最後はやはり、望海ベートーヴェンについて書かなければです。
そして以下、ネタバレあります。
名前があまりにも巨大で特に調べようと思ったことのない人物ですが、さて生い立ちや人となりについて何を知っているかと言うと、曲を知っているほどには何も知らないことに驚きます。芸術家は作品が全てで、魂も命も込めて仕上げますから、それで充分とも言えますが。
すばらしい音楽や絵を残した人もひどい飲んだくれだったり、金銭感覚がずれてたり、(男性の場合)女癖が悪くて妻を泣かせてばかりだったり、今で言うサイコパスだったり、人格者なんて逆にエセという風潮も無きにしもあらずで…芸術家は人格破綻者でも不思議はないくらいに一般的には思われてるかと。
そしてベートーヴェン、ちょこっと手元で調べてみると、周りの人からはやはりかなりの変わり者にうつっていたらしいです。自分の音楽に絶対の自信があって、王公貴族にもへつらわず、自らのたぎる思いを楽曲にぶつけていくタイプ。望海ベートーヴェンが夢の中のナポレオンに「お前はもてたじゃないか、腹の立つ!」とこぼしたようにはもてなかったわけでもないらしくて(笑)、後世で思われているほど醜男というわけでもなく、背丈も当時の一般男性の平均くらい。子ども時代は苦労したとはいえ、そこそこに成功してからは寄ってくる女性も多かったのでしょう。自分が望む関係であったかどうかはわかりませんが…妻と望む女性からは報われなかったのか、それとも妻という存在を無用としていたのか、結婚はしてないみたいですね。
作曲家なのに聴覚を20代で失ってしまったことは、彼を絶望に突き落とし、一層偏屈にも変えたのかもしれない。でも芯にあった音楽への熱量は途切れることなく、だからこそ今私たちが彼の遺産を享受できている。
天才とは言いながら、人間である以上、小さなことから大きなことまで、うまくいかないことについての葛藤はあったはずで、かつてトークスペシャルで、悩み苦しむ人物を演じたいと言っていた望海さんには相手にとって不足はなかったんじゃないかな。しかも芝居のことをずーーーっと考えてるという彼女と、音楽にとりつかれているベートーヴェンとは共通項もあったはずで。
身分でなく、知的レベルが自分と同等以上と評価できる人にだけ親交を求める徹底した実力主義。それはもう潔いほどで、自分の欲のために支配階級におもねったりすることを極端に嫌って、ゲーテにも自分を守るよう諭されたりする。純粋な人。一本気。逆の側面から見れば柔軟性がない、融通がきかない。美徳でもあり、欠点でもある。
そんなこんなを咀嚼して作り出したであろう望海ベートーヴェン。もちろんまだまだ進化していくとは思いますが、今の時点で私にはほぼ完成形に感じる。
あとは他の人物との関わりのなかで、またなにか気づくことがあるかもしれないけど。
きぃちゃん演ずる謎の女との関わりがその最たるものかと。
盛大にネタバレになってしまいますが、謎の女は「人類の不幸」の象徴。いつも誰のところにも静かに寄り添っていて、自らの一部であるのにそれに気がつかれず、疫病神のようにだだ疎まれている哀しい存在。
ベートーヴェンは耳が聞こえなくなったのに、彼女の言うことだけは聞こえるので、いつの間にかそばに置いて話を交わすようになって。ちょっとした蜜月時代?もあり、ベートーヴェンの家の小間使いさんが辞めてしまって、手近にいる彼女に簡単な家事を頼んだりして、そのやり取りが張りつめた物語の進行の中でもクスッと笑えて、ちょっとほっとする。
さまざまな挫折と別れの後に、彼女を受け入れたことでベートーヴェンは救われて、最後のシンフォニー、第9交響曲を書くことができるというクライマックスへの流れに。
この間、ゲーテとの邂逅があり、ロールヘンとゲルハルトとの決別があり、ナポレオンとの夢の中での和解と心通じ合わせるエピソードがあり、時代が上がったり下がったり、場所が飛んだりするだけでなく、夢と現の境もあやしくなって、ウエクミ先生の面目躍如といったところ。観客は置いていかれないように、流れに身を任すことが必須 (笑)。
でも4回目の今日、とても楽しめました。
3回目だった同行のお友だちも、今日が一番楽しかった!と言ってましたね。
今朝はオペラグラスを紛失するという手痛いトラブルがあって、芝居はオペラなしで観ましたが、それはそれで腰を据えて全体を観ることができて、却ってよかったです。幕間にホテルと劇場インフォメーションに走り、落とし物で戻ってきたので、ショーはオペラを使えてほっ。
帰りがけに通路でツイリーを拾得し、係のかたに届けました。情けは人の為ならずです。
贅沢な3日間が終わり、明日から木金土と仕事です。月初の忙しい時期に休んだので、それなりにがんばらなくちゃ。
それとコロナ…勢いが止まりませんね。宝塚歌劇もどうなるのか、心配です。望海さんの卒業作品、なんとしても東京でも上演してほしいです。