あの頃の喫茶店はインベーダーゲームがまっさかりでね。

もちろん吾も通ったものさ。

 

雪街の繁華街から少し外れたところにその喫茶店はあった。

バイトに行くときにその店の前を通るのだがいつも若者でにぎわう店とはちょっと違ってね。

アーチ状のレンガで縁取った窓が印象的な店だった。

吾が通る時間は16:00時

四つある窓の一番奥にいつも彼女が座っていた。

いつも本を読んでいる姿はその窓と相まって一枚の絵のようだったよ。

 

すこし早くアパートを出てその店に行くようになった。

その店は今でいうギャラリー喫茶で美術書や外国のファッション雑誌など置いてあり

とても大人の知的な匂いがした。

ママが彼女にかける声で彼女の名前を知った。

吾よりひとつ上の看護学生であった。

 

一目ぼれをしたんだと思う。

数か月通い 吾もそこの常連の末席に座るころ勇気を出して

彼女に声をかけた。

「いつも何を読んでいるの?」

そっと本から顔をあげた彼女は

微笑んでその本を吾に手渡した。

新しいドラマの始まりであった。

78年 雪街で・・・・・

 

 

蜻蛉がつがいとなって飛びその生を終える季節

やがて来る冬を前に可憐で謙虚な美しさをひっそりと見せるコスモス

そして今日と言う時間の流れに印をつけるべくこれでもかと燃える夕日

 

嗚呼

幾度、吾らはここに立っただろう

町から去りゆく友を毎日見送った炭鉱町で

そこに行って何も保障の無い中で夢を追いかけるべきかと自分に問うたあの日

一度も振り返らず駅の階段を上って行ってしまったあの子の姿

それは「時間」のなかに鮮やかに記憶されているに違いない。

すべての者がそれぞれ時間軸の上にドラマを書き込んでいく

その時の音 匂い 景色 物 日常のちょっとしたモノがドラマを鮮やかに蘇らせる

生きていくということは

何気ない日常という時間にドラマを書き込んでいくことなのかもしれないね。

さあ。今宵はどんなドラマを書いておこうか。

 

 

 

「女の戀は上書きで 男の戀は保存と言ふよ。」と誰かが云つたさうな。

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ひもじさに見上げた時も
打ち手がつきて見上げた時も
キミを失ひ見上げた時も
大きな選擇を迫られ見上げた時も
あなたは凛としてそこに浮かんでゐたね。

 

さうしてまた懲りずにこれが最後の戀だと見上げるのだらう

さう云ふ巷の愚かしくも繰り返される行ひを
あなたはそつと見守り續けてきたんだね。

通り過ぎたたくさんの「キミ」
月の光を浴びる姿はみんな 美しく
吾らを虜にする魔性の光なのだと知りつつも・・・・