覚醒剤中毒から立ち直った体験を基に、

元受刑者の雇用や刑務所での
講演活動に力を尽くすドリームジャパン社長

の長原和宣氏。創業以来、五百人以上の
元受刑者を雇用し、その多くを更生に導い

てきた北洋建設社長の小澤輝真氏。

 

長原 今年二月に「職親プロジェクト北海道」
が立ち上がりました。参加する企
業同士が協力し、元受刑者を雇用
して再犯防止に取り組んでいけば、
世の中はもっとよくなるはずなん
です。また、それによって刑務所
に入っていた人が今後は納税者と
して社会に貢献していくわけです。

 

小澤 一九九六年には、別の
役員が千七百万円もの空手形を回
して、行方をくらましてしまいま
した。この時にはさすがに経営が
行き詰まり、廃業を決め、社員た
ちを集めてこう言ったんです。
「今月は給料が払えるが、来月以
降は無理だ。会社を畳むから、払
えるうちに辞めてくれ」
当然、全員辞めていくのだろう
な、これで楽になれると思ってい
ました。ところが、当時七、八名
いた元受刑者の社員も含めて全員
が、「給料はいりません。会社がな
くなると困ります。他に行くとこ
ろがないんです。会社が大変なら
俺たちが一所懸命頑張ります。だ
から働かせてください」と口を揃
えて言ってくれたんです。涙を流
している元受刑者もいました。

 

長春 おかげさまで、これま
でに三十人ほどの元受刑者の雇用
に取り組んできて、一件もトラブ
ルは起こってないんですよ。元受
刑者に限りませんが、大事なのは
その人の心に寄り添うこと、本気、
本音でものを言い合うことだと思
っています。人は本気、本音の会
話ができなくなると、嘘で嘘を塗
り固めて自分の居場所を失い、道
を踏み外してしまうんです。

 

小澤 過去は変えられませんが、未来
は自分の力で変えていけるんです
よ。必要なのは、罪を隠すことで
はなく、元受刑者を嘘で縛ること
のない環境で更生を進めることだ
と私は思っています。

 

長原 少年院でお話しする機会を
よくいただくのですが、彼らは加
害者であると同時に、被害者でも
あると感じます。やっぱり家庭に
問題があったり、経済的に恵まれ
ていなかったり、自分の意思では
どうにもならない事情で少年院ま
たどで辿り着いてきた子供が多い。

 

ですから、とにかくどんな試練があっ
ても、自分はいま未来に繋がる大事なこ
とを天から教えてもらっているんだと受
け止め、ありがたいという感謝の心で一
つひとつ、一歩一歩乗り越えていく。自
分にできることを精っぱいやらせていただく。

それがよりよい人生を創っていく大事な
心の姿勢ではないかなと思います。

 

「人生の試練が教えてくれるもの」『致知』R0207