DDはコンサルプロジェクトの中でも特にタイムスケジュールがタイトだ。得てしてライブラリーリサーチが中心となり、現場に行く時間が物理的に限定されることは勿論、ターゲット先への情報漏えいリスクの観点からそもそも現場にアクセスすることが困難ケースも多い。

事業DDは、プロジェクトの回転率がいいためスタッフのトレーニングには最適である。ライブラリーリサーチのような二次情報の加工・分析スキルは身につくものの、現場のリアリティ、生々しさといった一次情報を足で稼ぐスキルを獲得するチャンスを逸することになる。

実際、ジュニアコンサルタントにこの傾向が現れつつあることを目にしつつある。それは実現可能性に配慮しない頭だけのインサイトがモロに見受けられることだ。事業会社経験が長いプロブレムソルバーからするとありえない提言が素晴らしい提案として出され、それができないことを指摘すると、組織のケイパビリティが不足しているからではないかと悪態を付く始末。

可能ならば事業会社に出向させるのが最適解だが、現状そうは上手くいかないため、プロブレムソルバー傘下のプロジェクトにおいては、事業DDのスコープを限定し、一次情報に基づくインサイトのみで勝負することで、事業のGO/NO GOを明確に提示することとした。狭く深い事業DDとしたわけだ。

クライアント側も慣れないスタイルだが、そこは啓蒙して行くことが必要になる。

ジュニアに伝えたいことは、事業は現場で営まれているという極めて当たり前のことを体感してもらい、現場は本当に面白いということ。寺山修司をもじって、「若者よ、現場に出よ」
実行支援フェーズが深まってくると、より事業に入り込むため、クライアントに情報優位性が増すためコンサルとして、反論が難しいケースに頻繁に出くわす。

コンサル(以下、C)「コスト優位性をさらに高めるために、バリューチェーンの生産機能のなかで、XXXについては付加価値が高いため、内製化が必要と考えます。現に5年間で粗利率を5%以上向上させている企業の特長として、XXXをZZZと捉えることで、内製化を果たしています」

クライアント「確かに参考になりますし、その通りだと思います。でもわが社のビジネスモデルはAAAなので、これらの企業群と比べてもBBBやCCCが異なるので、非常に難しいですね」

このやり取りを見ると、一見コンサルの提案が的外れに見えるだろう。しかし、実はそうではない。なぜなら、この提案はその後実行に移され、早くも成果が出始めているからだ。

では、なぜ的外れではないのか?実は優秀と言われるクライアント、つまり経営企画部は論理的である。この論理的が曲者で、ネガティブチェックに非常に鼻が利く。上記の例ではBBBとCCCがネガティブチェックである。これは網羅性のワナとも言っていいと思うが、完璧でないとダメというわけだ。

しかしここに矛盾がある。ではBBBとCCCが一致していればこの戦略は上手くいくのだろうか?答えはNOだ。なぜならばBBBとCCCが一致するということは、同質化することになってしまうため、差別化とならないからだ。

しかし、ここでストレートにこの矛盾を指摘してもクライアントを論破することは出来ても動かすことは出来ない。そこで必要になるのが、ソフトなコミュニケーションに織り込む常識である。

C「なるほど、ご指摘の通りです。しかし我々は今や実行フェーズであり結果を出すことについて異論はありませんよね。このプロジェクトはAAAをOOOに変革することを念頭に置いていることも戦略方針として定められましたよね。(得てしてクライアントは現状の延長線で考えがちであり、策定した戦略方針すら忘れていることが往々にある)ですので、OOOにすることはむしろBBBとCCCは制約条件にならないわけで、むしろ制約条件を取り払ってXXXをどうできるかということを考えましょうよ。出来ない理由を挙げると絶対出来ないという結論になります。出来るにはどうすればいいかという視点で捉えましょうよ」

とこんな感じのコミュニケーションとなる。実際は当然このコミュニケーションだけで「なるほど。わかりました!」となるケースは稀だが、クライアントの思考軸を変えることは確実に出来る。その上で、二の矢、三の矢のファクトを出していくわけだ。

どうだろう。実行フェーズの説得は、ソフトなコミュニケーションを前提とした常識を吐くことも結構あるのだ。もちろんその常識の前には愚直なファクトの積み重ねが必要であることは言うまでもない。

コンサルはロジックとファクトだけと思われがちだが、実行フェーズでは常識を適切なタイミングで正論として吐くことが効くケースが多い。

最近の経験を踏まえた気づきの集積として記しておく。
高い価格設定をしたければ、より情感価値(=判断が主観的)に力を入れるべきである。機能価値(判断が客観的)はライフサイクルが短く価格低下は半ば世の常である。

実際世の中に役立つ機能価値の典型である新薬の特許は20年で切れてしまう。また、やや情感価値が加わった著作権は50年で切れる。但し、究極の情感価値であるブランド・商標は自ら失態を犯さない限り永遠である。

即効的あるビジネスの方が、価格低下に巻き込まれる現実。社会的にはより普及が進むことから意義は高いのだが、こと実利に関しては不条理である。

高価格設定にはブランド価値を向上することが重要である。