石川県加賀市の宮元陸市長は、北陸新幹線の米原ルートを特に強く押していることで知られています。

6/17(月)18:38配信の北陸放送・電子版の報道によりますと、宮元市長が「(リニア中央新幹線が全線開通して北陸新幹線の米原ルート竣工のタイミングで、東海道新幹線の)米原から新大阪までの区間をJR東海からJR西日本に移管すべき」と主張をしています。

同市長は、国が調整役を果たすようにも求めています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/7193b0b8c75522402905695ba6e0e733f319c084

 

しかし現実問題として、東海道新幹線の米原~新大阪間をJR東海からJR西日本へ移管するのはハイリスクです。

理由は、その区間の路線だけでなく施設もすべてJR西日本が買取るとなると、その金額は巨額(少なくとも1兆円)になり、JR西日本の財務状態をかなり悪化させるからです。

特に新大阪駅と鳥飼車両基地自体がJR東海の所有物であり、そこにJR西日本が間借りしているのが現状で、これも買い取るとなると、最悪の場合、JR西日本は債務超過に陥るリスクがあります。

又、東北・上越・北陸新幹線は、編成が東京方から1号車の順となっており、東海道・山陽・九州新幹線は東京方が16号車となっています。

この為、仮に北陸新幹線が米原駅から東海道新幹線へ乗り入れるとすると、北陸新幹線からの直通列車は新大阪方が12号車となり、ホームの乗車位置掲示を列車ごとに利用客にわかるようにする必要が生じます。

東海道新幹線はすべて16両編成なので、ホームドアも12両編成の北陸新幹線に対応させるように調整する必要が生じます。

このような設備投資もJR西日本が行わなくてはならなくなる為、財務状態をさらに圧迫することになります。

政治家は企業経営については素人なので、静岡県の川勝前知事ほどでないにしても、発想だけで実現困難な事柄が多くなります。

 

このように申し上げているのには、次のような理由があります。

乗務員の交代についてJR東海ならば、旧こだま(1958~1964)のように、のぞみは米原駅を通過してから車内で交代することを強く主張するでしょう。

その為、JR西日本は名古屋駅に、JR東海は京都駅に乗務員の詰め所をそれぞれ設置する必要が生じ、業務効率が悪くなり収益性を下げる一因となります。

(旧こだまは横浜~名古屋間が無停車のため安部川の鉄橋を通過中に乗務員が交代)

 

この他に技術的な面で重大な問題があります。

東北・上越・北陸新幹線は東海道・山陽新幹線とは制御方式が異なる為、E7/W7系車両に東海道新幹線に対応した制御機器や車体傾斜機構を追加搭載し最高速度を275㎞から285㎞へ引上げる大幅な改修が必要になります。

あるいは、JR東海が開発したN700S系車両は床下機器のスペースに余裕があり車体傾斜機構を搭載しているので、N700S系に北陸新幹線の制御機構を追加搭載するのか・・・の2択になります。

N700S系車両は開発当初から最高速度が300㎞対応なので、現実的にはN700S系車両に北陸新幹線の制御機構を追加搭載する方が簡単です。

その車両費用に加えて移管費用をJR西日本が担するだけの財務体力があるのか、慎重に確認する必要があります。

 

拙案は米原から新大阪までの区間をJR東海からJR西日本に移管せず、その区間の収益の一部をJR西日本に分配(企業取引でよくある紹介手数料のニュアンス)することで、その為に北陸新幹線の全列車を米原停車とします。

その際に控除するのは次の費用です。

・米原~新大阪間の乗務員の人件費

・同区間の北陸新幹線乗入れの為の設備投資に伴う減価償却費

その際、北陸新幹線の車両を米原~新大阪間で運行する車両使用料と相殺し、生じた差額に一定の分配金を加算してを精算します。

これならば、JR西日本の直接投資は、乗入れするE7/W7系車両の改修費用もしくはN700S系車両の導入及びだけで済みます。

 

JR西日本はJR東海より財務状態が芳しくない為、加賀市の宮元市長の主張である移管を実行するには、国がいくらか補助してもJR西日本の財務を圧迫するのは間違いありません。

国がJR東海からいったん買い取ってJR西日本へ貸与する長期リースにしても、JR西日本には巨額のリース負債が生じます。