旧体制を憎み社会主義革命を企てる人々は決まって家族を壊そうとする。国の歴史、文化、伝統などを受け継ぎ、次代に伝えるのは家族だからだ。彼らは家族間の密告を奨励し、「子供は社会のもの」として親から子供の教育権を奪う。こうして家族は切り離され、それぞれは寄る辺ない原子状態に置かれる。

 

クメール・ルージュ(カンボジア共産党)も家族の破壊に熱心に取り組んだ。都市から農村へ強制移住させられた人々は、家族ごとの食事を許されず、村落の共同食堂で食事をとらなければならなかった。子供は幼児のうちから子供労働キャンプに入れられて「教育」された。

 

権力を奪取した共産主義者は自らの理想のために、粛清の嵐が吹き荒れる監獄のような恐怖社会をつくりだしてきた。カンボジアでもそれが繰り返された。クメール・ルージュは一神教の神、それも優しさのかけらもない邪悪な神となってカンボジアに君臨した。

 理想の社会を夢想することを私は否定しない。ただ共産主義者が性急に自分たちの理想を追えば何が起こるか。:私たち人間はI虫けら1匹造れない存在なのだ。まずそのことを謙虚に受け止めたい。

 

「共産主義という邪神」『産経新聞』R021120