お訪ねいただきありがとうございます。
本日は昨日の記事の続きです。
京都大学病院からの事故報告書、これはネット上に上がっているやつですが読みました。
本日は問題があったと思われる点を一つずつ上げていこうと思います。
① 腎機能障害のある患者に対して、造影CTを施行するにあたり、十分な時間が取れない時は炭酸水素ナトリウムを点滴することを、病院としてマニュアル化していた。
→もちろんマニュアル化していたこと自体に問題があったとは思いません。
ガイドラインでも、「輸液時間が限られた場合には重曹液の投与を推奨する。」
と記載されています。
しかし、一般的な感覚として炭酸水素ナトリウムの点滴は広く知られたやり方ではないと思います。私もこのニュースを読んで初めて知りました。
ガイドラインでは
輸液時間が限られた場合(緊急症例)には生理食塩液よりは重曹を使用したほうが造影剤腎症の発症を抑制できる可能性が否定できないが、重曹輸液で透析や死亡のリスクが有意に減少することはなく、重曹輸液の使用が生理食塩液輸液よりも有益であるとの結論には至らない。
とも書いてあります。
やはりそこまでエビデンスレベルの高いやり方でもないような印象を受けます。
報告書には
マニュアルに組み込まれていたため、放射線科医師は担当医に腎保護のための輸液が必要であると伝え、マニュアルを読み上げた。
担当医は、重曹とはメイロンのことであると考え、「メイロンでいいの ですか」と放射線科医師に尋ね、放射線科医師は、「自分がオーダーすることがないので電子カルテ上で どのように表示されるのかは分からないが、重曹がメイロンという名前であれば、メイロンでよいです」と返答した。
と記載されています。
このやりとりの気持ちは分からなくもないです。
炭酸水素ナトリウムと聞けば、やはりまず商品名のメイロンのことを思い浮かべるのは理解できます。
メイロンとはめまいの時とかに使ったりする薬であり、わりと医者にとっても馴染みある薬です。
炭酸水素ナトリウムの点滴に対して、誰一人十分な知識を持ちあわせていなかったところに、マニュアルでそうなっていると言われ、勘違いした。
その勘違いを、間違いと気づける人もいなかった、そういうことなんだと思います。
そしてメイロンという薬に対して、危ない薬という印象がないもまた事実であり、そのことでメイロンの点滴をするということに対して疑いの気持ちが生まれなかったのかなぁと思います。
心停止になった理由はわかりませんが、心不全があるところに大量のメイロンが点滴されたことで、電解質異常をきたし、不整脈から心停止に至ったなどはあり得るのかなぁと思います。
やはりマニュアル化しているなら、誰しもが間違わないようなわかりやすいものにする必要があると思います。特に医者の感覚として、そこまで馴染みのある処置や処方でない場合は尚更です。
もちろん担当医の落ち度が一番大きいとは思っていますが、担当医一人の責任にするのはかわいそうな話である気もします。
やはり炭酸水素ナトリウムの点滴をマニュアル化していたにも関わらず、そのマニュアルが誰しもが正しく理解できるようなものではなかった、ここに大きな問題があったんじゃないかなぁと私は思います。
②担当医もよくわかっていない処方をちゃんと調べることなく、言われるがまま処方した
やはり自分に馴染みのない処方をする時は、可能な限り調べたり、同僚の医師に聞くなどするべきだと思います。インターネットでも「炭酸水素ナトリウム」、「造影剤」と入力したら、ガイドラインに辿り着き、点滴のやり方などちゃんと記載されています。その作業を怠ったことは問題かなぁと思います。
③ 患者さんは「おかしいので医師を呼んでほしい」と訴えたが、看護師は 「様子観察の指示がでていて、先生も知っています」と説明した。
上記は報告書からの抜粋です。
「何かおかしい」
医療者に求められる一番大事な感覚と私は思っているのですが、やはりこの時点でそう判断できなかったことは悔まれます。特に患者さん自身が訴えているので尚更です。
何かおかしいと感じていれば、担当医からは経過観察の指示が出ていたとしても、近くにいる他の医師に相談するなり出来ていただろうし、そうすれば最悪の事態を防げたかもしれません。
④心肺停止に陥り蘇生行為を行うも、蘇生行為によると考えられる肺からの出血が発生した時に、抗凝固薬の 内服状況が把握できておらず、中和薬の投与のタイミングが遅れた。
これは防ぐのは難しかっただろうなぁというのは正直な印象です。心肺停止の患者さんを前にして、冷静に中和薬の処方を判断するのはなかなか難しいとは思います。ただ手術中まで誰も気がつかなかったと報告書には書いてあり、その時点ではおそらく心肺停止になってから1時間以上は経っているとは思います。急変後は多くの医療者が関わっていただろうし、その前に誰か一人でも中和剤の処方の必要があることに気がついて提言出来てればなぁと、悔やまれます。
とこのニュースに関して思うことを色々書いてきましたが、このニュースに対して私自身熱くなってしまうのも、この医療ミスが他人事とは思えない、私はこのニュースを読んで、いつ私自身にも同じようなことが起きてもおかしくない、そんな風に感じてしまったからです。
もちろん医者は命を預かる仕事なので、絶対ミスはしてはいけない、それは当然のことなのですが、全くミスをしない人間など存在しないのも事実です。
この患者さんに対しては本当に気の毒だったなぁと感じています。
上の①から④のどれか一つでも正しく対応出来ていれば、最悪の結果は回避できたかもしれないと思ってしまうからです。
今回の医療ミスでの反省が今後に生かされることで、同様の医療ミスが起きなくなること、そのことがせめてもの報いになる、そのように私は思っています。
ではでは