★魔道士リザの冒険譚★
-星ドラStory日誌vol.080-
第10話<再会と決別>第13幕
「ゼンチャンの想い」
アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔オリオリは・・・現在、全宇宙に
君臨する邪悪な組織『宇宙政府』、これに
反抗する為レジスタンスグループ『義勇軍』
を率いて打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「迫真の洞窟」と「星雲の洞窟」、2つの
オリオリ達の幼少期の思い出の洞窟。
ここにゼンチャン達を攫った(ゼンチャン本人
はノリノリで付いていった)ピエールが来て
いると予想してアタシ達は2つの洞窟を訪れ
たんだけど、既にピエール達の姿はなく
・・・ピエールと同行しているであろうチャ
ングーのニオイを辿る事ができるスラッピの
嗅覚を頼りにしてアタシ達はピエールの行方
を追っていた。
星雲の洞窟からひたすら東に進む。
やがて雄大な山脈を見上げる事ができる山の
麓まで辿り着いた。
麓には広大な森が広がっていた。
「ピピッ!ピピピピーっ!」
スラッピが突然何か言葉を発した。
「ピピピピッピピピピッピピー!」
「なんだってスラッピっ!本当かそれは
っ!?」
「ピピッ!」
モガ丸がスラッピの発言を通訳する。
「リザ達、大変だ!チャングーのニオイは
ここいら辺で途切れているらしい!」
えぇ!?そ、そんなぁっ!?
じゃ、じゃあもう完全にピエール達を見失っ
てしまったって事!?
「ピピピピッ」
「えっ!?それは一体どういう事だ!?」
「ピ〜・・・・。」
な、何??スラッピの表情が明らかに困惑の
色を浮かべている。
「モガっ!よくわかんないけど・・・チャン
グーのニオイはここでUターンをしたように
元来た方向に向かっているらしいぞ!」
な、なんですって!?
アタシはすぐさま東の空に視線を送り自身の
感覚を研ぎ澄ましてみた。
・・・星見るチカラでは・・・微かにピエー
ルの気配は依然として東のほうから感じられ
る気がする。
明らかにこの山脈より向こうのように感じる。
どういう事!?
ピエールとチャングーは既に行動を共にして
いないっ!?
「ふ〜む、スラッピさんとリザさんで反応が
異なるようですね・・・。そもそも・・・
各々、気配を探る相手が違うわけですから
・・・ピエールとゼンチャンさん達が行動を
共にしている、という前提で我々は行動して
きましたが、それは思い込みである可能性も
当然ながら出てきたという事か・・・。
さて、どうしたものか・・・。」
書からオリオリが現れて目の前の情報の意味
を読み取ろうとする。
「オリオリ様、我らの第一の目的はゼンチャ
ン殿達の救出です。ここはチャングー殿の
追跡ができるスラッピ殿の意見を採用しては
どうでしょう?」
コッツが進言をする。
そうね、アタシの星見るチカラは今ほとんど
機能していない。東の方角にピエールが居る
ような気がするいう程度の漠然としたもので
しかない。
スラッピのほうは確実にチャングーのニオイ
を辿れる。
「ひょっとするとゼンチャンさん達はピエー
ルの元から逃げる事ができたのかもしれませ
ん。であればゼンチャンさんは自分の館へ戻
ろうと考えるはず。・・・よし、ここは一旦
ゼンチャンさんの館へ行ってみましょう。
あ、いえ・・・その前に教会へ戻ります。
シスターにここまでの報告をしなければ。
ピエールと・・・あのセセニョンの事を気に
かけていましたし。
モガ丸さん、教会とゼンチャンさんの館で
あればルーラで戻れますよね?」
「モガッ!一度訪れた場所だからな、もちろ
んだぞ!」
「ありがとうございますっ!
ではよろしくお願いします!」
方針が決まった。
確実性の高いチャングーの跡を追う。
モガ丸のルーラでまずは竜巻の教会へ戻る事
になった。ところが・・・。
思いもよらずゼンチャン達とは早々に再会
する事ができたの。
「あら〜おかえり〜みんな〜。」
「モガガガッ!?
ゼ、ゼンチャンーーーーっ!?」
「ピピピピッ!?」
ルーラで教会に戻ると・・・なんとゼンチャ
ンが出迎えてくれたのっ!
ほ、ホントにピエールから逃げる事ができた
のっ!?
「ゼンチャンさんっ!
ご無事だったのですね、あぁ心配しました
〜!」
書からオリオリが現れゼンチャン達の無事を
喜ぶ。
「あ・・・オリオリちゃん・・・。
ど、どうも~~~・・・。」
??
ゼンチャンの様子が・・・おかしい??
えらく落ち込んでいるようだけど・・・?
「モガ?どうしたんだゼンチャン。随分と
元気がないな??」
「まぁ、失恋直後やさかいな~。」
と。
チャングーがゼンチャンの代わりに答える。
え、何?失恋・・・?どういう事?
「し、失恋とは?チャングーさん、どういう
事ですか?」
「ピエールはんは・・・別の目的ができたん
で1人で別行動を取るって言い出したんや。
ほんでワイらを解放したねん。
ワイはな・・・館に戻れるさかい解放して
くれるぅいうんは有り難いんやけどなぁ。
ゼンチャンにとっては・・・乙女に突然沸き
起こった悲劇っていう捉え方らしいわ。」
「別の目的・・・?チャングーさん、ピエー
ルの別の目的とは!?順を追って説明して
くださいますか?」
「はいよぉ、それがな~~。」
落ち込むゼンチャンの代わりにチャングーが
・・・館からピエールと共に行動した詳細を
アタシ達に報告する。それによると。
2つの洞窟に巣食う宇宙政府の魔物達を全滅
させたのは間違いなくピエール。
動機はやっぱりオリオリとの大事な思い出の
場所を荒らされた事による報復だとか。
その後、ピエールは”邪心のオーブ”なるアイ
テムの事を調べるために東へ向かったとの事
。邪心のオーブを探る旅にゼンチャン達を
同行させる事は危険である、という判断から
ピエールは単独行動を取ることを選択しゼン
チャン達を解放した、と。
「・・・邪心のオーブ・・・初めて聞くワー
ドです。一体何なのですか、それは?」
「えーと、それは~・・・。」
「手にした者に絶大なる強さを与えるアイテ
ムよ。」
それまで塞ぎがちだったゼンチャンがようや
く会話に加わってきた。
邪心のオーブというアイテムについてはゼン
チャンが説明をした。
「ワタシとチャングーは・・・宇宙政府の
弱みになるような秘密を探るようピエール
から頼まれた。それらを霊視しているうち、
邪心のオーブに行き着いたの。手にした者は
自身の何倍ものチカラを持つことができる
オーブ。しかし、手にした強大なチカラと
引き換えに邪悪な心に支配されてしまうと
いう副作用を伴う、諸刃の剣のような側面も
持っている恐ろしいアイテムよ。」
な、何倍もの強いチカラ・・・。
そして邪悪な心に支配される・・・な、なん
て恐ろしいのっ!け、けど、そんな嘘みたい
な話・・・本当なのかしら?
「・・・リザちゃん、邪心のオーブが実際に
使われた実例があるそうよ、ピエールが言っ
ていたわ。マタセ王という島国の王様が居た
んだけど、その王様はオーブの力で魔物に
なってしまったの。ピエールは実際に魔物に
なってしまったマタセ王を目撃したって言っ
ていたわ。」
えっ!!
な、なんですって~!!??
マタセ王って・・・あのマタセ王??
「マタセ王っ!?」
「モガー、マタセ王だってぇぇっ!!??」
皆、口々に驚きの声を上げる。
そりゃあそうよ、魔物化したマタセ王を倒し
たのはアタシ達なんだからっ!
マタセ王が魔物になった経緯も!アタシ達が
彼を退治した後の国の混乱もっ!!
全部、アタシ達の心に傷跡を残した出来事
だものっ!
あ、あの事件に絡んでいたのが・・・!
今、議題に上がっている邪心のオーブ!!
「えぇっ!?リザちゃん達がマタセ王を倒し
たのっ!?ピエールだけじゃなく貴女達まで
マタセ王に関係してただなんてっ!!これも
また数奇な因縁ね~~~!」
そ、そうね・・・。マタセ王の魔物化・・・
同じヒトでも、かくも愚かしく悲しい事件を
引き起こすのか、ってアタシ達は嘆いたけれ
ど・・・単一の事件だと思っていた。
まさか、あの事件にウラがあっただなんて
・・・思ってもみなかったというのが正直な
ところ。
「ゼンチャンさん・・・その話は本当なの
ですか?我々の認識ではマタセ王が魔物化
したのは事実ですが・・・その方法は別の
モノでした。」
「星屑魔法団の秘術でしょ?でも違ったの。
実は邪心のオーブが使用されていたのよ。
ワタシとチャングーが調べた事で今まで誤り
があった事はただの一度もないものっ!ただ
・・・星屑魔法団がなぜ、秘術ではなく邪心
のオーブを使用したのか、という理由までは
わからないの。」
ゼンチャン、星屑魔法団の事まで調べようと
してたんだ。けど詳細はわからない・・・。
あ、そっか。
ゼンチャンは『魔星王の眠る”おおよその”
場所』は言い当てたけども・・・ピンポイン
トの場所までは霊視できなかった。なんでも
かんでも100%知ることはできない・・・つ
まり分からない事は分からない・・・イコー
ル不正解かどうかも分からない・・・確かに
ゼンチャンの霊視で判ったことの正解率は
100%、って言い切れるわね。
ううん、これはゼンチャンをディスってるん
じゃなく、逆に言えば判っている事は間違い
なく100%正解って事。
つまりマタセ王は秘術ではなく邪心のオーブ
で魔物化したのは間違いない。
そして邪心のオーブの実在性を100%証明し
ている、って事になるわね。
「ピエールは・・・オーブ自体の信憑性を
調べるのはもちろんのこと、なぜ魔法団が
秘術ではなくオーブを使用したのか、どうし
てボォフゥ大陸に眠ると云われているオーブ
を持っていたのか・・・という点にも謎が
多いと感じたようで、全てひっくるめてオー
ブについて調べたいって言って・・・うぅぅ
ぅ、そしてワタシを捨てて1人で・・・!
ジグゾナ半島へと去っていったの・・・。」
「ジグゾナ半島・・・このボォフゥ大陸
最東端に位置する半島ですね。その地方に
邪心のオーブが眠っているのですか?」
「うぅぅ、グス、え、ええそうよ、コッツ
ちゃん・・・うぅぅ。」
あ、あちゃ~ゼンチャン・・・またまたピエ
ールにフラれたショックがフラッシュバック
してきたようで会話がおぼつかなくなって
きた。
「・・・しゃあないな~、ワイが説明する
わっ!えーとえーっとぉ、何処まで話進んで
たやろか・・・?」
「オーブの存在する場所がジグゾナ半島なの
か、というところまでです。」
「あぁ、せやせや!邪心のオーブ・・・実は
このオーブは遥かな昔にすでに実在していた
、という伝承があるそうでなぁ。
その・・・手にした者に強きチカラを与える
、っていう部分が独り歩きして後の世の人々
がオーブを信仰するようになったらしい。
主に戦士や騎士などといった職業の者が
・・・自身のlv向上を祈願するために・・・
オーブを祀る・・・といっても模倣品やけど
な・・・それを祀る祠や神殿に参拝するって
いう信仰らしいねん。で、その信仰の本場が
ジグゾナ半島地域っちゅうワケやねん。
そんでピエールはんは半島へと向かったって
ワケ。」
「オ、オーブ信仰・・・。そのような信仰が
存在するのですか・・・。そら恐ろしいよう
な・・・。」
「確かにジグゾナ半島はサロイクン山脈で
隔たれており、どこか秘境めいた地域といわ
れていますね・・・。秘境の地で信仰されて
きた邪心のオーブ、まさに密教と呼べるので
はないでしょうか、オリオリ様。」
「密教・・・なるほど・・・。私はこの大陸
で幼少期を過ごしましたが・・・オーブを
崇める信仰など全く知りませんでした。私が
匿われたのはこの教会です、私にとっての
信仰はミトラ神信仰であり、それ以外の信仰
があるなど考えた事もなかった・・・という
のが正しいのかもしれませんが・・・。」
「オーブ信仰・・・!」
と、それまで無言だったシスターイェルバが
突然声を上げたの。
「あ、シスター様っ、これは失礼しました
っ!シスター様、只今戻りましたっ!」
オリオリがイェルバに遅まきながらの挨拶を
する。
「あ、はいっ!
オリオリ、それにコッツさん、冒険王のみな
さん、よくぞご無事で戻られました。
シスターは安堵しています。」
「すみません、まさか此処にゼンチャンさん
達がおられるとは思ってもみなかったので
・・・そちらに意識が向いてご挨拶、ご報告
が遅れてしまいました。
シスター様、先程からの会話でも話しており
ますが・・・ピエールは無事なようです。
ただ我々はピエールとは全く接触できており
ませんが。
あ、それと此処を訪れた女性戦士の件ですが
・・・。セセニョンという名でしたか?」
「あぁ、そうそうっ!そうです、セセニョン
と名乗っていました。とても溌剌としたご様
子の。なんでも1人義勇軍を自称している、
と申していました。」
「やはり・・・。
その者とは接触いたしました。不思議な人物
でしたが・・・彼女もまた無事です。という
か・・・魔物は全てピエールが退治したよう
なので・・・そもそもセセニョンは危険な目
には遭ってなかったのですが・・・。」
「なるほど・・・。セセニョンさんが無事で
あったのは何よりです。あのような若い娘
さんが1人魔物の巣窟に向かうなど危険極ま
りない行為ですから・・・。
それよりっ!今、オーブ信仰という話が出ま
したねっ!?」
「あ、は、はい・・・。」
「あぁ、そやで~~。」
「私も神に仕える者の端くれ。自分が信仰
する教え以外のモノについても多少は知識が
あります。オーブ信仰・・・あのような邪教
に関わるだなんて・・・ピエール・・・大丈
夫でしょうか?
シスターはまたまた心配です。ピエールが
邪教に近づく事、そしてオーブそのものに
近づく事・・・も、もしもオーブに魅入られ
てしまったりすれば・・・悲惨な事になって
しまいますっ・・・!!」
えぇぇっ!!そ、そんなっ!!
そ、それって・・・ピエールが魔物になって
しまうって事!?
「・・・そういう事です・・・。」
「モガーっ!こ、これは一大事だっ!!
いくら今は敵味方に分かれてるとはいえっ!
さすがにピエールが魔物になってしまうのは
かわいそうだぞっ!!」
ピエールゥ~・・・アンタ・・・マタセ王の
事・・・あんなに軽蔑してたじゃないっ!
信念なくして得た強大なチカラなんて・・・
そんなモノなんの価値もないって。
だのにっ!それと同じ道を辿るかもしれない
っていう危険性を予見できないのっ!?
オーブに近づくっていう事はっ!
「そう言えばピエールはん・・・オーブを
信仰する者の気持ち・・・戦いに身を置く者
として・・・同じ戦士という立場として・・
・・わからんではない、とも言うてはった
・・・。こ、これってかなり危険って事やで
なぁ~~??」
「!!いけませんっ!そのように少しでも
オーブを迎合する要素があるならば、なおの
こと近づけさせてはいけませんっ!!」
こ、これはっ!またまた一刻を争う事態に
なってきたっ!!
急いでピエールを追ってオーブに近づくのを
やめさせなければっ!!
ねっ!そうでしょ!?オリオリッ!!
「〜〜〜〜ピ、ピエール・・・!いえっ!
ボロンッ!!貴方という人は~~~!!どこ
まで周囲の者に迷惑と心配をかければ済むの
かっ!!」
ゲっ!!ま、またまたオリオリがピエール、
ボロンに対してキレちゃった
て、敵というより・・・周囲の者に迷惑、
心配を振りまくどうしようもない幼馴染を
叱るっていう気持ちのほうが強く働いてそう
・・・。
「オリオリッ!
シスターからもお願いします!ピエールを、
ボロンを止めてください。
この教会で過ごした貴方達が仲違いをして
いるのも悲しいですが・・・ボロンが魔物に
なってしまうなど・・・さらに悲しい出来事
ですっ!!お願いしますっ!!!」
「シスター・・・承知しております!
あのバカモノは私が引きずり回してでも必ず
心を入れ替えさせてみせますっ!!!」
まっ!ひ、引きずり回すだなんて・・・オリ
オリらしからぬ乱暴な言葉・・・。よっぽど
ボロンの事が許せないみたいね・・・
「オリオリちゃんっ!!」
「えっ!?」
と、さっきまで”失恋”のショックを引きずっ
て落ち込んでいたゼンチャンが突然、大声で
オリオリの名を叫んだの。
「あ、は、はい、何でしょう?ゼンチャンさ
ん。」
「ワタシ・・・貴女に嫉妬していたの。」
「え?しっ嫉妬ぉぉぉっ??」
ピクッ
ゼンチャンがオリオリに嫉妬しているという
発言をした直後に・・・コッツの体と表情が
一瞬、強張った。けど、それにアタシ達は
気付かなかった・・・。
ただ一人モガ丸だけは・・・そんなコッツの
様子に気付いたようで・・・心配そうにコッ
ツに視線を送っていた。
そのモガ丸の様子すらも・・・。
アタシ達は気付かなかったんだけど・・・。
「しっ、嫉妬とはどういう事ですか?ゼン
チャンさん・・・。」
「ピエールは・・・2つの洞窟に巣食う魔物
達を・・・鬼の形相で・・・って仮面を被っ
てるから表情は見えなかったけど・・・それ
ぐらいの鬼気迫る様子で倒してしまったの。
それはきっと・・・オリオリちゃんとの思い
出の場所を汚されたっていう想いが強かった
からだと思うわ。」
「・・・。」
「ワタシ、わかってたの。ピエールの心には
オリオリちゃんが大きく存在しているって。
洞窟にはオリオリちゃんの好きだった花が
咲いているでしょう?」
「え、ええ。」
「ピエールは・・・その花達を愛おしそうに
愛でていたの。そう、オリオリちゃん、貴女
が好きだった花達を守るために魔物達を退治
したの、ワタシにはわかるっ!けどワタシは
・・・それでもピエールを愛していた・・・
。オリオリちゃんの事を想うピエール・・・
既婚者である貴女との叶わぬ愛を捨てられ
ない彼に・・・せめて寄り添う存在になれれ
ばいいと思っていた・・・。それなのにっ!
彼はワタシを置いて1人旅立っていってしま
った・・・。
ワタシは・・・『寄り添う事すら許さん』と
宣告されたようで・・・ただ悲しかった・・
・・そしてオリオリちゃん、貴女を恨んだわ
。夫がある身でありながら、さらにピエール
の心まで所有している貴女を・・・!」
「しょ、所有しているなど・・・わ、私には
そのようなつもりなど毛頭ありませんっ!」
「それも判っているわっ!貴女にその気が
ないって事なんて百も承知っ!けどそれが
余計にワタシの醜い嫉妬心を燃え上がらせる
のっ!!何もしていないのにピエールの心を
奪えるんだもの、これ以上に悔しい事なんて
ないじゃないっ!!」
「そ、そんな事を言われても・・・私はどう
すれば・・・。」
そうか・・・だから此処に戻ってきて最初に
オリオリと顔を合わせた時・・・ゼンチャン
は暗い表情を浮かべていたのね・・・。
嫉妬の対象であるオリオリの顔を見て・・・
普通ではいられなかったんだ・・・。
ゼ、ゼンチャン・・・本当に乙女だわ・・・
これほどに・・・女性以上に乙女だったなん
て・・・アタシはゼンチャンの乙女ぶりを
かなり見くびっていたみたい・・・。
自分が女である事が恥ずかしくなるぐらい
・・・ゼンチャンは乙女だった。
「ゼンチャン~~、ピエールはんにフラれて
ショックなんは分かるけど・・・それ、オリ
オリはんにあたってもしゃーないでぇ~~。」
「わかってるわよっ!!自分でもっ!
今、自分が物凄く醜い姿だって事もっ!!
・・・オリオリちゃん・・・どうかピエール
を救ってやって・・・。お願いしますっ!
どうかピエールを救ってあげてくださいっ、
お願いしますっ!!」
嫉妬の対象だったはずのオリオリに・・・
ゼンチャンは深々と頭を下げた。
「えっ!ゼ、ゼンチャンさんっ!頭を上げて
くださいっ!!」
「・・・いいえっ!お願いします、どうか
ピエールをっ・・・ピエールをっ!!」
「・・・わ、わかりました・・・。
ゼンチャンさんのお気持ちも踏まえて・・・
最善を尽くしますっ!ここまで想っていただ
けるなんて・・・ピエールは幸せ者です・・
・・幼馴染として嬉しく思います、ありがと
うゼンチャンさんっ!ピエールに代わって
お礼を申し上げます。」
「・・・そして・・・ヒドイ事を言ってしま
ってゴメンナサイ!オリオリちゃんが悪く
ないのは分かってるの。けど、どうしても
言ってやらないと気が済まなくて・・・本当
にごめんなさいっ!!」
ゼンチャンは思いの丈を存分にオリオリに
ぶつけたからだろうか、さっきまでとは打っ
て変わってしおらしくなってしまった・・・。
「オリオリはん・・・ワイからも謝らせて
もらうわ。ホンマ・・・すんません。ゼン
チャン言うたら、思い詰めたら前に突進しか
でけへんこないな性格やよって・・・。」
「あ、いいえ・・・ホントに、ゼンチャン
さんもチャングーさんも、もう頭を上げて
ください。」
ふ、ふぅぅううう。
や、やっと話は落ち着いたみたいね。
アタシは知らない間に息をするのを忘れてた
みたい、あまりの緊迫した空気のせいで・・
・・。
ん?
ってか・・・。つい最近もこんな場面が
あったような・・・。あ、コッツだ。
ついこないだの星雲の洞窟でも・・・今同じ
ような空気をコッツとオリオリが作っていた
わね・・・。
ちょ、ちょっとこういうのが立て続けに起こ
ると・・・さすがに参るわね~、アタシ、特
にこういう系の話苦手だから・・・。
・・・ってかどっちの話も元はと言えば
ピエールが原因じゃないっ!
ったくあのバカっ!!
邪心のオーブだの、恋バナだの・・・周りに
迷惑かける事しかしないんだからっ!
・・・アタシは・・・気付いていなかった。
ピエールに愛情を抱くゼンチャンが起こした
今回の修羅場・・・。
ピエールを愛するがゆえ、そのピエール、
ボロンが心を寄せるオリオリに嫉妬したゼン
チャン。
この構図がそのままコッツにも当てはまるっ
ていう事を。
という事はコッツも・・・!?
恋愛経験が少しでもある者ならば・・・コッ
ツの気持ちを理解する事はそれほど難しい事
ではないんだろう。
恋愛経験もなく恋バナも苦手なアタシは
しかし、全くコッツの気持ちに気付かないで
いた。
コッツが先程、一瞬表情と体を強張らせたの
は・・・ゼンチャンの気持ちが痛いほど理解
できるからだったんではないだろうか。
コッツの様子や気持ちに全く気付かないのは
・・・生まれる前から結婚を約束され・・・
そしてその相手を今も純粋に愛しているオリ
オリも同じだった。
「そうですか・・・ピエール、いえボロンは
やっぱりオリオリ、貴女の事が好きだったの
ですね。」
「えぇっ!?シ、シスター様まで知っておら
れたんですかっ!?ボロンの気持ちをっ!?」
「そりゃあ、そうですよ。私は大人ですよ。
幼い男の子の恋心など・・・わかりやすい事
この上ない。
しかし今現在もその気持ちを持ち続け・・・
それが原因で貴女達がこじれている・・・
そこまでは想像できませんでしたが・・・。」
「こ、こじれさせるつもりは私には全くない
のですが・・・。」
「フフフ、オリオリ。貴女にそのつもりが
なくても・・・恋愛ごととは・・・そういう
ものです。」
え、えぇ~~~・・・そ、そういうモノなの
???
ダメだ、アタシ、ほんっとに付いていけない
・・・
「・・・なんだか恥ずかしいですシスター
・・・何もかも見透かされているようで・・
・・。」
「うふふ、貴女が恥ずかしがる事ではあり
ません。貴女は今まで通り、ご主人の事だけ
を想っていればいい。」
「あ、は、はい・・・もちろんそのつもりで
す。シスター・・・話がかなり逸れてしまい
ましたが・・・。我々も急ぎボ、いえピエー
ルの後を追わねばなりません。邪心のオーブ
の事で何かご存知ではありませんか?」
「オーブの所在地などは・・・オーブ信仰の
秘匿中の秘匿事案ですから・・・流石に私も
存じません。しかし信仰の中心地・・・それ
については耳にした事があります。
星雲の洞窟からサロイクン山脈を越え、東に
向かった先にバルジャという町があります。
その町にカセザンという賢者が住んでいる
そうです。その者にまずは面会してはどう
でしょう。」
バルジャの町、カセザンッ!
情報が出たっ!!
次に向かうべき場所の情報がっ!
「わかりました。シスターありがとうござい
ます。コッツ、リザさん達、これからバル
ジャの町に向かいます。ピエールが邪心の
オーブに近づくのをなんとしてでも阻止し
ますっ!!」
「・・・ハハッ!仰せの通りにっ!!」
「モガーッ!急がないとなっ!!いくら今は
敵でも、ピエールが魔物になってしまったら
悲しむ人間が生まれてしまうからなっ!!」
そうねっ!ピエールはどうしようもなくバカ
だけどっ!!
邪心に支配されて魔物になっちゃうだなんて
、それだけは阻止したいっ!
ピエールを健気に愛するゼンチャンのため
にもねっ!
「オリオリちゃんっ!
そしてリザちゃん達っ!ピエールの事、頼ん
だわねっ!!ってか・・・あぁ、ワタシが
邪心のオーブの事なんかピエールに教えて
しまったからこんな事に・・・。」
「今更過ぎてしもた事言うてもしゃーない
やろぉっ!!もう後は義勇軍さんらぁに任せ
よっ、なあ、ゼンチャンッ!」
そうよ、起きてしまったことはもうどうしよ
うもない。これから先に起こる悪い出来事を
全力で止めるっ!
アタシ達にできるのはそれだけだっ!
任しといてっゼンチャンっ!
そしてシスターイェルバっ!!
ブルリア星の冒険王の名にかけてっ!
必ずピエールを止めてみせるっ!!
アタシ達はバルジャの町を目指して東に向か
ったっ!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
***登場人物紹介***
・リザ本編の主人公。つまりアタシ。
職業は賢者。偉大な魔道士を目指し冒険を
通じ日々修行しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます
恋愛には疎く恋バナはニガテです。
・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どん強くなっていて、そのスキルの強さには
もうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!
・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。回復行動
やオンステージというサポート行動が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。
・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。戦闘は
得意ではないけど見え〜るゴーグルで宝物を
発見したり移動呪文ルーラで冒険の移動を
助けてくれたり、と冒険のサポートをしてく
れる。種族はモモンガ族で一族には悲しい
過去があったけど、それを乗り越えて今なお
アタシ達と一緒に冒険を続けてくれてるの。
・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。言葉は
通じないけどモガ丸だけはスラッピの話して
いる事がわかるの。ただ、トラスレの聖水を
飲む事でアタシ達とも会話ができるように
なり、実はコテコテの関西弁を話す事が
判明。モガ丸のワガママで関西弁で話す事は
禁止されてるけど
・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。その正体は宇宙王の
末裔。そして最後の宇宙王の1人娘、つまり
次期宇宙王その人だった
恐怖による圧政を敷く邪悪な宇宙政府を打倒
するため義勇軍というレジスタンス軍を作り
上げ、その総司令官として日夜、政府軍と
戦っている。
そんななか、幼馴染であり義勇軍親衛隊長
であるボロンが宇宙政府に寝返り、かつオリ
オリへの禁断の愛を告白してしまった。
この事実を知りオリオリは衝撃を受け激しい
動揺をし重く悩むようになってしまった。
時間とともに、総司令官としては立ち直った
けれど、私人としてはまだまだショックを
引きずっているようだった。
・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。コッツは冒険のさなかも部下達
の安否に心を砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
しかし彼女には新たな心のモヤモヤが生まれ
つつあった。それは嫉妬。コッツの片想いの
相手、それはボロンだったの
オリオリへの道ならぬ愛を抱くボロンを慕う
コッツ。しかもボロンが想いを寄せる相手は
コッツの上官、これは相当に複雑な相関図。
これは・・・義勇軍内にピシピシと静かに
忍び寄る影でもあるのかしらっ!?
・ゼンチャン
麗しき全知全能のじょ・・・いえ、男性・・
・いややっぱり女性。
うん、つまりオネエね
相棒のスライムベス、チャングーを媒体とし
た霊視こそが彼女(彼)の全知全能のチカラ。
そのチカラは宇宙政府の隠したい内情すらも
暴くほどの性能。しかしそのチカラゆえ命を
狙われたり、チカラ欲しさに拉致される事も
しばしば。
現在はピエールに身柄を拘束されている。
もっともゼンチャン本人はピエールから愛の
告白をされたとソッコーで勘違いしてしまっ
たので、喜んでついて来てるんだけどね
・チャングー
ゼンチャンの相棒のスライムベス。
コテコテの関西弁を駆使する。スラッピも
人間の言葉を話すときは関西弁・・・。
スライム達の公用語なのかしら
その体を水晶玉代わりにしてゼンチャンの
霊視能力の一端を担う。
意外にも(?)人情肌であり常識を持ち、また
女心すらよく理解しているふうでもあるみた
いね。ピエールとの別れ際では彼を諭すよう
な話をいくつもしていたわ
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coming soon
本日の日誌でした


第10章<再会と決別>了