あの頃の喫茶店はインベーダーゲームがまっさかりでね。
もちろん吾も通ったものさ。
雪街の繁華街から少し外れたところにその喫茶店はあった。
バイトに行くときにその店の前を通るのだがいつも若者でにぎわう店とはちょっと違ってね。
アーチ状のレンガで縁取った窓が印象的な店だった。
吾が通る時間は16:00時
四つある窓の一番奥にいつも彼女が座っていた。
いつも本を読んでいる姿はその窓と相まって一枚の絵のようだったよ。
すこし早くアパートを出てその店に行くようになった。
その店は今でいうギャラリー喫茶で美術書や外国のファッション雑誌など置いてあり
とても大人の知的な匂いがした。
ママが彼女にかける声で彼女の名前を知った。
吾よりひとつ上の看護学生であった。
一目ぼれをしたんだと思う。
数か月通い 吾もそこの常連の末席に座るころ勇気を出して
彼女に声をかけた。
「いつも何を読んでいるの?」
そっと本から顔をあげた彼女は
微笑んでその本を吾に手渡した。
新しいドラマの始まりであった。
78年 雪街で・・・・・