進路相談の三者面談には、母親が同席する家庭が普通なのに、私の場合は父が仕事を途中で抜け出してやって来ました。

父は開口一番「うちの子の現在の成績はわかっていますので、これから1年間は徹底的なスパルタ教育で京都大学医学部へ合格するようにシゴイて下さい」と言い出しました。

担任は「本人の志望を聞いたことはありますか?」と返してきました。

父は「コイツの意思はどうでもいいんです。大事なのは我が家が医者の家系であり、その社会的責任を果たさなくてはならないことです」とブチ上げました。

私が父に「自分かて医学部やなくて工学部やんか!」とけしかけたところ、父は「お父さんには止むに止まれぬ事情があったんだ」とはぐらかし「今日はお前の進路を決める日だ」と私の挑発をかわしました。

 

担任は「本人がもし、医者以外の職業を望んでいたらどうされますか?」と父に尋ねたところ、父は「そんなことは断じて許しません!」と明言しました。

そこで私は「高校を卒業したら就職して1人暮らしをして本当の希望を実現する為にお金を貯めます。なので日本の大学は受験しません。今日の三者面談はこれで終わりにして下さい」と言いました。

父は怒りで手が震えていました。

担任も「時間が押していて次の順番がありますので・・・」と切り上げてくれたので、その日の話し合いは終わりになりました。

その晩、父が帰宅しても部屋に閉じこもったままで、翌朝も父とは一言も交わしませんでした。

 

結局、本当は憧れていた指揮者への想いを父に言うことができませんでした。

仮に言ったとしても、PTSD級のモラルハラスメントをされて否定されたに違いありません。

しかし、それを口実に父を逆勘当して独り暮らしになって就職して軍資金を作った上で、ミュンヘン音楽大学(現=ミュンヘン音楽・演劇大学)を受験して自分の才能の有無を見極めるくらいはしたかった、との気持ちは今も変わりません。

本当の志望進路を父に言えず、今も後悔しています。