ヒルナンデスの「頑張らないダイエット企画」を見て思うこと Part2 | KMMのブログ

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人口700人程の村にある僻地診療所での勤務が終わり、現在は大学病院で勤務しています。
診療を通じてたことや、個人的に気になったことなど適宜書いていこうと思います。

お訪ねいただきありがとうございます。

 

 私は自治医科大学を卒業し、現在人口700人ほどの村にある診療所で、村唯一の医師として勤務しています。

 

2019年11月25日の日本テレビ系ヒルナンデス!で放送された「頑張らないダイエット企画」に関して、医学的なエビデンスという観点と絡めながら書いてみたいと思います。ちょっと専門的な話になりますが、できるだけわかりやすく書いてみようと思います。

 

このダイエット企画は、食事制限なしで続けられる簡単ダイエット企画であり、今回は①ストローを吹くだけダイエット ②一日の食事を8時間以内に収めるだけダイエット ③「やせる出汁」を飲むだけダイエット の3パターンが行われ、それぞれに女芸人1名ずつが挑戦しました。

 

その中で一番体重が減った、普段の食事に合わせて1日1回「やせる出汁」を飲むだけの簡単ダイエットを例に挙げて考えてみたいと思います。
 
このダイエットには、31歳(83キロ) の女芸人藤本友美 さんが挑戦し、結果 83.40Kg⇒81.30(7日目)⇒78.93Kg(3週間後)と見事、-4.47Kgの減量に成功しました。
 

この「やせる出汁」とはかつお節、緑茶、煮干し、昆布の粉末を合わせた特製だしを一日大さじ1杯、150cc~200ccのお湯で溶かしたものみたいです。

 

医師からは

カツオ節のヒスチジン⇒食欲を抑制してくれる

緑茶のカテキン⇒脂質代謝の活性化

煮干しのイノシン酸⇒新陳代謝を高めてくれる

刻み昆布の食物繊維⇒腸内環境を整えてくれる

 

かつお節のヒスチジンには中性脂肪の燃焼促進させる「リパーゼ」を活性化させる働きもあり、さらに、やせる出汁の素の材料には食物繊維がたっぷりなので、腸内環境が整うことで便秘改善効果も期待できるといったコメントがなされていました。

 

「3週間でこんな体重減少効果があるなら、今すぐにでもこれをカプセルに入れて、肥満症の治療薬として使えるようすべきだ!!」

みたいに思う方もいるかもしれませんが、実際治療薬として販売されるためには数多くの検証が必要であり、非常に長い道のりが待っています。

 

ここで出てくるのがエビデンスレベルという言葉になるのですが、このエビデンスレベルというものについて今回説明してみようと思います。

 

I システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス
II 1つ以上のランダム化比較試験による
III 非ランダム化比較試験による
IVa 分析疫学的研究(コホート研究)
IVb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
V 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

 

こんな表を出されても、なんのことやらさっぱりわからないという方も多いかとは思いますが・・・・・・

この表の下に行けば下に行くほど、エビデンスレベルが低い・・・・・つまり信憑性が低いということとなります。

逆に上に行けば行くほど、エビデンスレベルが高い・・・・・つまり信憑性が高いということとなります。

 

分かりやすくするため、ヒルナンデスの「やせる出汁ダイエット」を使ってこの表を考えてみましょう。

 

①「専門家の先生によると、やせる出汁ダイエットは、カツオ節のヒスチジンの効果で食欲を抑制してくれたり、緑茶のカテキンの効果で脂質代謝が活性化されるから、やせるみたいだよ。」

・・・・・これが表の一番下の「患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見」となります。

医学的根拠に乏しく、信憑性が最も低いものになります。

 

 

② 今回ヒルナンデスの企画で女芸人の藤本さんが「やせる出汁」を飲んで、3週間で4.47kg痩せた。

……これは表でいう下から2番目の症例報告になります。エビデンスレベルとしてはかなり低いです。

というのも、このやせたという結果に対して、疑り深い方達は

「痩せたのは、やせる出汁を飲んだ以外にも、食べる量減らしたとか、運動めっちゃしたとか他の要因があったんじゃないの??」

とか

「たまたま女芸人の藤本さんが痩せたってだけで、本当に効果あるものかなんてわからないよ。」

みたいな疑問を抱いてくるでしょう。

 

ではどうしたら、「やせる出汁」にやせる効果があると、誰しもを納得させられるか?

仮にですが、あなたがこのことをテーマに自由研究をするとなった場合で考えてください。

 

一番簡潔にできるのはアンケートかと思います。

 

③ あなたが頑張って知り合い100人にアンケートをとり、その中に

 

●ここ最近痩せましたか?(具体的には、ここ1か月で2kg以上痩せましたかなど)

●「やせる出汁」を1日1回飲んでますか?

 

という質問を入れたとしましょう。

 

そして100人中10人がここ最近痩せたと答え、その10人のうち5人が「やせる出汁」を飲んでたとしましょう。

一方痩せてないと答えた90人のうち3人だけが「やせる出汁」を飲んでたとします。

 

この結果から、痩せた人は10人のうち半数となる5人が「やせる出汁」を飲んでいた。

一方で痩せなかった90人のうち、ほとんどの方が「やせる出汁」を飲んでいなかった。

なので「やせる出汁」にはやせる効果がある!

と言いたいところでしょう。

 

これは横断研究といわれ、表でいう下から3番目のものになります。医学的根拠としてはまだまだ弱いです。

 

というのもきっと疑い深い人達は

「そもそも痩せたいって思ってる人が、やせる出汁を飲んでいるだろうし、その人たちはやせる出汁以外にも食べる量減らしたり、運動頑張ったりもしてるでしょう。やせる出汁で痩せたなんて言えないと思うよ」

みたいなことを言ってくると思います。

 

では、このような方たちを納得させるためには一体どうしたらよいか??

 

④ 例えば、あなたが大規模な研究を行おうと決意し、2000人の協力者を集めてきます。

そのうちくじで選んだ1000人には「やせる出汁」を1日1回飲んでもらい、残り1000人には「やせる出汁」と見た目も味も全く一緒の、小麦粉に色付けと風味づけしたものを飲んでもらったとしましょう。もちろん小麦粉なので、やせる効果などありません。その上で、誰が「やせる出汁」を飲んでいて、誰が「やせる出汁」っぽい小麦粉を飲んでいるか、2000人の協力者にはわからないようにします。

 

この「やせる出汁」っぽい小麦粉がプラセボと呼ばれるものになります。

 

そして、食事制限などは設けずに、普段と同じように生活してもらい、3週間後に体重測定をしたとしましょう。

 

もし「やせる出汁」を飲んだ1000人の体重が平均で2kg減ったのに対して、「やせる出汁」っぽい小麦粉を飲んだ残り1000人の体重に変化がなかったとしたら、これはケチのつけようのない説得力のあるデータになると思いませんか??

 

これが表でいうと上から2番目にあたるランダム化比較試験と呼ばれるものになり、エビデンスレベルとしてもかなり高いものになります。

 

⑤ そしてもしあなたがやった研究と同じような大規模な研究をしている人が他にも複数いた場合、その人たちの研究データと、あなたの研究データを統合し、それぞれの特徴などを加味しつつ、総合的に分析・評価したもの、それが表の一番上にあるメタアナリシスとなり、もっともエビデンスレベルが高い、つまり信憑性の高いものとなるわけです。

 

難しい話になってしまいましたね笑。

 

しかし実際に、医学的にエビデンスがあるとされるものはみな、これだけ大変な手順を踏んで来ているのです。

 

なのでテレビ番組でよくみるような「やせる効果がある」みたいな食品であったり、薬に対しては私は非常に懐疑的な目で見てしまいます。

 

もし本当にそれだけ効果があるんだったら、国の承認を得た上で、大手製薬会社が既に販売させているだろうとか、そんな余計なことを考えてしまうのです。

 

テレビの企画などは特に、結論ありきの検証みたいなものが多いような気がします。

 

今回のダイエット企画だって、3週間後に全員の体重が変わらない又は増えていたでは企画として成り立たないでしょう。

 

つまり3週間後には必ず痩せていてもらいたい。

 

直接的に言葉で言われていなくとも、普通の感覚があれば、そう勘付くと思います。

 

そしてそれを視聴者は真に受けて、「やせる出汁」はめっちゃやせる効果あるらしいよと言って、実際数多くの方が試されてるんだろうと思います。

 

バラエティー番組なので、これが問題だとかは思ってはいないのですが、視聴者側もどこかで、「この検証で本当に十分なの?効果があると言えるの?」みたいな疑問を抱くようにする必要があると私は思っています。

 

医療に関する情報はテレビやネットで溢れかえっています。

 

その中で「何が本当に正しいことなのか、信憑性が高いことなのか」、それをしっかり判断すること、これこそが私たちに今一番求められていることだと感じる今日この頃です。

 

ではでは