ジョニー阿部を名乗る人物に僕は

 

「お店のシステムってなんですか?」

 

そう尋ねた。

 

「そうですね。まず、この店に入ってきて何か感じたことはありますか?」

 

ジョニー阿部氏がそう聞いていきた。

 

「そうですね・・・マスターが部愛想で、メニューがない・・・」

 

「なるほどなるほど」

 

「そして注文も聞かず消えて行った」

 

ジョニー阿部氏は、ニヤニヤ笑いながら、僕の話を聞いていた。

 

「ここ、メニューはないんですよ」

 

「え!?ないんですか?」

 

僕は驚いた。メニューのない喫茶店?なんだそれは?

 

「そう。この店にはメニューがないんですよ。その種明かしはあとでやりましょう。それよりも、貴方はなんのお仕事をしているのですか?見た所、営業のような・・・」

 

スーツ姿の僕をみて、ジョニー阿部氏は、僕が営業職だと気づいたのだろう。

 

「はい。営業です。まあ、なかなか売れなくて困っているんですがね・・・」

 

自虐的な笑いを交えて、僕がそう言うと、ジョニー阿部氏はまっすぐな目で僕をみて、こう言った。

 

「実は、私も以前に営業をやっていましてね。なんとかうまく結果を出して、今はこのようにのんびりと一日中、コーヒーを飲んでも大丈夫なような立場になりました。営業は大変ですか?」

 

なんと、このジョニー阿部氏も、昔は営業をやっていたとのこと。しかし、年齢からいって、まだ若い。それで現在、自由な時間があり余っているということは、何か一発当てた人なんだろうか?

 

「はい。とにかく大変です。どんなに商品を説明しても、商品の良さを説明しても、誰も買ってくれません。お願いしてなんとかお情けで買ってくれるといった感じです。いったい何がダメなんでしょうかね・・・」

 

ふーっとため息をつく。すると、ジョニー阿部氏は、柔らかい笑顔を見せて、僕にこう言った。

 

「なるほど。なんとなく貴方が売れない営業であることはよくわかりました」

 

事実であるが、初対面の男にいきなり売れない営業の烙印を押されるのは、やはり腹がたつ。

 

「え?いくら何でもそれはないんじゃないんですか?まだあって数分ですよ。それで僕が売れない営業であることが解るんですか?」

 

多少、ムッとして僕は言った。

 

「はい。よく解りました」

 

ジョニー阿部氏は、笑顔を崩さずにそう言った。そして続ける。

 

「もし、その答えを知りたいのならば、よかったら貴方の商品を私に営業してくれませんか?もし、その商品を私が気に入れば、即決で購入しましょう。金額はいくらでも構いません。キャッシュでお支払いします」

 

「え・・・ほんとですか・・・?」

 

僕は唖然とした。なんだかよくわからない展開だが、上司にアポを取ったと言った手前、これはラッキーだ。それに、運がよければ商品が売れるかもしれない。

 

僕は、慌てて商品紹介の準備を始めた。

 

続く