20年目の邂逅 その2 | クラバート・ガレージ

20年目の邂逅 その2

このゾイドバトルストーリーであるが、非常にセンスが良かった。

勿論学年誌連載のバージョンは、各学年に沿って解りやすいように描かれていたであろうことは想像に難くないが、一冊に纏められた同作品を見る限り、文章力、構成、すべてにおいて卓越したものを感じる。


例えば新製品の発売がコンスタントに行われている時期には


「空前の新型ゾイド開発競争」や「第二次新型ゾイド開発競争」の章題が踊る。


虎型高速ゾイド、サーベルタイガー発売時期には、新型高速ゾイドの開発をキャッチしたゾイドゴジュラスが単身敵基地へと乗り込むミッションが掲載されている。


最大のゾイド、ウルトラザウルス発売時期には、敵側のコマンドに奪われるという事件が発生している。


「『サラマンダーのミサイルもきかない!』共和国軍は自ら開発した兵器の恐ろしさに言葉を失った」※1


味方陣営に以上の言葉を語らせることにより、敵陣営に語らせる以上の恐怖感をだすことを演出、また、今度発売されるゾイドの強力さ、強大さがこれでもかと感じられる。



今あげたこれらはすべて、ゾイドバトルストーリー1 小学館 昭和62年 1月10日発行 のものである。


各ゾイドに章ごとに焦点を当てつつ、後半では少々ドラマ性を盛り込んだ「大氷原の戦い」というエピソードになだれ込む。この「大氷原の戦い」はゾイドバトルストーリーの中で転機ともいうべきエピソードである。


共和国軍側のパイロット、「ロイ・ジー・トーマス」と、先述したウルトラザウルスを強奪したコマンド「エコー(山びこ)」の激闘が繰り広げられるのである。


それまでのバトルストーリーでは、特定のパイロットの名前が出ることが極端に少なく、まさに戦争全体を俯瞰的に眺めた絵物語といった感が強い。この体制はその後もきっちり持続していくが、この章の存在によって、「特定の人物およびパイロットに焦点を当てる」という方法論が追加されたのである。

この章における「トーマス」の愛機は「ゴジュラスMK-Ⅱ」対するエコーは「アイアンコングMK-Ⅱ」。共に両国のヒーロー機体であった。それはいい。優秀なパイロットが、カッコいい機体を駆って活躍する。ガンダムをはじめとして多くのロボットモノにもまんべんなく用いられるモティーフである。


しかし、このゾイドバトルストーリー1 の真価は、最終章にある。

トーマスはふたたび「カノントータス」というお世辞にも格好の良いと言えないゾイドを操縦し、帝国首都攻防戦に参加しているのである。この1点で、僕はこの物語を非常にリアルなものだと感じた。兵器としてのゾイド、そして、軍人としての、いや、人間としてのキャラクターが描けているのである。


この最終章の記述を一部引用する。ゾイドバトルストーリーという物語のセンスの良さ、文章力の高さを是非感じていただきたい。


「『こいつが敵の土地に入るのをいやがってね』

 トーマス大尉は、故障した愛機を軽くたたきながらおどけてみせた。

 半年前、帝国軍精鋭の渡ったこのバーナム川を、共和国の大軍が東から西へと移動していた。彼らに勝利を運んでくれた東風が、今も軍服のすそをはためかしていた。

 『修理班を手配しました。ここでしばらく休息してください。なに、敵は逃げはしません。』

 兵士の言葉使いの中にも、どことなくよゆうが感じられ、うっかりすると、まだ戦争中であることを忘れそうであった」 ※2


いかがだろうか。那須正幹氏のタッチにも通づる、この流麗な文体。小学生の僕はウットリと身を任せていたものである。




このゾイドバトルストーリーは数年前に発売された「ゾイド核(コア)BOX」に全巻当時のまま復刻されて付属している。まだ探せば入手できるかもしれないので、是非購入し、感じていただきたい。







ハイカラスター金曜クラブ
共和国軍 旗艦 ウルトラザウルス

このミリタリー描写に注目!!








まだまだ続きます(笑)



※1「小学館スペシャル4 ゾイドバトルストーリー 1、 発行人 畠山洸一郎 編集人 武生宏之、小学館、昭和62年1月10日発行 p.48引用」

※2「同上、p.62引用」