今回の遠征の最終日。
2階前方、センターで観劇。初見と同じ縦列の席番号で、舞台上ではたぶん0番位置。だって望海さんがいつも真正面に立つのだ。(深呼吸~)
お世話になったH様、ありがとうございますm(__)m

ナポレオンて個人的にはあまり好きな歴史上の人物ではないし、そして彼自身の故国でどう評価されているかも知らないが、ビッグネーム(尊敬に値するという意味ではなく)なことはたしか。フランス革命後の混沌のなかを突き進み、歴史の流れに一定の変化を与えた。その手段とやり方が正しかったかどうかはともかく。

この作品での描かれ方をみると、彼は早く生まれすぎた天才だったんだろうなぁと思う。「豊かな社会を作るためには、人と物と情報が自由に優れたものを交換できる世界をめざすべき」というのを聞いて、ベートーヴェンは「斬新だ…でもうまくいきそうだ」と答える。現代に生きる私たちからは自明の理でも、この時代は生きる社会が狭い。そして移動距離が、人も情報も短すぎる。理想としては理解できる。しかしいみじくもゲーテが指摘したように、「あなた(ナポレオン)のように皆は走れない」のだ。
一部の突き抜けたインテリには評価されても、ほとんどの人からは理解されない規格外の人物だったんだろうなぁ。そしてその事を自分自身でわかっている。「あなたほど本当のことを言ってもかまわないと思える人はいない」とゲーテに言わせ、「今私が言ったことは全てあなたの中にあること」と言われて納得する秀でた自己分析力の持ち主。

役柄二人ともはまってましたね。
咲ちゃんは味わいとしたら「ひかりふる路」のダントン路線。お顔がああいうかわいい系なので、ナポレオンの男っぽさ、ある種の酷薄さみたいなものをどういうふうに演じるのかと思いきや、お腹の底に力を入れたしっかりしたセリフ回しで、決断力の鋭さ、揺るぎない自信に納得させられた感じ。ただあんなに等身バランスのいいナポレオンはいないよな~(笑) 肖像画とかでよく知られているので、本人のビジュアルに寄せるのはいかにもムリ。

2013年、「春雷」(原作  若きウェルテル)に主演した翔ちゃんは、このキャスティングを神の啓示のように感じたのでは?若い頃のゲーテの自叙伝と言われている作品にゲーテとして単独主演を果たし、そして卒業作品でまた、成熟したゲーテと出会う。もちろん、ウエクミ先生の采配(神の手ね)はあったと思う。でも彼女自身、8年近く経って自分のなかで咀嚼してきたものを吐き出すには絶好の機会。そしてその機会を十二分に活かしているすばらしさ。ゲーテがあんなにいい男だったとは到底思えないけど(笑)、こういうしゃべり方しそうかもと思わされるたたみかける迫力に、客席も息をのむ緊迫感。

それで、芝居のセリフの一つ一つがいいですねぇ。ゲーテはもちろん文化人ですからその内容は含蓄があるし、ベートーヴェンのまっすぐな情熱がほとばしる熱を帯びたセリフもいい。ナポレオンの洞察に富んだセリフにも唸らされる。ウエクミ先生の専攻を調べてみたら文学部フランス文学。なるほどね~。もちろんみなさんご存じのように京都大学出身の才媛ですしね。

よく本を読んでいて思うのですが、作家って鳥の目を持ってますよね。いわゆる俯瞰図(または鳥瞰図)ってやつです。平面的でなく立体的に切り取る。一つの事象に、時間軸と場所軸を重ねて何層にも組み立てていく能力が並みの人間とは違う。舞台上では、大道具の回転する盆や上下するセリをうまく使って、下で現在のベートーヴェンが演じ、その目線より少し高いところに青年の頃のベートーヴェンがいたりする。同じ場面で時代が上がったり下がったり、場所が飛んだりするので、たぶん一度見たのでは(今の、なんだったの?)と腑に落ちない点も出てくるのはムリない。まして役者も、子ども時代と現在で変わったりしてるから。

一時間半で万人にわかるような台本を、しかも短期間で書けというのがそもそも無理な注文で、その上、演者をたくさん使わなければならないという、宝塚独特の制約もあり(笑) 劇中劇「若きウェルテルの悩み」で役を増やし、子ども時代を娘役に振るという助け船もつかって。今回は野々花ひまりちゃんが、ベートーヴェンの子ども役を。そしてちょっと驚きのキャスティングの離れ業、彩みちるちゃんがモーツァルトをかわいらしく演じてます。雪組、娘役の層もなにげに厚いですね。芝居巧者が多い。

本作で退団なのがきぃちゃんと茅桜ちゃんのほかは男役ばかりなので、バランスはどうなのかな?と思ったのですが、番手の上の生徒のほか、りーしゃ、まなはる、あすくんなど上級生もまだまだがんばってるし、おーじ、あやなちゃん、しゅわっち、はいちゃん、あがちん、あみちゃん、かりあん…ちょっと考えただけでもいるいる、次期咲ちゃん体制もまぁまぁだいじょうぶなのかな。(なんとなくさみしい気がするのはワガママ、、、わかってるタラー

最後にあーさのことも。
翔ちゃんと番手を争っているように見えたけれど、次の東上も発表になって一つ抜けた感じ。ただ本作では上級生に花を譲った形で、ショーのお揃いの衣装なども飾りが少し控えめなものになってる。
今回はゲルハルトという、ベートーヴェンの幼なじみで親友にして恋敵という役どころ。パトロン的な存在の家庭のお嬢さんと結婚し、自身は医者といういわば成功者。そしてベートーヴェンの行く末を心配してくれる数少ない知り合い。いい人過ぎて影が薄い、というか、、、むしろその相手が楽聖や英雄や文豪では分が悪すぎるショボーン あまりに強烈な個性と対峙する形で存在している、「良心の代表」と考えるべきか。
ベートーヴェンもこっちに振れたら楽だったのに…それができないのがベートーヴェンのベートーヴェンたる所以なのかもしれないけど。イメージとしては、自身演じた凱旋門のハイメに近い。穏やかないい人。あーさファンとしたらちょっと役不足に感じるかも。これだけじゃない。はい、わかってますとも。次回作、次々回作………あ~次があるっていいなぁ。