1970年代~1980年代は、独墺系のヴァイオリニストは不遇でした。

人数的には結構いたようですが、日本ではレコードが発売されませんでした。

例外はカラヤンお気に入りのアンネ=ゾフィー・ムターAnne-Sophie Mutter(1963年生)くらいで、不遇の代表格がウルフ・ヘルシャーUlf Hoelscher(1942年生)とその妹のグンヒルト・ヘルシャーGunhild Hoelscher(1953年生)です。

 

1980年代半ばに、あるレコード店の輸入盤コーナーで偶然見つけたのが、ヘルシャー兄によるシューマンのヴァイオリン協奏曲でした。

指揮者はマレク・ヤノフスキーでオケはシュターツカペレ・ドレスデンだったので、ソリスト・指揮者・オケのすべてをドイツ勢で固めた、当時としては珍しい組合せでした。

「ここで逃したら他の誰かに買われてしまう」と思ってそのレコードを衝動買いしました。

ヘルシャー兄は、当時日本では全く無名だったにもかかわらず、レコードの演奏はドイツ的情感豊かな実に見事な出来で、日本で発売されない理由を考えてしまいました。

本国ドイツでは、戦前に活躍した往年の大ヴァイオリニスト『ゲオルク・クーレンカンプGeorg Kulenkampff (1898~1948)の再来』と高く評価されていました。

 

今でこそ、ドイツのフランク・ペーター・ツィメルマンFrank Peter Zimmermann(1965年生)やオーストリアのトーマス・ツェートマイアーThomas Zehetmair(1961年生)やユリア・フィッシャーJulia Fischer (1983年生)が活躍する時代になりました。

しかし、1950年代~1970年代前半に活躍したヴォルフガング・シュナイダーハンWolfgang Schneiderhan(1915~2002)やヴォルフガング・マルシュナーWolfgang Marschner(1926~2020)やズザーネ・ラウテンバッハーSusanne Lautenbacher (1932年生)の後の時代に活躍しながら、レコード会社の都合で隠れてしまっているのがヘルシャー兄妹です。

 

もともとヘルシャー兄は、メジャー曲よりも秀作なのに不当に忘れられた作品をレパートリーの中心に据えていた為、ドイツのEMIは積極的に録音を行っていながら日本のEMIは発売を見送ったようです。

(ヘルシャー妹は1970年代半ばあたりから室内楽を主宰するようになった為、日本のレコード会社は見向きもしなかったようです)

下の動画はルドルフ・ケンペによるリヒャルト・シュトラウスの管弦楽作品全曲録音の一環で収録されたリヒャルト・シュトラウスの初期の作品のヴァイオリン協奏曲です(ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン=ドイツ勢で固めた演奏です)。

メジャー曲でも、シューマンのヴァイオリン協奏曲のB面のメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲や、同じくドイツ勢で固めたブラームスのヴァイオリン協奏曲(クラウス・テンシュテット指揮北ドイツ放響)は、ドイツ人指揮者とドイツのオケによるまさにドイツの響きと当然ながら最高に調和していました。

アメリカ系を中心とする非独墺系のヴァイオリニストからは絶対に聴けない深い精神性を湛えており、日本人にもっと聴いてほしいヴァイオリニストです。