• 社会設計思想に対する現代の最も根底的な批判者は,
    ハイエク 衆目の一致するところ,おそらくハイエクであろう。かれはすで
    に戦前から終始一貫して社会設計の思想を糾弾してきた。『隷従への道』においてその
    アウトラインが示され,その後『科学による反革命』,『自由の国制』など,一連の著作
    のなかでいよいよ洗練の度を加えた。
  • 社会には,
    「人間の行為の結果ではあるが,設計の産物ではない」ような秩序,つまり誰かある人
    の目的意識的な企図によってもたらされたのではなく,社会に生きる無数の人びとの相
    互行為を通して自ずと生成。発展してきたような秩序が数多く存在する。言語,慣習,
    道徳,市場などがそれである。このような自生的秩序が形成されるのは,各人が各々に
    自分自身の様々な目的を達成しようとして他者と関わりをもつなかから自然発生的に一
    定の行為ルールが生まれ, しかも人間には一般にそうしたルールに無意識のうちにした
    がう(共通の定型的な行為パターンを示す)能力ないし傾向が本来的に備わっているか
    らである。
  • 自生的秩序に対する十分な配慮を欠いた人為的な
    青写真に基づいて社会を組織的,計画的に改造しようとすることは,結局のところ,社
    会それ自体が有する秩序形成機能の円滑な作動を阻害するのみである。
中谷猛、足立幸男『概説 西洋政治思想史』