ジョニー阿部氏は、言葉を続ける。

 

「なんとなく理解できたようですが、顧客と会話をするだけでは商品は売れません。商品を顧客に欲しいと思わせるように誘導するのです」

 

「誘導・・・ですか」

 

僕はコーヒーをゴクリと飲む。

 

「そうです。しかし、誘導といっても顧客をだましたりするのではありません。あくまでも顧客からその商品を欲しい。と思わせること。そしてそう考えさせることです」

 

ジョニー阿部氏もそう言ってコーヒーをすする。

 

「商品を紹介しながら、顧客がその商品を欲しい、と思わせる・・・」

 

僕は少し考えんだ。言われてみれば確かに、そういう風に考えて営業はしたことがなかった。とにかく商品のよさをしっかりと紹介すれば、顧客はわかってくれると思っていたが、どうもそうじゃないようだ。

 

「では、例を出しましょう。あなたは時計をはめていますか?」

 

ジョニー阿部氏が、急にそう話を振ってきた。

 

「あ・・・はい。一応、営業マンは時計をするのが基本。と聞いていますから」

 

そう言って僕は、数万円ほどした三針の無難な時計を見せた。

 

「シンプルでいい時計です。ちなみに私はこの時計をつけています」

 

そう言ってジョニー阿部氏は、誰しもが知っている超有名時計の見せてくれた。腕時計に詳しくない僕でも、それが高級品であることはわかる。

 

「うわ・・・高そうですね」

 

思わずそう言ってしまった。

 

「ええ、この時計、今は200万円の値がついています。そして恐らく、1年後には300万円に上がっている可能性があります。それだけこのモデルは人気があり、かつ品薄なんです」

 

「ええ、そうなんですか?凄いな。ん・・・今はということは、ジョニー阿部さんが購入された時は、まだ安かったんですか?」

 

「はい。私が購入した時は100万円でした」

 

「え?100万円?いいな、もう倍の価値じゃないですか」

 

お金の話になり、妙に食いついてしまう。

 

「これは実は、海外から直接仕入れたんです。日本でこのモデルが高騰することは予測できていましたので、海外の安いお店から直接購入したんです。100万円、その時はかかりますが、値が上がって売却すれば、大きく利益を得る可能性がありましたからね」

 

「凄いな!!よく見つけましたね!!」

 

「ちなみに、海外のお店ではまだ100万円で売っていますよ」

 

ジョニー阿部氏がニヤリと笑う

 

「え!!ほんとですか!?」

 

と・・・その時、僕は気づいた。

 

「あ・・・・」

 

そんな僕を、ジョニー阿部氏はニヤニヤと笑って見ていた。

 

「少し、欲しくなったでしょ?この時計?」

 

ジョニー阿部氏にそう言われ、僕は多少、顔を紅潮させる。

 

「嘘・・・ですか?」

 

「嘘じゃあありません。本当の話です。しかし、あなたは今、この時計を少しでも欲しいと思った。それは何故か?考えて見てください」

 

続く