河野氏はまず、談話発表後の記者会見での自身の答弁について強弁する。

 

「強制連行はあったということでいいんですねという質問に対して、そうです、それで結構ですと私が言ったことを、一部の人たちが今もって、そんな事実もないのに強制連行を河野が認めてけしからぬと言っているんだ」

 

だが、この独断的で不用意な発言によって、談話自体には強制連行という語句はないにもかかわらず、世界中に日本政府が強制連行を認めたと流布された。

 

政府は本当に強制連行を認めていたのか。談話作成に関わった石原信雄元官房副長官は、産経新聞の取材にこう明言している。

「いかなる意味でも、日本政府の意を体して日本政府の指揮命令系統のもとに強制したということを認めたわけではない」

 

政府の河野談話検証チームが平成26年にまとめた報告書は、この記者会見でのやりとりについてわざわざ1章を設けている。報告書発表の前日、当時の安倍晋三首相は筆者にこう語っていた。

 

「やっぱり記者会見で、河野さんが『結構です』と言ったのが失敗だ。それまで政府は(強制連行は認めないという)一線は守ってきた。河野さんもまずいと思ったのか『精神的な強制もある』うんぬんと続けたが、これが強制連行として独り歩きした。記者会見は完全な失敗だ」

 

河野氏が示した事例は1944(昭和19)年、インドネシア・ジャワ島で出先の軍人らが約2カ月にわたり、オランダ人捕虜の女性を売春婦として働かせたスマラン事件のことである。

 

だが、この件で当事者らは司令部から軍紀違反で処罰されたうえ、敗戦後は連合国により死刑などに処されている。軍紀違反に問われたこと自体が、出先の例外的な暴走である証左だといえる。日本軍として強制連行をやっていれば、処罰される理由がない。

 

さらに河野氏は、自身が談話の根拠だと指摘してきたソウルでの元慰安婦16人への聞き取り調査が極めてずさんな内容だと判明したことに対して反論する。

 

「一部の人たちは、でたらめだとかうそ八百だとか言っているけど、もう四十年以上たって記憶が曖昧な部分はあっても、発言の内容は心証として明らかに強制的にさせられているというふうに宮沢(喜一)総理も思われて、そういう意味で強制があったということで結構ですとなった」

 

「心証」だの「そういう意味で」だのとそれこそ曖昧な言葉を用いて弁護しているが、実際はどうか。

 

産経新聞が平成25年に調査報告書を入手して確かめると、報告書はA4判13枚で、1人1枚分もなかった。元慰安婦らの証言は別の機会での同じ元慰安婦の発言と食い違うことも多く、氏名や生年月日、出身地も不明・不詳のものが多かった。

慰安所がない場所で働いていたとの証言も複数あり、日本での慰安婦賠償訴訟の原告5人も含まれているほか、同じ元慰安婦が別の機会では違う証言をしているものもあった。

 

この報告書に関しては東良信・元内閣外政審議室審議官が「明確な根拠として使えるものではなかった」と述べているほか、美根慶樹・元内閣外政審議室審議官も「ものごとをはっきりさせる裁判などに耐えうる証拠ではない。質は低い」と明言している。

 

報告書は現在も非公開とされており、誰でも閲覧できるわけではないため、河野氏は安心して正当化に励めるのかもしれない。だが、こんなものを根拠として「事実判断ではなく、政治判断」(石原氏)でいいかげんな談話を出されて、国民はいい迷惑である。

 

「性奴隷の国、日本」というイメージを広げた河野氏に、少しは恥というものを知ってもらいたい。

 

【阿比留瑠比の極言御免】自己正当化と強弁の河野氏 - 産経ニュース (sankei.com)