品ですが、
いざ見てみれば、あれやこれや思うところしきりでありますですねえ。