書評『ナショナリズムの美徳』

 本書はナショナリズムを、国民や国家の概念が確立する西洋近代以降のものとしてではなく、紀元前のヘブライ語聖書(旧約聖書)の世界にまでさかのぽり、古代エジプト、バビロン、アッシリア、そしてローマ帝国などの、世界を曹遍的価値や統一しようとする「帝国」との対比において捉え直す。
 つまり、共通の言語や文化を持ち、人種ではなく、防衛や公共の事業のために一丸となって活動した歴史を共有する多数の部族を「同胞」とする集団のことである。ナショナリズムの本質は、人類を力による「平和」で統一しようとする「帝国」による征服と統治に対す両根深い抵抗から生まれた。それこそ聖書に書かれたネーション、すなわち国民の真実の姿である。

 

国民国家が、個人の自由や多様性を擁護し、発展させることかできる唯一の体制であることを、その文化や信仰を共有する運帯憲識の大切さを、長い歴史の起源から説き明かす。まさに多くの国民国家を破壊する新たな「帝国」が台頭する21世紀の、今日の課題である。

 

「新たな『帝国』台頭に備えて」『産経新聞』R030501