John Doe3のブログ

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東京大学出版会  佐橋 亮・梅川 健  編

 

本書を読み終えた後、アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を始めた。

しかし、本書は、2025年8月に出版されたもので、この攻撃とは直接な繋がりがあるわけではない。それどころか、2026年に入ってトランプ政権の外交戦略は大きく変更したようにも思える。

 

しかし、今まで断片的な知識である程度知っていると思っていたアメリカという国の現状を再度確認しなければ、この攻撃が今までの戦略の継続なのか進展なのかそれとも変更なのかもわからない。

 

現状の再確認のなかで、特に、興味を持っていたのは、本来は労働者の党と思われていた民主党が、なぜあれほど共和党に票を奪われたのか、トランプに票を奪われたのか、ということと、アメリカの内政から波及した外交姿勢がこれほどまでに変容した理由だ。

そして、それはトランプ以降にもどのような影響を与え続けるのかだ。

 

 この本は単なる時事批評ではなく、日本を代表するアメリカ政治・外交研究者たちが多角的に分析を行っているのが特徴。

そして、本書の中で特に際立っている、あるいは中心となっている視点は以下の通り。


​本書の主な視点と際立つ意見
​1. 「トランプ現象」は一時的な逸脱ではない
​トランプ前大統領の登場を「突然変異」として片付けるのではなく、アメリカ社会が長年抱えてきた構造的な分断(経済格差、文化的な対立、人口動態の変化)の必然的な帰結として捉えている。トランプ氏が去っても、彼を生んだ土壌は残り続けるという厳しい現状認識が示されている。


​2. 内政と外交の「不可分性」
​タイトルの通り、アメリカの内政(国内の混乱)が直接的に外交方針に反映されている点を強調している。
​国内の労働者層の支持を繋ぎ止めるために、従来の自由貿易や同盟重視の姿勢を捨て、「自国第一主義(アメリカ・ファースト)」へ転換せざるを得ない構造を分析している。


​3. 国際秩序の「変容」への客観的分析
​トランプ政権が既存の国際秩序を壊したという側面だけでなく、それによって「世界がアメリカをどう見るようになったか」、そして「アメリカ抜き、あるいはアメリカが消極的な世界でどう秩序を再構築するか」という問いを投げかけている。


​4. 日本へのインプリケーション(示唆)
​日本の研究者による編著であるため、アメリカの変容が日米同盟やアジア太平洋の安全保障にどのような長期的影響を及ぼすかについて、非常に精緻な分析がなされている。感情的なトランプ批判や擁護ではなく、「日本はどう立ち回るべきか」という冷徹なリアリズムに基づいた意見が際立つ。

 

 

2016年や2024年の大統領選挙において、全米レベルでの「得票数(一般投票数)」では民主党候補がリード、あるいは拮抗していたにもかかわらず、なぜそれがトランプ現象という「大きな変動(地殻変動)」になったのか。
 

​本書『トランプのアメリカ』の執筆陣(特に選挙制度や政治過程を専門とする梅川健氏ら)の視点からは、以下のような「数字の僅差以上に深刻な構造変化」が分析のポイントとなっている。


​1. 「勝者総取り方式」が生む断層の可視化
​アメリカの大統領選挙は、各州の勝者がその州の選挙人をすべて獲得する仕組み。
​分析の核心: 全米の得票総数では数パーセントの差しかなくても、中西部の「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」の数州で、わずか数万票の差でひっくり返ったことが、「これまでの民主党の地盤が崩壊した」という強烈なメッセージとして機能した。この「わずかな差による逆転」が、政治的なパワーバランスを劇的に変えてしまったと分析している。


​2. 「都市 vs 地方」の完全な分離
​得票数は拮抗していても、その「中身(地理的分布)」が極端に偏ったことが重視される。
​民主党は巨大都市部で圧倒的な票を稼ぐ一方、地方や農村部ではトランプ氏が圧倒するという「地図が真っ二つに分かれる」状態になった。
​変動となった理由: これにより、都市型エリート(民主党)と地方の労働者(共和党・トランプ)という対立軸が固定化され、「もはや話の通じない二つのアメリカ」に分裂したことが、単なる得票数以上の危機として捉えられている。


​3. 「サイレント・マジョリティ」の再定義
​得票数が僅差であったということは、逆に言えば、これまで政治に無関心だったり、既存の共和党支持者ではなかった層が、トランプ氏という象徴を得て「可視化」されたことを意味する。
​本書では、この「僅差」の中に、既存の政治システムから見捨てられたと感じていた人々の「怒り」が凝縮されていると見ている。この怒りのエネルギーが、選挙後もSNSやデモ、あるいは議会襲撃事件(2021年)などの形で、政治プロセスに大きな拍車をかけ続けることになった。


​4. 民主党の「勝ち方」の非効率性
​民主党はカリフォルニア州やニューヨーク州などの大票田で必要以上の票を「取りすぎている(無駄な票が多い)」のに対し、トランプ氏は接戦州で「効率よく勝った」点が指摘される。
​分析: この構造的な不利を民主党が克服できていないことが、今後の選挙でも「得票数で勝っても選挙人で負ける」という不安を党内に植え付け、党の左傾化やアイデンティティへの固執をさらに加速させる(=拍車をかける)悪循環を生んでいると分析されている。
​まとめ:
本書が重視しているのは「どちらが何票取ったか」という最終スコアよりも、その「票の質と分布」の変化。
わずかな得票差で勝利したトランプ氏が、「アメリカの政治・社会のルール(OS)を根本から書き換えてしまった」という事実にこそ、本書は「拍車がかかった」理由を見出している。

 

また、アメリカ外交を根本から変質させた「真の原因」と、その「継続性」について、本書『トランプのアメリカ』や専門家(佐橋亮氏ら)の分析に基づき、一歩踏み込んでみる。


​1. 外交を変容させた「真の原因」:3つの地殻変動
​トランプ氏という個人の資質以上に、アメリカという国家が抱える「構造的な地殻変動」が真の原因かもしれない。


​「リベラルな国際秩序」へのコスト意識の限界:
第二次世界大戦後、アメリカは「世界の警察官」としてコストを払い、自由貿易を推進してきた。しかし、中産階級の没落により、国民の間で「なぜ自国のインフラがボロボロなのに、他国の平和のために血と税金を流さなければならないのか」という「対外関与への疲れ」が限界に達した。


​中産階級の「経済的怒り」と外交の直結:
かつて外交はエリートの専売特許だったが、グローバル化で職を失った労働者にとって、外交(貿易協定や同盟)は「自分たちの生活を破壊する元凶」に見えた。「外交の内政化(外交政策を国内の選挙目当てで決める)」が定着したことが大きな原因。


​2. トランプ以降も「影響は残る」のか、それとも「180度戻る」のか
​結論から言えば、「トランプ以前の180度転換(完全な元通り)には戻らない」というのが、多くの専門家の共通した見解だ。


​影響が強く残る理由(継続性)
​「対中強硬姿勢」の超党派化:
トランプ氏が始めた中国への厳しい対立姿勢は、今や民主党・共和党を問わずアメリカの「国策」となった。バイデン政権もその枠組みを引き継いでおり、以前のような親密な米中関係に戻ることは想定しにくい状況。


​経済ナショナリズムの定着:
「アメリカ国内に製造業を戻す」「関税を武器にする」という手法は、労働者票を意識する限り、民主党政権であっても完全には捨て去ることができない(バイデン政権の「中間層のための外交」がその例)


​同盟国への「応分の負担」要求:
「アメリカはもはや無条件で同盟国を守るATMではない」という認識は定着。今後のどの大統領も、同盟国に対して軍事費の増額や経済的貢献を強く求め続けることになるだろう。


​変化する点(断絶)
​「手法」と「予測可能性」:
トランプ氏の「取引(トランザクショナル)外交」や、SNSによる予測不能な発表は影を潜め、同盟国との「対話」や「国際機関の活用」という手続き面は、民主党政権であれば改善される。しかし、その「中身(アメリカ第一の優先)」は変わらないという「冷めた同盟関係」が続く可能性。


​結論:アメリカは「普通の国」になりつつある
​本書が示唆する最も鋭い意見は、アメリカがかつての「特別な使命感を持つ超大国(理想主義)」から、自国の利益を最優先する「普通の強大国(リアリズム)」へと変貌した、ということだ。
​分析のポイント:
トランプ氏は変容の「原因」ではなく、すでに起きていた変容を加速させた「触媒」に過ぎない。したがって、彼が去ったとしても、アメリカが再び「世界の無私なリーダー」に戻ることは極めて難しいと考えられる。

 

本書を読み終えた感想として、今までの知識の確認という部分がほとんどで特段これは新しい考察だと感じることは少なかった。

また、民主党が、従来からの製造業を衰退から救えなかった理由の分析には物足りないものも感じた。

宗教面からの考察も不十分に思えた。

 

本書の出版が2025年8月なので、当然、2026年初頭にニューヨーク市第112代市長に、民主社会主義者のゾーラン・マムダニ氏(34)が就任したが、こういう動きについて、それがトランプ的ものへの反動にすぎないのか、などの今後の影響については触れられていない。

また、最初に述べたように、2026年に入ってアメリカはベネズエラに続いてイランにも攻撃を仕掛けはじめた。これは、本書の分析の範疇を越えたものなのか、またその外交戦略に継続性があるのかそれとも戦略の飛躍があるのかは今後の分析の課題だ。