「京大病院での炭酸水素ナトリウム誤投与」について思うこと | KMMのブログ

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人口700人程の村にある僻地診療所での勤務が終わり、現在は大学病院で勤務しています。
診療を通じてたことや、個人的に気になったことなど適宜書いていこうと思います。

お訪ねいただきありがとうございます。

 

 私は自治医科大学を卒業し、現在人口700人ほどの村にある診療所で、村唯一の医師として勤務しています。
 
本日以下のYahooニュースの記事を読みました。

 

京大病院で薬剤の濃度を誤って投与、入院患者が死亡 止血でも、ミス重なる

 
 京都大医学部付属病院(京都市左京区)は19日、腎機能障害のある心不全の男性入院患者に、注射薬の炭酸水素ナトリウムを処方する際、誤って本来投与すべき薬剤の6・7倍の濃度の同一成分製剤を投与した結果、6日後に死亡したと発表した。

 京大病院によると、患者は成人男性。造影剤を用いたコンピューター断層撮影(CT)の検査を行う際、急性腎不全となるリスクがあった。入院患者の場合は腎保護用の生理食塩水を検査前に6時間点滴する必要があったが、検査までの時間が十分に取れなかったため、代替策として外来患者向けの炭酸水素ナトリウムを用いたという。
 さらに、本来は濃度1・26%の炭酸水素ナトリウム注射液を投与すべきだったが、成分は同じながら、商品名の異なる濃度8・4%の製剤を誤投与してしまったという。

患者は、炭酸水素ナトリウムの点滴開始直後から血管の痛みや顔面のほてり、首のしびれといった症状があり、「医師を呼んでほしい」と訴えたが、看護師や医師は造影剤によるアレルギー反応の有無に気を取られ、誤った処方に気づかないまま投与を継続したという。

 その後、患者は心停止となり、蘇生処置で心拍は再開したものの、心臓マッサージに伴う胸骨の圧迫が要因とみられる肺からの出血が止まらなくなった。止血術などの対応を取ったが、患者の内服薬に抗凝固薬が含まれていることに気づくのが遅れたこともあり、出血を止められず死亡させてしまったという。死因は出血性ショックによる多臓器不全だった。病院は、患者の年齢、医療事故の発生時期について、遺族の強い希望で明らかにできないとしている。


 
という記事でありますが……
 
腎機能が悪い人に、造影CTの前に生食を点滴しておく、これはよくやることです。
造影剤腎症(造影CTというより詳しい検査を行うために、造影剤を注射することで、腎臓の機能がさらに悪くなってしまうこと)を防ぐ上で効果的です。
 
ただ造影CTの前に炭酸水素ナトリウムを点滴する、医者になってしばらくになりますが、これは初めて知りました。
 
ただ調べてみると、 
「重炭酸ナトリウム(重曹)液投与は 造影剤腎症の発症リスクを抑制する可能性があるため、輸液時間が 限られた場合には、重曹液の投与を推奨する。」推奨グレードB
 
となっているので、炭酸水素ナトリウムを点滴したこと自体には間違いはないのかなぁとは思います。(もちろん濃度を間違えていたことは大きな問題ではありますが)
 
 
詳しいことは分かりませんがこの記事の内容から判断すると、医療者サイドの過失なんだろうと思います。しかも不運がいくつか重なってしまったような印象を受けました。
 
止血時のミスに関しても記事には書いてありましたが、こちらに関しては正直回避するのは難しかっただろうなぁという印象は受けます。

京大病院のHPからの報告では、プラザキサという薬が服用されていたみたいです。プラザキサという薬は血をサラサラにする薬ですが、中和薬があり、それを注射することで血をサラサラにする効果を抑えることができます。

もしその場にいた誰かがプラザキサという薬を服用していることに気が付き、中和薬の投与を一早く提言できていれば、出血性ショックでの死亡を免れれたかもしれません。
 
この先生にとって、炭酸水素ナトリウムが使い慣れているお薬だったかどうか、またこれまでも何度か同じような対応をしていて、問題など起きずにいけていたかどうか、それは気になるところでしたが、よくよく調べてみると、京大病院からの事故に対する報告書みたいなものがHP上に上がっていました。

「当該病棟では造影 CT 検査の前処置として炭酸水素ナトリウムを使用した経験がなかった、知識が不足していた。」

みている限り、病棟側は造影CT前の炭酸水素ナトリウム点滴の経験はなく、また担当医の方も経験は乏しかったか、なかったように思われます。

 
「腎機能障害のある心不全患者」
複数の疾患を抱えている人はやはりそれだけで対応が難しくなるというのは事実です。
 
ただそんなことはわかりきってることなので、だからこそ常に細心の注意を払い、検査や治療は行わなくてはいけない。
ということを改めて感じました。
 
ではでは