(福島第一原発事故の際)自衛隊は政府から命令されなければ動けませんから、どういう対応をするかについて検討はしていましたが、全く働けない状況でした。
 そうしたら、私は当時統合幕僚副長で折木統合幕僚長の補佐をしていましたが、折木統合幕僚長に、米軍トップのマレン統合参謀本部議長から電話がかかってきました。「お前たちは何やっているんだ。この国家的危機に命をなげうって国民と国家を守るのが軍隊、すなわちお前たちだろう」と言うわけです。もちろんこのような言い方ではありませんが、内容的にはそういうことです。
 それで三月十七日、ヘリコプター部隊に決死のミッションを与えて、飛んでもらいました。ヘリコプターで大きな袋を吊り下げて、湖から水を汲んで下に落とすという作戦でした。結果論としては、既にメルトダウンが起きていたので、メルトダウンを抑え込むことには貢献しませんでしたが、しかし、これで米軍が動きました。
 自衛隊が動いたのなら米軍も行くぞということで、ハワイの太平洋艦隊司令官が横田に乗り込み、「トモダチ作戦」の本格的なオペレーションが始まりました。
 私はその時に確信しました。日米安保条約がありますが、自衛隊が動かない限り米軍は絶対に来ません。尖閣諸島に日米安保条約の五条が適用されるかどうか、日本は必ずアメリカに聞きます。すると「適用する」と言われるので、米軍が尖閣諸島を守ってくれると誤解している国民が多々いると思います。
 今申し上げた通り、自衛隊が前面に立たない限り米軍は絶対に来ません。日米安保は自動参戦ではないということを知っておく必要があります。命をかけてこの国の守りの最前線に立つのは、紛れもなく自衛官なのです。

 

「自衛隊が動かない限り米軍は来ない」前統合幕僚長・河野克俊、『祖国と青年』0306