白箇沼から來たに進んだ山のふもとにその2匹は暮らしてゐた。
野ネズミの「うえい」と「ひゆう」だ。
どこでどう知り合つたかお互ひにもう忘れてしまつたがひつしか同じ巣で暮らすやうに成つたのだ。
 

一緒に暮らしてみるとお互ひに最初に言つてたことの半分も違ふぢやないかと云ふ戸惑ひもあつたが
それはお互ひ樣と言ふことでいつしか長い間ここにゐるのだ。
「さあ。今月もどうにか收まるところに收まつた。お疲れさん會で白箇沼で一杯やろうぢやないか。」
外に出て餌を取つて來る役割のひゆうが言ふ。
「ああ。さうさな。行かうか。」
偶に外には出るがすぐに巣に引きこもつてしまふうえいが言ふ。

 

さうして來る日も來る日もさう云ふ毎日の繰り返しを送つてゐた。
やがて彼らも年老いて仲間も一人、二人と櫛の齒が拔けるやうに天に還り殘りの仲間も若い頃に蓄へた
餌でゆつくりと流れる時間に身を置くやうに成つていつた。
 

「なんだい?なんだい?このごろはお疲れさん會はないのかい?」うえいが言ふ。
「何を言つてゐるんだい?もうわたしは外で餌も取れない身體に成つて何を慰安すればいいと言ふんだい?
どうしても華やかな場所でそれをしたいならキミが行つて餌を取つて來ておくれよ。」
ひゆうが言ふ。
「バカな!ボクは若い頃、大病を患つてさう云ふことが出來ないのはキミもしつてゐるだらう?」
「ずいぶん昔聞いたがそれはわたしと知り合ふ前の話し。實際ここに來てからキミは健康だろ?わたしより飮み喰ひ遊び・・毎日堪能しただらうよ。」
 

老いて毎日今度はお互ひこんな會話で貴重な時間を浪費していつた。

「そんな思ひまでしてどうして彼らは一緒にゐるのだい?さつさと別に暮らせばいいぢやないか?」
白箇沼のカラスたちはさういぶかつた。
さうして更に年月は過ぎうえいとひゆうも老いていく。
「どうしようか・・もう食べるものもないし・・巣も痛んで雨もしのげなくなつたぢやないか。キミ!せめて巣をどうにかしておくれ。」ひゆうが金切り聲をあげる。
「だから!ボクはそれは出來ぬのだ。あああ。キミの金切り聲でまた體調が・・・・さうだ。仲よくしてゐる野兔に頼んでみようか?」
「何を言つてるんだよ。野兔さんはとつくにわたしたちに愛想を盡かしてここ5年は逢つてゐないぢやないか?」
「でわ。ヤマネは?」
「とつくに南山のはうに巣を新築してここにはゐないよ。どうして人の力を當てにするんだい?不格好でもいいからどうにかしておくれよ?そして今日のご飯はどうするつもりだい?」
「わつたよ。キミがそこまで言ふなら道行く人に話を聞いてもらつて何か恵んでもらふさ。」
「ああ。どうしてキミは自分で何かしようと想はないんだい?」
日々言ひ爭ひは大きくなり近隣の巣まで響き渡る。
しかし殘酷にも時間は流れ更に二人を運んで行く。

「どうしたものでせうな?」白箇沼の神の使ひである梟は神に言つた。
「このままでよい。なぜならあれが彼らの幸せの形なのだ。」
「えつ・・何故ゆゑに。」
「あれが彼らの日常なのだ。でわ。聞くが。本當にもう駄目だと想つたらこれまで幾らでも別に暮らすことができたであらう?それをせず一緒にゐることを・・さう。罵りあいながら一緒に居ると言ふことはあれが彼らが目指す幸せの姿なのだ。」
「神樣 さうでせうか?長い間の習慣に成つてしかたなくさうせざるえないのではないでせうか?」
「ああ。さうだ。いいかい?梟よ。よく覺えておくのだ。あれも物の怪なのだ。それは白箇沼だけではなく命あるものの集まりの中で生まれる物の怪なのだ。」
「ど・・どう云ふ?」
「うむ。生きてゐればどうしても向き合はなくてはいけないことがある。それはたいてい面倒くさくなかには努力や勤勞など地道で苦しい事のはうが多い。しかしな誰だつてそんなことはしたくない。したくないがしなければ後の自分に倍の慘状と成つて歸つて來る。そこで自分に折り合ひを附けて乘り越える。しかしだ。その時 そんなこたあ後でもいいよつて云ふ囁きが聞こえそれを肯定し合ふ相手が現れる。日々それをうつちやつて生きてしまふ。肯定しながらな。だからあの巣の中ではそこだけの眞理があるつて云ふわけで一緒に居る事で更に肯定感が強くなりもう外とは違ふ世界が出來上がるのだ。」
「なんだか難しいです。」
「まあ。巣の中の常識で生きる事がすべてと成ると云ふこと。だからこそもう違ふ常識の外でやり直すと云ふ選擇肢はなくなるのぢや。」
「なるほど。」
「梟よ。これからもさう云ふ者が出て來るであらう。さう言ふ者に附いてゐる物の怪のせゐなのだ。おまへのその夜でも見渡せる目でこれからの若い者たちを注意深く見て手を打つのだ。そしてあのうえいとひゆうを反面教師として學ぶことを教へるのだ。」
「神樣 その物の怪の名前とは?
「ああ。そいつを共依存と呼ぶ。」