エルニーニョ現象にもかかわらずヒートアイランド化した東京をはじめ日本各地では、今年も猛暑です。

金持ちの弟が久々に一家4人で涼しい北ヨーロッパへ旅行に行ってきました。

彼は、フィンランド航空がお気に入りです。

一旦ヘルシンキへ行き、そこから同じフィンランド航空の短距離国際線へ乗り継ぐと、乗り継ぎ割引が受けられてかなりお得なのだそうです。

 

私も一度だけフィンランド航空に乗ったことがあります。

1979年の夏に父の外遊にかばん持ちで随伴し、オランダのアムステルからドイツのハンブルクへの移動の時のことでした。

その時の機種は確かボーイング727という小型機で、アムステルダムからハンブルクを経由してヘルシンキへ向かう便でした。

(全日空のボーイング727型機)

飛行機がプッシュバックされて動き出し、機長からのアナウンスが入りました。

当然ながらフィンランド語で、日本語と同じアジア系言語なのにまったく違った響きでびっくりしました。

その後に客室乗務員がオランダ語とドイツ語とフランス語でアナウンスしました。

機内アナウンスは以上の4ヶ国語で英語がないまま終わりでした。

私と父の前の席には強いイギリス訛りの老夫婦が乗っており、父が言うには「フィンランド語を馬鹿にしている。あれが言語か?と言っている」とのことでした。

 

乗務員が機内を巡回して周り、乗客がシートベルトをちゃんと装着しているのかを確認しに来ました。

アナウンスが終わってしまって機内がシーンとなってしまい、老夫婦のご主人は乗務員を呼び止めて『英語での機内アナウンスはないのか?』のような趣旨のことを、かなり怒った口調で口走りました。

ベテランらしい女性乗務員はドイツ語で

  Sprechen Sie Deutsch oder Franzoesisch?

と言いました。

要は『ドイツ語かフランス語は話せますか?』と問いかけましたが、老紳士はさらに怒った口調で何か口走りました。

乗務員はゆっくりとした口調で

  Entschuldigen Sie bitte, sprache ich kaum Englisch.

と答えました(申し訳ございません、私は英語が全く話せません)。

それでも老紳士は英語でまくしたて続け、父の要約によると『私はグレートブリテンの国民だ。大英帝国の躍進があって英語は世界共通語になったのに、英語を話せないとは何たる非常識だ!』とのことでした。

この時、機長からフィンランド語で一言アナウンスがあり、女性乗務員はドイツ語で「離陸するので私も乗務員席に座らなくてはなりません」と言って足早に立ち去りました。

 

そこから、父のお節介が始まりました。

その老紳士に得意の英語で『英語のアナウンスがない国際線は結構ありますよ。私は毎年海外出張しますが、例えばインドネシアからアムステルダムへ向かうオランダ航空の便ではインドネシア語とオランダ語とドイツ語とフランス語のアナウンスだけですよ』という趣旨のことを言ってなだめたつもりだったそうです。

これに対し、老夫婦は『もう二度とフィンランド航空には乗らない』と返してきたそうです。

 

飛行機が巡航高度に達するとシートベルトのサインが消え、今度は男性の客室乗務員が私達の前の席のイギリス人乗客の席へやって来ました。

父が要約するには『英語でのアナウンスをしなかったのは、アムステルダムを出発する1時間前に空港から受け取った乗客名簿にはイギリス人やアメリカ人の乗客がいないことが分かったからです』との釈明だったそうです。

しかし“sorry”という詫びの単語はなく、イギリス人の老紳士は怒ったままでした。

父は英語のほかにドイツ語やフランス語(他にロシア語)も話せたので事なきを得ましたが、英語のアナウンスがない国際線は、私にはまったく理解できない事態でした。