恒例の2017年4月期テレビドラマ評を、いつものように『アワード』方式でお届けします。
なお、毎回のように但し書きしていますが、当ドラマ評は、青春もの・純愛もの・感動もの大好きな私の独断と偏見の産物であり、事件もの・刑事ものとかエンタテインメント系作品を低く評価する結果となっているかもしれないことを予めご承知おきください。
視聴率と私の評価とは、ほぼ確実に反比例します(苦笑)
■総評
大賞の候補作として一次審査を通過した「優秀作品賞」は以下の通りとなりました。(記載順は放送曜日順)
◆優秀作品賞
◎『きみはペット』(月26 フジ)
◎『怪獣倶楽部~空想特撮青春記~』(火25 TBS)
◎『母になる』(水22 日テレ)
◎『人は見た目が100パーセント』(木22 フジ)
◎『恋がヘタでも生きてます』(木24 日テレ)
◎『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』(金22 NHK)
◎『リバース』(金22 TBS)
◎『4号警備』(土20 NHK)
◎『ボク、運命の人です。』(土22 日テレ)
◎『小さな巨人』(日21 TBS)
◎『フランケンシュタインの恋』(日22 日テレ)
世間的な評価ではきっと入ってきたであろう主な落選作は以下。
特に『CRISIS(クライシス)公安機動捜査隊特捜班』と『あなたのことはそれほど』を落としたのは私ぐらいかもしれませんね。ごめんなさい。
でも私のような好みの傾向の人も結構いるのではないかとも思っています。
◇落選した(世間的に評価の高い)主な作品
◎『あなたのことはそれほど』(火22 TBS)
◎『CRISIS(クライシス)公安機動捜査隊特捜班』(火21 フジ)
◎『緊急取調室 シーズン2』(木21 テレ朝)
◎『女囚セブン』(金23 テレ朝)
◎『貴族探偵』(月21 フジ)
◎『架空OL日記』(木25 日テレ)
◎『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』(日21 フジ)
今クール一番の話題作といえば、やはり「あなそれ」こと『あなたのことはそれほど』(火22 TBS)でしょう。
それは認めます。
しかし私の採点はゼロ点です。いやマイナスかな。
その理由は主人公の人間性に共感できるところがほぼ無いに等しいからです。
悪人や罪を犯してしまった人間が主人公のドラマも当然あります。
しかしその場合でも、少なくとも主人公である限り、罪を犯すあるいは犯したことに関して、いくばくかの葛藤や止むにやまれぬ事情、後悔、あるいは被害者への申し訳ない気持ちがなどがあるものです。
そうでなければ、視聴者の共感は得られないでしょう。
それがこの主人公には見受けられないのです。
いや、もしかしたら、そういう既成概念自体をぶち壊そうとする問題作と評価することもできないことはありません。
ちょうど、哲学者カミュが自らの思想的概念『不条理』を小説として具現化して提示してみせた『異邦人』のような…。
実際、そのような評価も見受けられます。
私もこの作品がドラマの制作者と視聴者の双方に問題を投げかける意欲作であることは認めます。
そのうえで、上に挙げたマイナス点があまりにも大きいために、差し引きするとマイナスになってしまったというところです。
ドラマが始まる前は、
<2番目に好きな人と結婚した女性がいちばん好きだった人と再会し、心が揺れるという純愛もの>か、
<不倫するにしても、その葛藤をこそドラマで視聴者に訴えるもの>と勝手に期待していましたが、フタを開けてみると「あなたのことはそれほど」どころか「あなたのことはまったく」あるいは「あなたのことは単なる邪魔な障害物」程度の意識しかない主人公に、何か悪いものを見たようなとても嫌〜な気持ちに襲われ、ぶち切れそうになってしまいました。
純愛ドラマとしての(勝手な)期待が大きかったために、反動も大きかったといえます。
これぞ原作者や脚本家・演出家・その他制作者の思う壺かもしれませんが…
この手の作品ではたいてい夫にもそれなりの非があって、主人公にも同情の余地が残るものですが、この作品の場合、とても夫に非があるとは思えませんでした。
妻の本性を疑い始めてからは、ストーカー的な気持ち悪さが強調されていましたが。
夫が主人公の眠っている間にスマホの中を覗き込むシーンがあったり、妻の不倫が発覚したあとストーカーのように執着心を露わにするシーンなどあり、『ずっとあなたが好きだった』の冬彦さんを彷彿とさせるところもありましたが、それが主人公の行動を正当化するほどのものには到底見えませんでした。
もしも制作スタッフがそのように表現したと考えていたとしたら、残念ながら効果は希薄だったと言わざるをえないと思います。
唯一溜飲が下がったのは、最終回にさんざん蔑ろ(ないがしろ)にされても執着し続けてきた夫が、今となっては「あなたのことはそれほど」と主人公を突き放したところ。
ああ、このタイトルはまさに夫のこの言葉を意味していたのかと妙な合点がいった瞬間でした。
ただ、ひとこと言い添えておきたいのは、ドラマを演じた俳優陣、波瑠や東出昌大には全く罪はないということ。
むしろこのようなある意味難しい役柄を二人ともよく演じたと思います。
したがって、『あなたのことはそれほど』は大賞候補として「優秀作品賞」に入れませんでしたが、個人賞にはそれぞれノミネートし、受賞あるいは次点とさせていただきました。
■各賞発表
◆大賞
◎『フランケンシュタインの恋』 HP
次点:◎『リバース』 HP
次点:◎『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』 HP
講評:
今回はとても迷いました。
世間的には『リバース』とか『あなたのことはそれほど』とか『小さな巨人』あたりが大賞に選ばれるのだろうと思います。
私も次点を含め3作を選出しましたが、主題が深いもの、演出や映像美に優れたもの、ストーリー性やスリルに富んだものなど、それぞれ特色のあるものばかりでしたが、総合成績として見ると突出した作品がなく、横並びの比較も難しく感じました。
そういうわけで今回は思い切って、私自身が個人的に最も思い入れの強かった作品、もっとも次回も見たいとワクワクした作品にに白羽の矢を立てることにしました。
大賞の『フランケンシュタインの恋』は、120年前に瀕死の状態から、菌を移植されることにより不老不死の体を手に入れてしまった青年の恋の物語です。
その後、100年以上もの間、山奥に人目をひかないようなひっそりと生きて来た青年(綾野剛)は、ひょんな事からひとりの普通の人間の女性(二階堂ふみ)と出会い、恋に落ち、一緒に人里にまで降りて来て、普通の人々と一緒に生活するようになります。
しかし、感情がたかぶったとき、身体から菌が発散されることがあって、中には人間に有害な作用を及ぶすものがあることが分かり、危険なモンスターとして社会から排除されかけることになります。
現実にはあり得ない荒唐無稽なファンタジー作品に私はなぜこんなに惹きつけられたのでしょう?
実は自分でも不思議です。
おそらくこの作品に、世間一般の価値観とは相容れない価値観を持ち、この社会に生きにくさと孤独を感じて、一歩も二歩も下がってひっそりと生きている少数者のメタファーになっており、それが自分の内面とシンクロしたのかもしれません。
そしてその深刻な閉塞状況をファンタジーのオブラートに包んでやさしく表現することにより、現実世界で深刻な状況に絶えず直面している少数者がホッとできる空間と時間をテレビの中に確保することに成功したのだと思います。
主人公の深刻な状況を和らげる効果をあげる仕組みは作品の随所に施されていました。
菌人間である主人公が山奥にいる間、拾ったラジオでいつも愛聴していたのが『天草に聞け』というラジオ番組のお悩み相談コーナーで、主人公がそのコーナーの人気パーソナリティ天草純平(新井浩文)の熱烈なファンであるという設定からしてすでに笑いを誘うに十分。
しかも主人公がことあるごとに天真爛漫にそのコーナーのテーマ曲の決めフレーズ「♪天草に、聞け!♪」を口ずさむシーンが、置かれた深刻な状況との対比でなおいっそう微笑ましく、私もシンクロして思わず何度も口ずさんでしまいました。
また、大学の生物系研究室で菌の研究に没頭し野山を菌採取に駆け回る「菌女」のヒロイン(二階堂ふみ)の、主人公以上に現実離れした「天然」ぶりも、この突拍子もない設定の中ではちょうどよい塩梅の人物設定だっとた思います。
山奥深くに菌を採取しに行くのに、おしゃれな麦わら帽に可愛いパステルカラーの服にひらひらスカートを履いていくシーンに違和感を覚えた視聴者もいるかもしれませんが、これは明らかに狙った人物造形だと思いますよ。
さらにそのヒロインにひそかに想いを寄せる先輩大学院生(柳楽優弥)が、恋敵になる主人公を一時は陥れようとするも、結局むしろ主人公の一番の理解者となり、主人公とヒロインを結びつけるキューピット役に図らずもなってしまうなど、登場人物が本質的にはみな善人であるところも、主人公の絶望的な生きにくさの状況下にあって、視聴者をホッとさせてくれる要因になっていまると思いました。
はたしてこのドラマをうまく収束させることは可能なのだろうかという私の心配をよそに、最終回のラストのまとめ方もとても良かったと思います。
主人公は研究室と組み、自分の体内にある菌から新薬を創生する検体兼研究員として山奥でヒロインとひっそり研究三昧の日々を送りつつ、人類への貢献という社会的な居場所をみつけます。
そしてエンドロールの後に、数十年後のシーンが挿入されます。
主人公の研究成果を定期的に受け取りに山奥まで未来型飛行機でやってきたあの恋のライバルである大学院生(とその実家で働いていた気の強い女の子(川栄李奈)と)のお孫さんとの会話により、主人公とヒロインがその後も山奥で幸せに暮らし、ヒロインは数年前に天寿を全うして亡くなったことを視聴者は遠回しに知らされます。
そして暗に、不老不死の主人公がこれからも果てしなく続く永遠の余生を、生前の幸せなヒロインとの暮らしの思い出を糧にして、幸せに生きていくだろうことを視聴者にほのめかして番組は静かに終了します。
主人公の宿命と悲しい状況を安易に終わらせるような結末でなかったのがとても良かったと思います。
最後までヒロイン津軽継実さんのことを下の名前ではなく「津軽」さんと名字で呼んでいたのも「らしく」てよかったです。
また、ドラマの主題歌であるRADWIMPSの「棒人間」がまるでこのドラマへの書き下ろしのようにこのドラマの本質を見事に表していてドラマを盛り上げてくれたのも印象的でした。
この作品を今回の最優秀音楽作品賞に選出しました。
最後に難点をひとつ挙げると、2時間ものの映画がちょうどいい「尺」だと思われるものを10話に引き伸ばしたことで、我慢できない視聴者を少なからず飽きさせて逃したと思われるところでしょうか。
惜しくも大賞を逃した『リバース』は、吉川英治文学新人賞の候補にもなった湊かなえの小説のドラマ化。
主演は藤原竜也。謎を握るヒロイン役が戸田恵梨香。10年前に謎の事故死を遂げた大学生役に小池徹平。
誰もが一つくらいは持つ過去の失敗への罪悪感と贖罪がテーマといえますが、10年前の事件を今頃になって蒸し返す謎の人物を探る推理ものでもあり、事件の関係者である大学ゼミ仲間(市原隼人、三浦貴大、玉森裕太)が次々に襲われるスリリングな展開、そして不器用だけど正直にいきる主人公の初な恋物語が同時進行で絡み合いながらドラマが進行していきます。
とてもよかったのですが、テレビドラマ化にあたって、あえて原作とは違う結末にしたところが唯一残念なところ。
ここまで引っ張ってきて、最後のオチ(事件の真犯人)が、全く関係のない犯罪者が偶発的に起こしたものだったというのは…。
この一点だけで、大賞を逃すには十分なほど拍子抜けで落胆させられました。
『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』は、とにかく、舞台となった鎌倉の風景の映像美と、手紙の代筆業というちょっと古風で文学臭に漂うお仕事を題材とした点、そして主人公を演じる多部未華子がこの難しい役柄をとてもうまく演じ切っていた点で、とても懐かしく心が洗われるような、ぬくもりに満ちた上質な作品に仕上がっていました。
唯一不満な点は、肝心の代筆した手紙の内容が若干平板で紋切り型だった点でしょうか。それともこれは私の欲張りすぎか?
◆上智まさはるお気に入り賞
◎『人は見た目が100パーセント』 HP
次点:◎『ボク、運命の人です。』 HP
次点:◎『恋がヘタでも生きてます』 HP
次点:◎『きみはペット』 HP
講評:
いわゆるラブコメを次点を含めて4作品集めました。
どれも毎回楽しみにして見ましたが、この中からひとつ選ぶとすれば『人は見た目が100パーセント』になります。
この作品はタイトルで視聴者を逃してしまった嫌いがあると思います。
このドラマの本質は、見た目にもその他のことにも自信の持てない地味で引っ込み思案の女性が新たな一歩を踏み出そうとして懸命にもがく姿を描いた「魂の成長物語」にあると思います。
見た目の冴えない主人公の城之内さんを演じる桐谷美玲はとうてい「不細工」には見えませんがそこはご愛嬌。
むしろ地味で引っ込み思案で自信のかけらもない女の子の心の機微を実に見事に演じていたと思いますよ。
しかもジメジメした展開にならないよう、笑いの仕掛けをいたるところに散りばめていて、その点でも楽しんで見ることができました。
毎回、ビューティー研究コーナー的な時間があって、彼女ら(桐谷美玲、水川あさみ、ブルゾンちえみ)が勤める製薬会社の少しオネエっ気の入った上司(鈴木浩介)が厳しくも親身な指南役として大活躍。ネット上でもそのアドリブ的演技に大盛り上がりしていたようです。
『恋がヘタでも生きてます』は、男まさりに仕事人間としてがむしゃらに社長を目指す主人公(高梨臨)とその社長の座を一瞬にして奪ってしまったイケメン社長(田中圭)との恋愛下手同士の恋物語。
そのサイドストーリーとして、主人公とルームシェアする大学時代からの親友(土村芳)と主人公の同僚男子との恋愛ストーリーが展開されるのですが、正直言って主人公よりそちらの親友の方がとても魅力的というか共感できて、そのサイドストーリーの成り行きを見たさに見続けたようなものでした。
土村芳(つちむら かほ)は2016年後期のNHK朝ドラ『べっぴんさん』に主人公の終生の親友役として好演し一躍脚光を浴びた新人女優ですが、この作品でさらに魅力を開花したように思います。
今回の最優秀助演女優賞および明日のスター賞にダブルで選出しました。
『きみはペット』は以前、小雪と松本潤のコンビでドラマ化され、韓国でも映画化されていますね。最初のドラマ化のときは、個人的にあまり食指を動かされず、途中で脱落してしまったのですが、今回は主演が入山法子と志尊淳ということで、さらに食指を動かされないだろうと、実は途中回からあまり期待もせずに見始めました。
ところが、これが恋愛ドラマ好きにはたまらないトキメキ感を与えてくれる作品でした。
かわいい男の子をペットにできるなんて、現実にはあり得ない、しかし夢のようなお話ですが、実際に釣り合わないと自覚しているからこそ、もっと若い女の子に目移りされ愛想を尽かされるのではないかという不安に絶えず苛まれることになります。
そのあたりが現実の恋愛の中で常に不安を感じている視聴者の心をつかむのだと思います。
ただ、今回のドラマ化では、原作や前回にない設定として、憧れの蓮實さん(竹財輝之助)も主人公をライバル視する福島さん(柳ゆり菜)を図らずもペットとして飼うことになり、お互いさまの形に。この設定は必要だったのでしょうか?
確かに話は複雑化しましたが、ごくごく特殊事情だったはずの主人公とペットとの関係が身近に存在することで、何か拍子抜けの嫌いがなきにしもあらずでした。
◆話題賞
◎『あなたのことはそれほど』 HP
寸評:
上でも言ったように私は評価しませんが、一応視聴率も高く、世間的な話題に登り、物議をかもしたので。
◆我が青春のウルトラマン賞
◎『怪獣倶楽部~空想特撮青春記~』 HP
寸評:
ウルトラマン世代としては涙が出るほどうれしいオタク番組でした。好きな特撮モノを肴に夜を語り明かすなんて最高!
初めて親しくなった大好きな女の子とのデートの約束と同人サークルの集まりとがバッティングして、悩みに悩んだあと泣く泣く同人サークルの方をとった主人公(本田奏多)の手足が引きちぎられるような思いに共感しきり!
◆最優秀主演女優賞
◎多部未華子 『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』 HP
次点:◎沢尻エリカ 『母になる』
次点:◎波瑠 『あなたのことはそれほど』
◆最優秀主演男優賞
◎綾野剛 『フランケンシュタインの恋』
次点:◎藤原竜也 『リバース』
◆最優秀助演女優賞
◎土村芳 『恋がヘタでも生きてます』
次点:◎小池栄子 『母になる』
◆最優秀助演男優賞
◎東出昌大 『あなたのことはそれほど』
◆明日のスター賞
◎土村芳 『恋がヘタでも生きてます』
寸評:
最優秀助演女優賞とのダブル受賞!
◆最優秀音楽作品賞
◎RADWIMPS「棒人間」
(『フランケンシュタインの恋』)
次点:◎JY 「女子モドキ」
(『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』)
次点:◎絢香 Ayaka「コトノハ」
(『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』)
次点:◎シェネル「Destiny」(『リバース』)
以上です。