春の試合が全国のあちこちで行われていますね。そろそろ終盤でしょうか?


新歓も継続的に行っているとは思いますが、

およそゴールデンウィークくらいで一段落、

そろそろ新入部員を含めたJV戦も各地で実施されていますね。


「今年は〇〇人入った!」

「意外と人数伸びないなぁ」

などの声も聞こえてきています。


新入部員を何名獲得できたかは

「アメフト部の死活問題」

です。

現に人数不足により休部・廃部になった学校も多くあります。


最近では少人数のチーム同士が集まっての合同練習も各地で行われているようですね。


新入部員を交えての練習も本格化し、

「どこのポジション希望?」

という質問も飛び交っているのではないかと思います。


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アメリカンフットボールは

「大学デビューのスポーツ」

「ほとんどみんな未経験」

が一つの魅力です。


大学生になって

「いちから始めるスポーツ」

ってあんまりないですね。


おまけに大学から始めて日本代表になることもあるなんて他のスポーツでは考えられません。


大学デビューですから当然、

「楕円形のフットボール」

を見るのも触るのも、そして投げるのも、

初めてだと思います。


そこで今回は

「投げ方、どう教える? --- コーチ受難の時代」

について書いてみたいと思います。


コーチ受難?

僕はそう思います😁



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【コーチ受難の時代】

今も昔もみんな、
「あこがれのQBのスローイングフォームを真似するところ」
から始めると思います。

例えばQBコーチが50台後半の人だとすると、
おそらくその方が現役当時一番人気だったジョー・モンタナやダン・マリーノみたいな投げ方をしていると思います。
自分なりにモンタナやマリーノのスローイングを研究していますのでそれなりに詳しく説明できますし、

「自分の経験と知識」
をコーチングのベースにしていることが多いと思います。

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今の学生も
「憧れのQBの真似をする」
ところから始めると思うので、

あるQBはトム・ブレイディを、
あるQBはアーロン・ロジャースを、
あるQBはパトリック・マホームズを、
あるQBはジャレッド・ゴフを、

真似している、という状況もありえますね。

ちょっと人選が都合よすぎる感じもありますが、まあこのまま書かせてください😁

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ぱっと想像してもこの4人、投げ方がけっこう違いますよね。

で、この4人を真似しようとしているそれぞれのQBを、モンタナ好きのコーチが指導するんですよ。

「半身の姿勢から1歩前に踏み出して、
腕を上から振り下ろすように.........」
という説明になると思うのですが、

パトリック・マホームズ好きのQBにとっては
「マホームズは前に踏み出したりしないし....」
「腕を上から振り下ろすってなに???」
と思いながらも、

コーチが言うことだからなんとなく聞いたふりをしておかないといけない、という事態に陥ります😁

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例に上げたマホームズが一番
「コーチ泣かせのQB」
かなと思います。

マホームズの投げ方はほんとに変幻自在で、
普通に上から投げることもあればラッシャーの腕の下を通すようなサイドスロー、ときには倒れ込みながらのアンダースロー?とも思えるような投げ方もあり、それを当たり前のようにやるQBです。

マホームズ好きのQBは当然それを真似したがるわけで、

コーチとしては
「どうやったらマホームズのように投げれますか?」
という質問が一番困ると思います。

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以前に
「新旧スローイングフォーム比較」
のブログを書いたことがありますし、
「最先端のスローイング」
について書いたこともありましたが、

スローイングのメカニクス自体は

半身の姿勢から、
一歩前に踏み出しながらテイクバックし、
地面を蹴る力で腰を回し体を捻り、
体を捻り戻すように肩を回し、
その力を腕から手・指先に伝えて、
ボールを投げる

と、
「前に踏み出ししながら体を回して投げる」
という基本は今も昔も変わりはありません。

今と昔で違いがあるとすれば、
「動きの分量の違い」
になるのでしょうか。

上の説明からも分かる通りスローイングは主に、

「前に移動する並進運動」
「体を回す体軸回転運動」

で成り立っています。

昔は大きく踏み出して体全体の回転と体軸の傾きを利用しながら高い位置でリリースするように投げていましたが、

今は前への踏み出しは小さく、体軸を立てて鋭く回転、腕をしっかり伸ばして投げます。
腕の振り自体はコンパクトに、リリース位置もQBによって高かったり低かったりとまちまちです。

「十人十色のスローイングフォーム」
が今の時代の特徴(?)ですね。


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先ほど例に上げた4人のQBの中で毎年毎年オフシーズンになるとスローイングコーチを雇ってフォームを改良するQBがいます。

トム・ブレイディです。

マイナーチェンジではありますが、毎年どこかしか微妙に改良して、
「今っぽい投げ方」
に変えてきます。

彼は
「新旧の投げ方両方を知っているQB」
の代表格で、それぞれの時代で素晴らしい記録を残してきたQBです。

最近投稿されたトム・ブレイディのスローイング動画がありますので、ちょっと見てください。

「昔はこうやっていたけど、今はこうやる」
みたいなことを言っていますね。

ちょっと深堀してみたいと思います。
僕の得意技です😁

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12分弱の動画です。
すごくいいことずくめの動画なので、
英語がわからなくても翻訳してでも見てほしいです!

この動画の中でもトム・ブレイディは
「Stride and Rotate = 踏み出しと回転」
と言っていますね。

前に踏み出す並進運動の力と
体を回転させる回転運動の力

この両方を使ってボールを投げる。

その際に
「地面からの反発を利用することが大切」
と強調しています。

足元で地面を蹴った力を膝・腰・胴・胸郭・肩の順に少しずつ上に伝えていき、

「地面を蹴った力を無駄なく指先にあるボールに伝えていく」
「力の方向をすべてターゲットに向ける」
と言っているのが印象的ですね。

「体をどう使うか」
は非常に大切なのですが、

「ボールを投げるために体をどう使うか」
が大切なんですよね。

リリースの瞬間にすべての力が集約されるような体の使い方をする必要がありますね!


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【新旧スローイング比較】

この動画の中でトム・ブレイディが
「新旧でこう違う」
と言っている部分を拾い上げてみたいと思います。

動画を観ている順に気になったのが

・前への踏み出し
・回転運動
・リリース

ですね。

僕としてはスローイングの核であるリリースが一番気になるで、

ちょっと順番を入れ替えてまずはリリースから書いてみたいと思います。

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【1.リリース】

上でもちょっと書きましたが、
リリースの新旧の違いと言って一番わかり易いのは
「ハイリリースかどうか」
ですね。

昔は
「高い位置でリリースすること」
を推奨するコーチが多かったと思います。

この動画の中でトム・ブレイディはリリースの新旧の違いについて
「上から投げる・横から投げる上で違うのは上体の傾け方で、体と腕の関係は変わらない」
と言っていますね。



上の2枚の写真を見比べると、
1枚目は体が左に傾いている分、手が高い位置に上がっています。

2枚目は体がまっすぐに立ち上がったままなので腕はほぼ体の真横にありますね。

ただ、どちらも体と腕の関係を見ると
「90−90ポジション」
の位置に腕があります。

1枚目の写真は大げさに体を傾けているのでちょっと腕の角度が開きすぎてる気はしますが😁
これくらい上体を傾けているQBはよく見ますね。

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時代に合わせて
「今はハイリリースは教えていない」
からと言ってもハイリリースが悪いわけではありません。

以前のブログでも
「戦術に見合ったスローイングフォームが大切」
と書きましたが、
例えば、ドロップバックからの純粋なポケットパサータイプであればハイリリースの投げ方は有効だと僕は思います。

OLはQBよりも大きいことが多いので、
OLの頭越しに投げようと思ったらハイリリースは有効です。

背の高いQBが上から投げ下ろしてくれるとボールが見やすい、と言っていたレシーバーもいました。

多少左右に動きながら投げるとなったら少し腕をサイドスロー気味にするなど調整できれば投げやすいと思います。

ボールを両手で持って走るときは腕を横振りするような感じになりますので、
そのままテイクバックして体軸回転を利用することを考えるとサイドスロー気味のほうが体に無理がかからず力の伝達効率もいいと思います。

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【ターゲットの狙い方】


上でも書きましたが、
「地面を蹴った力を無駄なく指先にあるボールに伝えていく」
「力の方向をすべてターゲットに向ける」
と言っているシーンです。

以前書いたブログの中でこんな図を紹介しましたが、近いイメージだと思います!


右足で地面を蹴った力を体の右伝いに無駄なく腕・手からボールまで伝えます。

スローイング中の体の使い方は全て無駄なく
「リリースに集約」
されなければなりません。

リリースについてトム・ブレイディは

「レシーバーの鼻に触るような意識で」
と言っているところもありますね。


この写真を見ても
「レシーバーの鼻に触るような意識で」
指先がレシーバーに向かって伸びていくようにしながらボールをリリースしているのがよくわかります。

ボールはそのまま真っすぐターゲットに向かって飛んでいますね。

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【2.前への踏み出し】

半身の時のスタンスは
「肩幅よりちょっと広いくらい」
と言っていましたね。
かなり広めだと思います。
そこから小さく前に踏み出すと。

この広いスタンスとこの動き........

だいぶ以前にドリュー・ブリーズのスローイング解析をしたブログを書きましたがその時言っていたことと同じです。

ドリュー・ブリーズは
「スタンスを広くしたらクイックに投げやすくなった」
と言っていましたね。

狭いスタンスから大きく踏み出すよりも、
広めのスタンスから小さく踏み出す、または前足を踏み変える程度の素早い動きにすることで安定感を保ちながら素早くスローイング動作を始動しやすくなります。

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前足の踏み出しに関連して、

「今回のブログ中で最重要!」
と思えることを2つ言っています。

ひとつは
「前足の踏み出しと重心の残し方」
と、

もうひとつは
「下半身と上半身の分離回転(?)」
です!


まずはひとつめの
「前足の踏み出しと重心の残し方」
から。

半身の姿勢から前足を踏み出して.....
で始まるスローイング動作ですが、

踏み出すと同時に前足に乗り込むかどうか、

皆さんの動きは下の写真2枚のうちどっちですか?
1枚目ですか?それとも2枚目?



1枚目の写真のように
「踏み出すと同時に体が前へ移動」
する人が多いかなと思います。

踏み出しと同時に体が前に移動しますので、
「今にも投げ出す体勢」
をすぐに作り出せるように思います。

クイックリリースに向いているようにも感じますが、

踏み出してからリリースまでにクイックというよりも
「慌てた感じ」
になる気もします。

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トム・ブレイディは2枚目の写真のような
「体を後ろに残したまま踏み出すやり方」
を勧めていますね。

下半身は前に進んでいますが上半身は後ろに残す感じです。

こうしながら何をやっているかというと、
「体のひねりを作っている」
わけです。

前足を踏み出しながら
「左肩を閉じる動作」
を加えます。

これをやると上半身は後ろに残る感じになり、前に出ていきません。

そうしながら
体を強くひねることが出来るようになります。


過去のブログの中で、
これと同じ動きを何度か紹介したことがあります。
「チャド・ペニングトンのスローイング動画」
を引用させていただいた時です。

チャド・ペニングトンは
「前に踏み出すときに左肩を自分とターゲットの中間地点に向ける」
と言っていました。

前に踏み出して腰をターゲットに向かって回転させながら左肩を中間地点に向けて
「上半身を腰と逆方向に回す」
ことで体の強いひねりを作り出します。

これがひねり戻しにつながりますので、
トム・ブレイディがいう
「下半身から順番にターゲットを向いていく」
という部分にも繋がります。

前足を踏み出すときに体の強いひねりができていれば、その直後に前足が地面について本格的に投げる動作に入るときには体のひねり戻しを利用しやすくなります。

ここは大切なポイントになりますね!

「踏み出すと同時に前に体重移動すると慌てた感じになる」
と書きましたが、

体のひねりを十分に作ることが出来ないままスローイングに入ってしまうことになるので、

体に十分な回転の力がたまらないのと、
地面を蹴った力が手に上がってくるまでの時間が短すぎて指先に届かず、
一番肝心なリリースのときに筋力に頼ってしまうことにもつながりますね。

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【3.回転運動】

踏み出しながらひねった体を
「ひねり戻すようにしながら」
上半身を回していきます。

人間の筋肉もゴムのようなもので、
ひねられたら自然とひねり戻しが起こります。
自然なひねり戻しを利用しながら、かつ、筋力を使って上半身を回していきます。

昔は
「左腕で上半身の回転をリードする」
という考え方がありました。


左腕のひじを背中側に回しこむようにしながらその勢いを使って体を回すやり方です。

僕がスローイングに関するブログを書き始めたころ引用したジョー・モンタナの動画でも左腕で回転を誘導する動きを紹介してましたし、僕がスローイングを習ったときはこのやり方を教えられました。

もちろんこれでも体軸の回転を誘発・誘導することはできるのでこれはこれで悪い動きではないですが、

今っぽい投げ方で考えると、
踏み出し時に作る体のひねりとひねり戻しの力を有効に使うためには左腕で引っ張るのではなく、

「左腕を体の前で止めて体の回転を受け止め、力をターゲット方向に向けるやり方」
のほうが効率的と言っていますね。

トム・ブレイディの説明では、
左腕で回転を誘導すると力が左に向かって逃げていく傾向が強くなるので効率が悪い、と言っていますね。

左腕を体の前で止めて回転を受け止めるようにすることでスローイング動作のすべての力をターゲットに向けやすくなるとも言っています。

フィギュアスケートのスピンのとき、
伸ばしていた腕を縮めていくと回転が早くなります。

スローイング時の体軸回転もこの原理を利用する感じでリリースの瞬間に指先が最速になるように体軸回転を仕上げ、


「すべての力を効率よくボールに集中」
させていきます。

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実は先ほど紹介したジョー・モンタナの左腕の使い方では左腕を横に回転させて体軸回転を誘導し、リリースの瞬間には
「左肘を脇の下に引き込む」
と説明していました。

「腕を横回転から縦回転に変えるために」
と説明していましたが、
体軸回転の速度を上げるという意味ではフィギュアスケートの回転の時の腕の使い方と同じですね!

名QBは今も昔も
「同じようなことをやっている」
と言ってもいいかもしれませんね。

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【体のひねりとひねり戻し】

このトム・ブレイディの動画の中で今回僕の心に残った印象的な言葉として

「Hip and shoulder disassociation」
というのがあります。

直訳すると
「腰と肩の分離(回転)」
となりますね。

スローイングメカニクスで言えば、
腰(=下半身)が左に回り始めるとき
肩の線を右に回すと
「体のひねりが強調される状態」
になります。

すぐ上の
【2.前への踏み出し】のところですでに書いた体のひねり方です。

ボールを投げる上で、
体をひねった反動のひねり戻しが非常に大切、ということですね。

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【回転は下半身から】

動画の中での
「高校生・大学生QBに注意してほしいことは?」
との質問に対してトム・ブレイディがは
「体の回転を上半身で作らないこと」
と言っています。

ボールを投げるのは上半身なのでついつい
「肩の線を回すこと」
に意識が行きがちですが、

「スローイングの基本は下半身」
です。

「下半身始動で回転を始める」
ことが大切で、

下半身始動時に上半身は逆に回して体のひねりを強く作り出し、

「上半身は下半身の回転に遅れてついてくる」

これを強く意識するほうがいいボールが投げるようになると思います。


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もうひとつ動画を紹介します。
ダラス・カウボーイズの元QBでトロイ・エイクマンのバックアップを長く務めたジェイソン・ギャレットがホスト役を務めた動画です。

NFL歴代の名だたるQBから
「スローイングの秘密」
を聞き出している、素晴らしい内容です。

ちょっと長いですが、見てみてください。

「Perfect throwing motion」


この動画、アーロン・ロジャースのスローイングを中心に、現在成長著しいジョッシュ・アレンやその他のQBへのインタビューで構成されています。

20分くらいある動画です。

「32人QBがいたら握り方は32通りある」
というところから始まってますね。
握り方は教えようがない?ということになるんですかね?🙄

ボールの握り方は基本的には、
・指の何本か第一関節あたりをレースにかける
・手のひらとボールに間に隙間を開ける
・人差し指をボールの先端近くに置く
というのはよく聞きますね。

何人か握り方を紹介していましたので写真を添付します。

(アーロン・ロジャースの握り方)

(ダック・プレスコットの握り方)

(カート・ワーナーの握り方)

(トロイ・エイクマンの握り方)

ダック・プレスコット、カート・ワーナーは人差し指がボールの先端にすごく近いですね。
手の大きさも関係あると思いますが。

トロイ・エイクマンの握り方は
「手のひらベッタリ」
です。

「この握り方でスパイラルをかけられるやつは他にいなかった」
と言ってますね😁

ちなみにマホームズも同じ手のひらベッタリの握り方です。

基本的な握り方のルールみたいなものはあっても、
「あとはその人次第」
ということ、ですかね?

やっぱり32人32色です😁

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ボールの握り以外で
「ここはおさえておくべき」
と僕が気になったのは2点あります。

1.リリース
2.体のひねりとひねり戻し

最初に紹介した動画と重複する内容になりますが、違ったコメントが出てきましたので紹介しようと思います。

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1.リリース

ジョッシュ・アレンが話しているところで印象的だったのが
「常に体の前の黄色い一点でリリースすることに集中する」
と言っていたところです。



この写真のように、顔の斜め前に黄色い点をイメージしておき、
どんな体勢からでも
「ここ(黄色い点)でリリース」
することを心がけます。

これはコントロールを安定させるうえで非常にいい考えだと思いますし、
実際ジョッシュ・アレンがここ数年パス成功率が上がってきているのはこれが大きな理由なんだろうと思います。

走りながら投げても、
ラッシュが来てバランスが崩れた状態で投げても、
どんな体勢であっても、

テイクバックの位置から
「顔の斜め前の黄色い点」
めがけてボールを運んであげば体と腕の骨格上の関係を変えることなく腕を振ってボールを投げることができます。

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この黄色い点は以前のブログに書いた
「リリースフィニッシュポイント」
といっしょで、
ボールが人差し指から離れていくところです。

このリリースフィニッシュポイント、
「どこに黄色い点があるか」
を探す方法があります。

手首をブラブラ揺らしながら腕を伸ばして前から上に上げていきます。

肩が一番リラックスした、力の入っていない位置、ここが
「黄色い点」
の位置です。

通常は
「ゼロポジション」
と言われる位置で、

背骨に対して130度から140度くらい腕が上がり、体の前方30度から45度くらい前に出たところです。

簡単にゼロポジションを作ろうと思ったら
「力なく万歳」
してそこから肘を伸ばしてみて下さい。
だいたいその位置です。

とにかく、
「肩・腕に力が入っていない位置」
というのが重要です。

個人差はありますが、
真正面を向いた目線の右目の斜め上の方に右手が見えるくらいの位置、と言ったらいいでしょうか?

※ちなみに、力なく万歳して肘が軽く曲がっているところが
「リリーススタートポイント」
です。

この時点で5本の指で握っているボールから指が一本ずつ離れていき、
リリースフィニッシュポイントで人差し指から離れていきます。

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2.体のひねりとひねり戻し

体のひねりとひねり戻しといえば、
ダック・プレスコットの
「Hip Whip」
を見逃すことはできませんね。
この動画にも出てきます。

プレスコットも
"Hip and shoulder disassociation"
という言葉を使っていましたね。

下半身をターゲットに向けて回転させるときに
上半身を反対向きにひねる動きです。


プレスコットのHip Whipは
スローイング動作に入るときの動きを取り出してやるドリルです。
強烈に腰を開いてターゲットの方に向けますが上半身は閉じたままです。
これで強烈な体のひねりを作ります。

このとき大切なのが
「後ろ足の蹴り」
と言っていますね。

カート・ワーナーも
「後ろ足の蹴りが大事」
と言っています。


後ろ足で蹴る力をまず腰に伝えてターゲット方向に開き、そのひねり戻しの力がどんどん上に伝わって最終的に肩が周り腕が振られます。

「腕が振られる」
この感覚も大事ですね。

カート・ワーナーは
「スローイング動作で腕は極力使わないように考えている」
と言っています。

後ろ足で地面を蹴った地面反発力を体の回転を通じて腕に伝えるだけで投げる、と意味ですね。

腕の筋力で腕を振るわけではない、ということです。

ジョッシュアレンも
「昔は腕投げの感じが強かったので腰の前に上半身が回っていた」
と同じようなことを言ってますね。

「腕は体に振り回されるだけ」
と考えたほうが地面からの力を腕に伝えやすいように思います。

そういえばトム・ブレイディも先の動画の中で
「強く投げたい・遠くに投げたいときは腕はなお一層リラックスさせる」
と言っていました。

これも
「腕は振り回される」
という意味ですね。


---

地面反発を利用した体の回転力をボールに伝えるうえで非常に興味深いことを言っているのはアーロン・ロジャースですね。

「下半身と上半身のひねりができていれば
足は地面についていなくてもいい」
と!

たしかにアーロン・ロジャースはそんな感じの投げ方をしますよね。
設置感が弱いというか、地に足がついていない感じがあるにも関わらずすごい球投げます!

※ちょっとここから先は高等技術というか、
真似できないと思うので、
知識として持っておいて頂く程度でいいと思いますが、一応書いてみたいと思います。

アーロン・ロジャースの秘密はどうやらジャンプする前の
「前足の内側」
にあるようですね。

この動画のオープニングでも
"inside of my left foot, inside of my left knee...."
というコメントから始まりますよね。
これ、アーロン・ロジャースの言葉です。

---

後ろ足で蹴った力で腰を回していくのですが、
「左足・左脚の内側の抑え」
で下半身の回転の力を受け止めてあげると力が一気に上半身に伝わっていきます。

逆にひねっていた上半身のひねり戻しと相まって、上半身はすごい勢いで回ることになります。

この
「左足・左脚の内側の抑え」
で上半身に回転の力さえ伝わっていれば

「足は地面についていなくてもいい」
ということですね!

---

試しにやってみましたが僕は出来ませんでした。

感覚的には
「左足で左腰を押し返す感じ」
が近いかなと思います。

けしてジャンプしようとしているのではなく左腰を押し返すようにしているうちに
「力余ってジャンプした」
くらいの感じではないかと思います。

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実は僕がQBのスローイングについてブログを書き始めた頃にアーロン・ロジャースのスローイングについて、
「前足が不安定・つま先立ちする」
と書いたことがありましたが、

これは
「左足・左脚の内側の抑え」
で最初地面についていた左足が、ものすごい勢いがついた体軸回転に耐えきれずかかとが一度地面から離れる動きなのだと思います。

普通に前に出した左足で踏ん張るだけでは耐えきれないほどの回転力がある、ということですね!!!

通常はこれほどの回転力がつくと左足が小指側によれます。

6年以上前に書いたブログですが面白いのでリンクを貼っておきます。
見てみてください。

「NFL4大QBスローイング比較」


踏み出した左足・左脚の内側に力を貯めようと思ったら左足を少しアウトステップして上げるといいですね。

以前書いたブログで使った前足のステップを紹介する図をもう一度引用しますが、

足の内側で踏ん張りやすくするためには
前足を緑色の位置に動かすのが一番やりやすいと思います。

前に踏み出しながら.....と考えると、
青の位置に踏み出すのもいいかもです。

---

【前足がつかないと始まらない】

最後にDrew Breesのスローイングについて書きたいと思います。

この動画の中でスローイングコーチのトム・ハウスが
「トム・ブレイディとドリュー・ブリーズは
従来型のスローイングでもベスト、
現代的なスローイングでもベスト!」
と言っていますね。

この2人は毎オフシーズンにトム・ハウスのもとでスローイングフォーム改善をしていました。

トム・ハウスがドリュー・ブリーズのスローイングを動作解析アプリにかけると
「動作効率97%」
と出るそうです。

ほぼほぼ理論的に理想的なスローイングフォームということですね。

---

ドリュー・ブリーズのコメントで印象的だったのが
「A地点からB地点にいかに早く投げるかがテーマ」
と言っているところですね。

単に球速が速いということではなく、
スローイング動作も含めて
「投げると決めてからターゲットにボールが届くまでが早い」
ということです。

また、
「スローイングは前足が地面につかないと始まらない」
と言っているのも面白いです。

一般的な意味合いとしてはスローイングは
半身の姿勢から後ろ足で地面を蹴ることで始まりますが、

ドリュー・ブリーズの定義(?)では
「スローイングは前足が地面についたところから始まる」
ということになるのだと思います。

以前書いたブログでドリュー・ブリーズのスローイング特集をやりましたが、
たしかにドリュー・ブリーズは前足をついてから投げ出すまでが異常なほどに早いです!

前足は踏み出すというより
「踏み直す」
くらいの感じで、

地面からちょっと浮かすだけですぐに地面を捉えて素早くボールを投げますね。

---

前足を地面について以降の回転動作は他のQBと同様、
「まず腰が回り、その時は上半身はまだ閉じている」
と言っています。
ここは他のQBと全く同じです。
ヨガのレッスンで体のひねりを学んだ、みたいなことを言っていますね😁

ドリュー・ブリーズの半身の姿勢は非常に特徴的で、

足を前後に大きく開き、上体は前足寄りにセットします。この時点で右肘を後ろに張り出すようにして、あたかもテイクバックしているような腕の形をしています。

このため、半身の姿勢の時点ですでに体はかなりひねられていて、あとは前足に体重移動するだけでスローイングを始動できます。

このとき前足への体重移動を
「ほぼ前足の踏み直しだけ」
で行っているのだと思います。

前足を前に踏み出すのではなく
「その場で踏み直すだけ」
ですのでこの動作自体早いですし、

すでに体はひねられていますのであとは
「Uncoil=ひねり戻し」
をすることで上半身を強く回していけます。

---

この辺のドリュー・ブリーズの動きは以前のブログに書いたことがありました。

実のところ、ウォームアップで投げているフォームと試合で投げているフォームにかなり違いがありそこが気になって書いたのですが、

ウォームアップでは基礎的な動きを確認し、
実戦では基礎の動きを応用してあの動きになっているようです。
そのブログ、ちょっと紹介しておきますね。

僕のブログの中でドリュー・ブリーズのスローイングフォームは
「非常に基本に忠実なので是非とも真似してほしい!」
と何度も書いてきましたが、

実際に動作測定分析をしても
「最も効率的なフォームで投げるQB」
ということですので、

やはり是非とも真似してほしいと思います!!

---

【まとめ】

今回は2本の動画を紹介してその中のQBたちのアドバイスを取り上げました。

まず体の使い方としては、
「上半身と下半身の分離回転」
に大きくフォーカスしたいですね。

後ろ足の蹴りをきっかけに動き出し、
前足を踏み出すときは下半身はターゲットを向き始めますが、上半身は逆側にひねって体のひねりを作り出します。

ここから来る
「ひねり戻し」
が大きな力を産んでくれることになります。

ここでアーロン・ロジャースの言葉を借りると、
「前足・前脚の内側にフォーカス」
することが大切になりますね。

下半身がターゲット方向に回転していこうとする力を前足・前脚の内側でしっかりと受け止めてあげることでその回転の力を一気に上半身に伝えていきます。

力が体の上に上に伝わっていき胸郭が回り始めたらついつい腕を振りたくなりますが、

カート・ワーナーの言葉を借りると、
「腕は体の回転に振り回されるだけ」
ということになります。

積極的に腕を振るというより、でんでん太鼓のように
「腕が振り回される」
これを利用して指先に力を伝えていきます。

最後はリリースです。

トム・ブレイディの言葉を借りると、
「レシーバーの鼻を触りにいくように腕を伸ばしてリリースする」
ことがコントロールを良くする秘訣になりますね。

右手の人差し指でレシーバーの鼻を触りにいくようにすれば必然的にボールは
「レシーバーの鼻めがけて」
飛んでいきます。

また、ジョッシュ・アレンの言葉を借りると、
「架空の黄色い点を目指して、必ずそこでリリースする」
ということになります。

自分の体に対して一定した位置にリリースポイントがあれば、体勢を多少崩してもコントロールが乱れるのを最小限に抑えることが出来ます。

NFLを代表するQBたちの言葉をまとめるだけですごくいいスローイングができそうな気がしてきますね!


---

最後にひとつ大切なことを。

「すべてのQBをひとつの型にはめることは出来ない」
とアーロン・ロジャースが言っていましたね。

動画の中でも紹介されていたフィリップ・リバースが好例ですね。
彼は独特のサイドスローですが見事なコントロールです。

フォームを修正しようと思えばいくらでも修正することはできると思いますが、

肘が下がったようなサイドスローが
「フィリップ・リバースのスローイング」
です。

スローイングフォームとしてはおすすめできるフォームではないですしこのフォームを教えることもないです。

が、
この投げ方でDLに叩かれることが多いとか、投げ損ないが多いというわけでもなく、

彼がQBとしての仕事をするうえで何の支障もありません。

こうなると無理やり修正する必要もないです。
フォームばかりにこだわり無理やり修正をかけて駄目になってしまうこともあります......

この辺もまたコーチ泣かせだなと思いますが、

フォームの修正が必要なのは
「QBとしての仕事をするうえで支障がある時」
と割り切っていいかもしれませんね。

もうひとつフォームの修正が必要なのは
「そのまま続けていたら間違いなく体を痛める投げ方をしているとき」
ですね。

無理やりスパイラルとかけようとして必要以上に腕をひねっているとか、思いっきり上体を傾けて腰にストレスをかけて投げているとか。

僕としては
「骨格に忠実でない動きをしているとき」
は修正すべきだと思っています。

ちなみに僕の目で見てフィリップ・リバースの投げ方は骨格上、それほど問題があるとは思わないので修正の必要なしです😁

選手生活は痛みや怪我を伴うと楽しくありません。怪我や痛みはできるだけ排除してあげる体の使い方を教える、
これもコーチとして大切な仕事だと思います。

身近にコーチがいない人はクリニックなどを受けるのもいいと思います。

また最近では動作解析アプリもあるようですのでそのような機器を使っている施設を頼ってみるのもいいと思います。

僕自身、学生時代はコーチ不在の中でスローイングに関する情報もない中、
「何が正しいのか分からないまま」
練習に明け暮れていました。

僕は怪我はしませんでしたが、我流を続けることで体を痛めたQBも多くいると思います。

そういうQBが一人でも少なくなってくれればいいなと思います。

今回はこの辺で。
ありがとうございました。

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次回は
QBのスローイング
「レシーバーのどこに投げたらいいの?」
について書いてみたいと思います。

ドロップバックしてフリーになったレシーバーにボールを投げるのがQBの仕事ですが、

「レシーバーにとって取りやすいボール」
とはなんなのでしょうか?
それについて考えてみたいと思います。