1/26(金)1830

最後の観劇。9列目センターブロック。

本当にどまんなか。

めっちゃ演者と視線が合ってドギマギ…


上を見上げると、今日は3階のサイドも販売していたようですね。尻上がりに動員が上がっていくのは作品のポテンシャルが優れている証拠。拍手


回を重ねてきて、黒死病や、早駆けの場面にアドリブや遊びが生まれて、重い芝居が一瞬ほっこりするのも楽しみでした。


そして今日最後の観劇を終えましたが、いろんな思いが渦巻いてまとまりそうもありません。


 悪女ってなんだろう

国や時代によっても違うでしょうが、まずは(でしゃばるな)という圧を感じます。やはり男にとって都合の悪い女。男の尊厳を傷つけたり(時には男より優秀だったり)、自分の思いどおりにならなかったり(美しくて多くの男にもてはやされたり、嫉妬深くて自分を束縛したり)。あくまで男社会から見てままならない場合、悪女と言われそうです。

自分がいかに贅沢して暮らせるかで都合のいい方に取り入る生き方、それを「幸せになりたかっただけ」という方向にまとめているのかなーと思いますが、さすがにちょっと共感は難しい。

ただ個人の幸せはたしかにだいじではあるものの、国や民を犠牲にしていいものではないことは後世からだから言えることで、当時の「今」を生きている彼女にとっては、自分の都合こそが唯一の真実。「これが私の人生」と言い切れるのが、自分の衝動に正直に生きたからこその証なんだろうなということは腑に落ちます。


女は政治に口を出すなと言われていた時代、優秀で時勢を読む能力のあった女性も、(出過ぎた場合は)悪女と括られていたかもしれません。この作品中ヨランドは更にその上をいく頭の良さで、自分は決して表には出ないでやりたいことを実現する力を持っていたようです。現代にも通ずるものがある賢い人ですね。ここまでの賢さがあれば「悪女」とは言われずにすんだでしょう。その点イザボーは不器用で損なタイプだったのかも。


 親子の関係

親子についても考えさせられました。

イザボーは12人の子どもを産んだとのことで、今でこそ(信じがたい人数!)と思いますが、ちょっと前まで(第二次世界大戦の頃)日本でも10人きょうだいは珍しくもなかった。単純に死ぬ確率が高いのでたくさん産んだわけなんですが、たった一人の子どもでも気が合わない親子っているもので、多ければ更にその確率は増します。

親子の関係は幼い頃は絶対的な力の差があるものの、子どもが成長するにつれそのバランスが崩れていく。親が年をとると力が逆転するときは必ずくるので、うまく子離れができないと不幸の温床ともなりがちだよな、とかツラツラ考えながら見てました。

もうひとつパラドックスがあって、親にとって子どもが多いことは喜ばしいことだけれど、同世代のきょうだい(特に男子)にとってはライバルが増えるだけという、認識のズレが親世代としてはじれったい。イザボーでも【王弟】という存在が台風の目となっていましたが、今でも男のきょうだいに同じ商売をさせるなというのはよく言われる話で、昔も今もそう変わってないのだなーと。


イケイケだった一幕前半を経て、段々と歯車が狂っていく一幕の終わりごろ、「これを不幸のどん底にしよう」と高らかに歌って芝居としては最高潮に盛りあがるのだけれど(望海さんは超絶カッコいいのですが…)、それで勇気が出るというよりは愚かなのか強がりなのかと、私には切なくて泣けました。


 そして戦争…


この作品には直接戦闘場面は出てこないものの、時は英仏百年戦争のまっただなか。

サラッと外からみて、イギリスがフランスに侵攻してきて領土と王権の取り合いをしている図式で、実際に当時生きていた庶民にとっては、農地が荒らされたり徴兵されたりでまったく迷惑な話ですが、利権のからむ支配階級では死活問題。有利な方に取り入って利権を守る、イザボーはいわばその才能に長けていたわけなのに、土壇場で成功できなかった。それはつまり、、、わかりやすく目立っちゃったからだよね。

それとは逆にヨランドは「自分は波に乗った」と歌う。つまり家系と利権を守るために、策を弄してより狡猾に立ち回ったと言えるのでしょう。ほんとは隠れ悪女なのかも…?


しかしこのあとの歴史を知る者としては、ジャンヌ・ダルクがイギリスに捕らえられたとき、その頃のルールで言えば身代金を払えば助けられたのに、いわば恩人のジャンヌを見殺しにしたシャルル7世は「ひとでなし」と呼ばれることになったし、百年戦争が終わってしばらくたつと、シャルル7世の家系は廃れてしまって、ブルボン王朝に通じる家系となったのはオルレアン公ルイの子孫だったというのが、なんとも皮肉な感じ。とは言え、ブルボン王朝も結局は途絶えてしまいましたけどね。




 実際イザボーってどうなのか?


トロワ条約でフランスを売り渡した、史上最悪の王妃ということで実にセンセーショナルに描かれてますが、実際のところフランス人にとってイザボーってどうなの?というのは気にかかるところ。

日本でも歴史的に三大悪女というのがいて、北条政子、日野富子、淀殿というのが定番。イメージとしてはどの女性も支配階級の近くにいて、自身強くて、権力に固執し、ときに嫉妬深い女性。だからといって日本人が彼女たちを嫌悪しているかと言うと、そうでもないですよね。陸続きのヨーロッパのように国を賭けての闘争に割に無縁ではあったものの、狭いとは言え自分たちの土地や家族を守る意識はあったと思いますが、支配階級の人に対してそこまでの感情的な嫌悪はないのでは?私だけではなく日本人一般に。むしろ日本人が特殊なのかもしれませんが(?)、ふつうのフランス人がイザボーに対してどんな感情を持っているのか聞いてみたいものです。



東京はあと4日6公演、私も10日で3回のソワレをなんとか乗り切りました。

5回取れた公演、1回は娘に、1回は知人に譲りましたが、3回観てもいろいろ消化しきれなかったものの、回数的にはこれくらいでベスト。

娘は「パフォーマンスはすばらしかったけど疲れた」、知人は「重かった。一幕はちょっと単調なところがあったけど後半よかった」との感想でした。

これを毎日続けて公演する演者の方のエネルギーを思うと、まさしく超人ですね。

大阪の千秋楽まで、無事と成功を祈っています。


あ、そうそう今回は正面からPVを見られました!