私は自分にとって故郷と言える場所がない。


引っ越しばかりの人生だった。

その中でたぶん、たくさんの処世術を

子供ながらに身につけていったのだと思う。


卒業式に特別な感慨はない。

幼馴染もいない。

懐かしい街並みもない。


成人式の招待状も届かなかった。


思い出すのは

ただただ緊張していたこと、

頑張っていたこと。


そしてそれらは、選ぶこともなく

当たり前として処理されてきた記憶。


だから、子供には故郷をあげたかった。

けれどそれは、私の中にある願いで、

ここにあるのは私の想いだけなのかもしれない。


それでも最近、少し思う。


本当に欲しかったのは、

気兼ねなくいられる関係だったのではないか、と。


「昔からそうだったよな」

「変わってないな」

「そこがいいところだな」


姿が変わっても、立場が変わっても、

そのままでいられる場所。


母でもなく、妻でもない。

ただの私。


理想だと言われるかもしれない。

ただの思い込みなのかもしれない。


それでも今、

私は自分の声を探している。


少し前から始めた身体をほぐすことも、

手探りではあるけれど、

確かに変化を感じている。


足に力が入る。


かつての勢いはまだ戻らないけれど、

もう少しなら外に出ても大丈夫かもしれない、

そんなふうに思える日がある。


子供のために選んだ街だった。

でも今は、私にとっても

ちゃんと住み慣れた場所になった。


あとは、自分だ。


前と同じ気持ちのまま出ていけば、

また同じ痛みを抱える。


鎧ではなく、

できれば自然な姿で。


今なら、

行けるかもしれない。