ステレオ録音そのものは、アメリカで1939年から行われています。

ただし、レコード向けではなく映画“オズの魔法使い”のサウンドトラックとして録音されています。

ドイツでは、後のレコード録音につながるものとして1944年に旧・ドイツ帝国放送が磁気テープによるステレオ録音を行っています。

現存している1940年代のステレオ録音はヴァルター・ギーゼキングによるベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番です。

 

レコード会社によるステレオ録音の開始時期はかなりばらつきがあります。

私が知る限りでは、英DECCAが1953年に一部のアーティスト限定で開始しました。

翌1954年には米RCAと英EMIが同じく一部のアーティスト限定で開始しました。

1955年には独EMIも限定的ながらステレオ録音を開始しました。

他のレコード会社がステレオ録音へ移行したのは1957年以降のことです。

https://ameblo.jp/joseph-99/entry-12677472572.html

5月30日の記事(↓)で述べたように、英EMIは本当はフルトヴェングラーのステレオ録音を行いたかったのですが、フルトヴェングラーやクレンペラーはレコード録音を「インチキ商法(注)」と批判しており、聞いた話では、フルヴェンはマイクは1本しか設置を認めなかったとのことです。

https://ameblo.jp/joseph-99/entry-12677472572.html

ステレオ録音の為にはマイクは最低2本必要ですから、フルヴェンにステレオ録音の話をしたら激怒した可能性があります。

(注)

プロデューサーにとって演奏上のミスは商品としてマイナスなので編集の必要があります。

フルヴェンは、演奏上のミスを別録りのテープでツギハギするのは「本当の演奏ではない」と主張しました。

その為、フルヴェンのレコード録音は一発録りでした。

(オットー・クレンペラーも、編集を認めなかった為にミスが残っている録音が存在します)

 

1952年にアメリカでマルチチャンネル対応のテープレコーダーが登場しましたが巨額な機材で、ごく一部のレコード会社が導入したのみだったようです。

遅くとも1953年には複数のマイクで収音し、バランスエンジニアが各マイクの音量を調整してミキシングアンプで1チャンネルにまとめるという録音工程が主流になりました。

この方式を拡大してステレオで録音するにはミキシングアンプがもう1台必要になり、レコード会社には巨額の出費となることから、1950年代前半にステレオ録音を開始したレコード会社は米RCAと英DECCAと英EMI等にとどまったようです。

1954年時点でステレオ録音が普及しなかったもう一つの理由が、レコードをステレオ再生する規格が統一されておらず、仮に統一されてもその再生装置が高額になって一般家庭へすぐには普及しないとみられていたことです。

1958年にステレオカートリッジが290米ドル(当時)から29米ドル(同)へ大幅に値下がりしてから、裕福な家庭にステレオのレコードプレーヤーが普及するようになりました。

しかし、一般家庭にステレオのオーディオ機器が普及するようになったのは1960年代半ばです。