何とはなしにですが、

イギリスのTV局が製作してひと頃NHKでも放送していた「シャーロック・ホームズ」を
DVDでちょこちょこっと見ているうちに、超有名作「まだらの紐」に出くわしました。


シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 (宝島MOOK)


内容は言わずと知れたものですし、もしご存じのない方がおいでとしても
もとより短編ミステリですので触れぬが花というものでありましょう。


で、何を話題にするかというになりますが、
見始めて「ほお、そうだったのか?!」と思ったオリジナル・タイトルのことでありますよ。


「まだらの紐」の原題は「The Speckled Band」というのですねえ。
「speckled」が「まだらの」に相当し、「band」が「紐」ということになります。


今でこそ「スラックスのベルト」という言い方をしますけれど、昔は「ズボンのバンド」だったような。
今でも「スラックス」だとちと気取りが感じられるふうでもあって「ズボン」の方は残っていて、
とりわけ小さな男の子用のは「ズボン」というのではないかと(って、想像で言ってますが)。


ちなみに…とまた寄り道ですが、この「ズボン」の語源は何ぞとWikiを見ると、
フランス語で「ペチコート」を意味する「jupon」に由来するとか、

穿こうとして脚を通すと「ズボン!」と音がするとか言われているようですが、

どうやら決め手がないようす。とすれば、日本語と位置付けるしかないのかもですね。


と、少し話を戻して「The Speckled Band」ですが、
「speckled」は「speckle」(小さな斑点を付ける)という動詞の過去分詞が形容詞化したもの、
「小さな斑点を付けられた」てな意味でしょう。

要するに簡単に言うと「まだらの」ということに。


さらにちなみに(また寄り道)「まだら」の語源の方もはっきりしていないようで。
仏教の「曼荼羅」のようにいろんな色がそれこそ「まだらに」使われている様子をして
「まだら」と言うようになったという説があるようです。


確かに「まだら」はイメージ的に単に斑点が付いているというより、
にぎにぎしく色が入り混じっている方がしっくりくるかもですが、

それでも斑点が打ってあるようなものもまあ「まだら」で差し支えはなさそうですね。


ところで(と、もひとつ寄り道)、この「まだら」に意味がつながる英語の「speckle」ですが、
日本語で「小さな斑点を付ける」という実に細かな動作を表すのに

「speckle」という、それ専用の(?)単語が生み出された背景は何なんでしょうねえ。


こういう何だか妙に細かく区分けされたような意味を持つ単語というにときどき出くわしますが、
やはり文化の違いということでありましょうか。


と、数々の寄り道を経て「band」に戻ります。
本来的に「ひも」や「縄」などの「縛るもの」を指す言葉を日本語的に勝手に解釈してしまって、
「んじゃ、ズボンの腰んとこしばるのもバンドに違いないけんね」と昔の人は思ったのでしょう。


確かに「腰ひも」だと思えば合ってるわけですが、

「ベルト」という正式名称があると分かってからはだんだんと使われなくなった。

今やご高齢の方でも普通に「ベルト」と言うのではないかと。


ということで、「speckled band」が「まだらの紐」になるのは至極当然と分かりましたけれど、
ホームズのお話の中では、この言葉がダイイング・メッセージのように使われるものですから、
「speckled bandとは何ぞ?」ということになり、ワトソン博士が想像力を働かせる場面があります。

博士曰く「ジプシーの集団のことではないか?」と推理するのですね。


事件の起こる屋敷の主人が相当な変わり者で、

敷地内にジプシーたちにキャンプを許しているところからの発想のようですが、
日本でも「ズボンのバンド」とは別に「バンド」といえば、

音楽を演奏するグループのことを思い浮かべるように
「バンド」には「一団」といった意味合いもあるという。


ですので、ここいら辺りは「まだらの紐」の原題が「The Speckled Band」であることを
知っていた方が面白いということになりましょうか。


もっとも、ワトソン博士の思いつきがホームズに一蹴されるのは想像に難くないところですが。

とまれ「band」の語義は複数あるということなんですが、ついでに言っておきますと
個人的に「バンド」と聞いて別の意味として思い浮かべたものがあるのですね。


それは(ここのところの懐古的な話の数々からも想像がつくやもしれませぬが)

ラジオのことでありますよ。
ひと頃流行ったんですよねえ、「スリー・バンド・ラジオ」というやつが。


ここでの「バンド」は周波数帯域てな意味になりましょうか(正式には「Bandwidth」というらしい)。
AM、FMで2バンド、これに短波放送が聴けるものが「3バンド・ラジオ」でして、
代表的な製品はやはり何と言ってもソニーの「スカイセンサー」ですねえ。
一時期、異常に欲しかったと思ったことを思い出しますですよ。


短波放送をというより、海外からの放送電波をキャッチして聴く…ということの、
直に海外と繋がって、最新情報に接しているような感じが

ある種の高揚と満足感につながるものだったのでしょう。


もしかすると「BCLジョッキー」なんつうラジオ番組(これ自体はAM放送ですが)が

あったことを思い出される方もおいでですんかね。


今やインターネットで世界中と常時接続しており、

最新情報もいらないくらい入ってくるのとは全く違う時代。
1970年代はまだまだ渇いた時代だったのだなぁと思いますですね。


無理やりまとめるためにまた「まだらの紐」に戻しますと、
相談に来た件の屋敷に住む女性に対してホームズの曰く

「危険が迫ったら知らせてください!」って、

基本的に手紙のやりとりが想定されているのですよね。


今だからなんと悠長な!とも思ってしまうところですけれど、

あれやこれや世の中の移り変わりに思いを馳せる、

シャーロック・ホームズ「まだらの紐」でありました。