「死ぬような思いをしなかった冒険は面白くない」と言う角幡唯介の冒険ノンフィクション。

 

チベットの奥地にある世界最大規模を誇るツアンポー峡谷。人跡未踏という人を寄せ付けないツアンポー峡谷を初踏査しようと挑戦する冒険を記した作品です。

 

2002年と2009年の2度にわたるツアンポー峡谷にある「空白の5マイル」という誰も足を踏み入れることができない峡谷への冒険が記されています。

 

角幡唯介は早稲田大学の探検部出身。

大学生の時に何気なく見つけた「世界の可能性を拓け」というキャッチフレーズの探検部のビラに眼をとめ、探検部に所属することに。

人跡未踏のジャングルをナタで切り開き、激流を渡り、険しい岸壁を乗り越える、といった探検を理想とする著者。

 

圧倒的な文章力と構成力。

過去の探検家の挑戦の歴史やエピソードを交えながら、自身の冒険を記していくという構成で、この無謀ともいえる挑戦に、作品を読んでいる自分自身も入り込んでいくような、臨場感があります。

 

この先いったいどうなるのか、といった予測不可能な冒険に終始ハラハラドキドキしながら読み進めると、どんどんと冒険に入り込んでしまい、あっという間に読み終えてしまいました。

 

「開高健ノンフィクション賞」「大宅壮一ノンフィクション賞」「梅棹忠夫・山と探検文学書」をトリプル受賞したというのも納得の内容でした。

 

はじめは「ツアンポー峡谷」と言われても、どこのことか分からない状態であった自分が、過去の探検の歴史や、地元民の桃源郷思想の話などを織り交ぜながら文章が進んでいくと、いつの間にか、いかにツアンポー峡谷が凄い場所であるか、が脳にしみついていき、著者の冒険がとても身近に感じてきて、自分自身も冒険に参加しているような、感覚になってきました。

 

読み物として魅力のある作品でした。

著者の文章力と構成力の賜物なのかなと感心した次第です。