サンフランシスコ条約第11条は、「日本国は、極東軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘束されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする」

この「判決を受諾し」という文言だけを見れば、何か東京裁判の判決理由、つまり一連の戦争は侵略戦争だったという東京裁判の歴史観までも日本国が受け入れたかのように受け取ってしまうかもしれない。

 しかし、この「裁判を受諾し」の「裁判」とは、裁判の内容などではなく裁判の結論つまり「判決」に過ぎない。サンフランシスコ条約には、日本
語以外に英語、仏語、スペイン語の正文があるが、この部分は英語正文ではjudgements、フランス語のそれではjugements、スペイン語ではLas sentenciasとなっており、これらはいずれも裁判ではなく「判決」を意味する言語である。つまり、条文の語義から言って日本国が受諾したのは「判決」なのである。

 

戦争犯罪の責任を負うものも、平和条約中に特別の例外規定がない限り、講和成立後に責任を追及されることがないというのが国際法学会の通説であった」という。その意味で、「第十一条の規定は、日本政府による『刑の執行の停止』を阻止することを狙ったのに過ぎず、それ以上の何ものでもなかった」のである。

 

 このように条文の語義から言っても、国際法の常識から言っても、サンフランシスコ条約によって束京裁判の歴史観を受け入れたというのは単なる俗説に過ぎないことは明らかである。

 

「日本は東京裁判を受諾した?」『明日への選択』