靴下専門誌を愛読
極太親父の一番長い日
第五話 「茜空の下で」
母 親:もしよければ
これから一緒にバッティングセンターに行きませんか?
息子たちがぜひ打ちたいと言ってるんです。
権乃助:は、はぁっ?
い、いや、しかし…。
ぼ、僕はヘルニアなんですが…。
母 親:それは重々承知しています。
ただ、私は息子に付き合うだけの元気がないので
権乃助さんしかいないのです。
まだまだお若いですし。
…それとも何かご用がおありですか?
正直なところ
この日の夕方6時くらいには予定が入っているが
現在の時刻が16時なのでまだ時間はある。
そして
ヘルニアを理由にしても引き下がらないので
他に断る理由が明確に浮かばない。
なので私は腹をくくり
“わかりました。では行きますか”と答えた。
しかし
あの方の弟とバッティングセンターに行くのはいいのだが
なぜあの方がついてくるのだろう?
あの方の家族と乗り込むエレベーター。
私はエレベーター移動の際のほんの数十秒間
いったい何を話していいのかわからず
ずっとエレベーターから見える
茜色に染まりつつある空を見つめていた。
ボーリング場と同じビルにあるバッティングセンター。
私はとりあえず
高校生の弟2人と一緒にバッターボックスに立ち
90キロや120キロを投げるマシンに対峙する。
だが
さきほどのボーリングで腰に違和感がある私が
フルスイングできるはずもなく
バットは宙をまわる。
いつもなら打てるはずなのに
やはり打てない。
私はふと視線を外に向けると
あの方が私をじっと見つめていた。
不意に目と目があうと
あの方は不意に視線をはずす。
額に汗が浮かぶ。
私があの方から別れを切り出されたとき
彼女は不意に視線をはずしていた。
そして
あの日も夕焼けがきれいだった。
はっ…。
私は封印していた記憶がまざまざとよみがえってしまい。
陳腐な表現だが
胸が張り裂けるような切なさに苛まされた。
結局心あらずのまま
約100球ほど対峙したところで
臨時バッティング大会は終了した。
弟2人は非常に満足したようで
バットの握りすぎで赤くなった手のひらをさすっていた。
私はというと
満足感というよりは腰の痛みがぶり返したようで
非常にディープだったのだが
社交辞令として母親に
“いやぁ、久しぶりに打ってスカッとしましたよ”
とかなんとか述べてみる。
再び我々はエレベーターに乗り込み
地上へと降りる。
その際
今日の感想を述べる弟たちに便乗したのか
あの方がこう呟いた。
“昔、みたいだね…”
私はその言葉には答えることができなかった。
地上に降りた我々は
“今日はありがとうございました”とか
“楽しかったです”とか
当たり障りのないトークをお互いに言いあい
“それじゃ、また”とか言って別れた。
お互いが反対方向を歩いているわけなのだが
私はふと後ろを振り返り
あの方を見つめる。
弟たちと談笑する彼女。
人ごみにまぎれながら
その姿はだんだん遠くなっていく。
私は、
私はいったいどうすれば…。
私は街の雑踏で人の波にもまれながら
ひとり今後のことを考える。
頭の中には
第一話で紹介した曲の一節が流れる。
http://www.youtube.com/watch?v=KipiNO6Fu6E&feature=related
“明日からはもう 僕のことなんかさ 忘れてくれたらいいのに”
空はあの日と同じように
茜色から夕闇へと変わりつつあった。
※おわび
第六話は作者の今後の動き次第なので未だ連載未定です。
あしからず。
くそ、バッティングセンターめ!
あれから5日くらい経ったがファック!
未だ腰の違和感が続くファック!
こりゃ完治はまだまだ先だぜ!
