ジョニー阿部氏にそう言われ、僕は考えた。何故、一瞬でもその時計が欲しくなったのか。その答えは簡単だ。
「なんでって・・・お金が増えると思って」
ストレートすぎる答えだが、事実なのでしょうがない。ジョニー阿部氏は「うん」と頷く。
「正直でいいですね。ここで誤魔化してもっともらしい答えを出す人は成功しません。正直に答えるのが正解ですし、その答えが正しいです。実際に儲け話として話したわけですからね」
ジョニー阿部氏は、真面目な顔でそう答えた。
「あなたは時計自体には興味がないのかもしれない。しかし、この時計を買うことにより、自分に利益があると思った。違いますか?」
「そうです。確かに100万円もの大金を時計にかけるのは勿体無いですが、少し時間を置いて高く売れるならいいな。と思いました」
「そうですね。そして私は、この時計の機能などについては何も説明していません。ただ、この時計を安く買い、高く売れるものである、ということを話しただけです」
ジョニー阿部氏はそう言って、時計を僕の方に見せた。
「確かに。時計の機能などは聞いていません」
「あなたは先ほどのプレゼンで、私に一生懸命、商品の機能や特性を説明していましたが、私にはその商品を買うメリットが見当たらなかったんです。確かに、あなたの商品説明は非常に上手でした。よく勉強していて、熱心であることもわかりました。しかし、肝心な部分である「相手の利益」を教えてくれませんでした」
「相手の利益・・・ですか?」
「そうです。その商品を購入することで得られる、相手の利益を説明できていないのです」
ジョニー阿部氏が何を言わんとしているのかが、いまいちわからなかった。するとジョニー阿部氏は続けた。
「私は先ほどの時計で、この時計を買えば、金銭的な利益を得られることを伝えました。それにより、あなたは100万円を失うリスクよりも、プラスになる可能性を自分で導き出しました。つまり、この時計を買っても損をする可能性が低い。「投資」であることを無意識に自覚したわけです。これは私があなたに「利益」であることを伝えたからです」
「あ・・・確かに」
「誰かに物を売りたいのならば、まずはその商品がもたらす利益を、上手に顧客に伝える必要があります。ここができていないと、どんなにいい商品でも、顧客には売れません」
「利益を与える・・・」
僕はそう呟いた
続く