• 革命が急進化する中で生まれた共和国は,伝統的な王権の正統性
    を否定したことで,フランス国家の存在の無根拠性に向き合うこと
    になる。従来の王国を構成した身分や団体の秩序を解体し,諸個人
    による社会契約を強調することになったのも,そのためである。
  • あらゆる中間団体が否定され,すべての社会的紐帯から切り離さ
    れた諸個人から成る共和国。このような共和国を支えるべく,徳や
    祖国愛といった精神的要素を強調したジャコバン派の指導者たちが,
    ルソーの理論に近づいていったのは必然的でもあった。
  • 保守主義の祖とされるバークがフランス革命への衝撃から『フランス
    革命の省察』を執筆したように,急進的な革命や改革に反対し,あえて
    過去からの伝統の連続性を重視する思想・運動が保守主義である。とは
    いえ,革命によって特権を失った貴族を中心に形成された反動勢力が,
    革命以前の旧体制への復帰をめざしたのに対し,保守主義は歴史の変化
    とそれに伴う漸進的な改革の必要性を認める点で性質を異にする。また
    歴史的な変化を意識した上で,過去からの価値,習慣,制度や考え方を
    自覚的に選び,あえて保守しようとする点で,単に慣れ親しんだものを
    好んで変化を嫌う伝統主義とも区別される。
  • 社会も歴史の中で形成されるのであり,各国の国制は慣習(pre―
    scription)を通じて確立する。国家は社会契約によつて打ち立てら
    れるものではなく,時間の経過とともに自然に成長してきた産物な
    のである。人間の自由もまたその枠内においてのみ存在すべきであ
    り,先入見や慣習抜きの自然状態などは,単に無秩序であり,野蛮
    であるとバークは切り捨てる。
  • 人々が享受する権利についても,具体的な内容をもち,各国の歴
    史的な伝統によって一つ一つ確認されたものが真の権利である。そ
    れゆえにイギリス人の権利はあっても,抽象的な人間の権利などあ
    りえない。それなのにフランス革命は,抽象的な個人の権利を振り
    かざして,歴史的に構築されてきた国制の複雑な構造を破壊してし
    まったとバークは批判する。
宇野重規『西洋政治思想史』