ただひとつの愛というものが

本当にあるとしたら

それは綺麗にカットされたダイヤモンドなのか

焼き上げられた陶器なのか


強情っぱりの彼女が素直にyes.と言うとき

彼の瞳は輝くのだろうか


say hello to me


部屋には何もない


say good night to me





由紀はクリスティを読んでいた

大きな白いデッキチェアーに横たわって

由良は姉の足下で寝転がって、次第に赤く染まってゆく東の空を眺めている

松子はベランダの手すりに寄りかかって

タバコをくゆらせる

水平線に一筋の光線が一気に広がって

そこから生まれ落ちるみずみずしい太陽が

由良の顔を正面から照らし

松子の緩やかで細長い肢体を後ろから照らし上げた

由紀はまぶしそうに顔をしかめ、

肘をついていた丸いテーブルの上の

木の葉の装飾のランプをぷちりと消した

由良は立ち上がってキッチンの方へ歩いていった


一週間ほど毎日繰り返された夜と朝焼けがまた彼女たちを迎える


その白い簡素でしたたかな木造の家は

この3人の夏の思い出の家であり

また姉妹の父の思い出でもあった

ヨットを趣味としていた彼女たちの父は

夏になると娘たちを連れて一ヶ月ほどこの家で夏を過ごした

娘は海に関心を示さなかったが

父が繰るヨットの帆や

その白い船体の優美さを愛した


白いホットパンツを履いた細く綺麗な脚の由良は

ばらばらのコーヒーカップを3つと大きなポットを持ってベランダに戻ってきた

松子は由紀のそばのテーブルの上に置いた貝殻に10本目のタバコを消した


「マープルみたいに背中が曲がってるわよ」

めがねを外していかにも目が疲れたというような仕草をした由紀に、松子が皮肉っぽく言った


由紀は、「情婦」を読んでいた

この夏はクリスティを読破すると宣言し、

今はちょうど、ポアロとパーカー・パインにさよならをして

短編集に移ったところだった


「おばあちゃんの話だと思うと気が乗らないのよね。

クリスティの話には美男が少なすぎるわ」


由良は、気持ちよさそうにのびをして、短く切りそろえた髪の毛に手を埋めた

「私、下へ行って泳いでくるね」

と言って、カップについだコーヒーを熱そうにすすると、

杭にかけてあったローブを取って下へ降りていった