【本編】潮騒は風にさらわれて その2 | 魔人の記

【本編】潮騒は風にさらわれて その2

潮騒は風にさらわれて その2

「…よーし、こっちこっちー…」

「おらァ、気をつけろよ! 買ったそばから傷なんかつけんなよ!」

ミュゼから征司への、微笑ましい逆プロポーズから2日後。
アージスタル号は、パカラ港湾局が所有している格納庫に置かれていた。

征司とミュゼたちを会わせるきっかけとなった、レウティマリャ島からの要人送迎の報酬により、ロダフスが買った新型魔導炉。
それがようやくパカラ港に到着し、旧型魔導炉との交換が行われていた。

旧型魔導炉は駆動音がやたらと大きく、ミュゼの聴覚を奪うきっかけになった物でもある。
征司は、それがアージスタル号から取り外されて新型と入れ換えられるのを見て、ある決心を固めていた。

パカラ港に着いた当初は、ロダフスが仕事の報告などをする必要もあり、征司やミュゼ、カリス他の主要メンバーは船を降りて港のホテルに寝泊まりしていたが、ミュゼ誘拐事件が起きてからはまた船で寝泊まりする生活に戻った。

つまり、食事も船内の食堂で行うということである。
征司とミュゼは一応客あつかいなので客室で食べることもできたが、征司はみんなで食事することを選んだ。

そして魔導炉が新旧入れ換わることとなったこの日、征司はそれまで座っていた椅子から立ち上がり、食堂にいる者たちにこう言った。

「オレ…明日、船を降ります」

征司はそう言って、皆に頭を下げた。
誰かが驚いて彼を止める、ということはなかった。

アージスタル号の誰もが、ミュゼさえもが…彼がいずれ船を降りることを予測していたのだろう。
その日の夕食は、いつもより少しだけ賑やかなものとなった。

征司は、自分がこれから何をやっていくとか、みんなにも元気でいてほしいとか、そういう挨拶はしなかった。
ただ「降りる」とだけ言った。

そこには、この別れを完全なものにしたくないという、彼の思いがあった。
しかしこの日、寝る前に彼はヴァージャにこんなことを言う。

「…お礼だけは、明日…あらためて言っとかないとな」

”どっかぼんやりとした別れにしたいんじゃなかったのかよ?”

「きっと、それじゃダメなんだと思う。明日からはアイツと戦うための毎日になる…変にふわっとした別れにしちゃうと、きっとオレは甘えてしまう気がする」

”…まぁなー…いろいろあったが、実際楽しかったからな。ヤツを探してぶっ飛ばすってことになりゃ、この世界でもキツいことがあるのは覚悟しなきゃならねえ。お前の言う通り、キッチリ切り替えておいたほうがいいのかもな”

「うん…だったら晩メシの時にきっちりお別れ言えよ、って話ではあるんだけどな」

”そりゃお前…できるだけ別れの言葉を言いたくねえってことじゃねーのか。俺がいちいち言わなくたってわかってるだろ”

「ああ、わかってる。できればもっと別の形で、みんなに会いたかったな」

征司はそう言いながら、ベッドの方をちらりと見る。
そこにはミュゼがひとりで寝ていた。

征司は彼女と同室だったが、ずっとソファで寝ていた。
アージスタル号で過ごす最後の夜も、征司がそれを変えることはなかった。

そうしてベッドをじっと見ていると、やがて客室のドアから鍵を開ける音が聞こえてくる。

「…」

征司は一瞬身構えるが、次の瞬間には体から力が抜けていた。
入ってきたのはカリスだった。

「……」

暗がりの中、彼女はソファで横になっている征司に手招きをする。
どうやら彼が起きているのを彼女はわかっているようだ。

征司も手招きに誘われ、そっと客室から出た。
ふたりはそのまま船の甲板へ向かった。

「…あたしの警備も、今夜で終わりってわけだね」

甲板に出たカリスは、征司に背を向けたままでそう言った。
深夜ということもあり、港町からは光が消えてしまっている。

征司はカリスに向かって、苦笑いしながらこう言った。

「オレが何度興味ないって言っても、あんたはミュゼのこと心配し続けてたよな」

「ああそうさ、当たり前じゃないかそんなもん」

カリスはそう言って振り返る。
素早い手つきで腰からナイフを抜き、切っ先を征司へと向けた。

「男はいつ『その気』になるかわからない…『その気』になったら止められない部分があるってことも知ってる。だけどミュゼが一緒にいたいっていうから、できるだけ邪魔せずにいたんだ」

「それで深夜の警備、か」

「おかげで肌荒れがひどいんだよ。責任とってもらいたいね…ったく」

ため息まじりにそう言って、カリスはナイフをしまう。
彼女は甲板の縁まで行き、そこに座った。

「あんたさ、船降りて…どうするつもりなんだい」

「……さて、どうしようかな」

「マジメな話だよ」

「わかってるよ。だけど、きっと…知らない方がいい」

「元海賊のあたしに向かって、言うじゃないか」

「あんたが今も海賊なら、もしかしたら言っていたかもしれない」

「…ふうん」

カリスはどこかつまらなそうに言う。
そしてそばに来た征司を見上げてこう続けた。

「やっぱりあんたは、不思議なヤツだね」

「そうかな?」

「そうさ…いろんな男を見てきたつもりだけど、結局よくわかんないヤツだよ。あんたは」

「…自分じゃそんなに複雑だとは思わないけどな」

「その『自覚のなさ』が、よくわかんない部分に拍車をかけてるんだろうね」

「そういうもんかな…」

「そういうもんさ」

ここで会話は切れた。
断言されたので征司は黙り、征司が黙ったのでカリスも黙った。

夜の海は穏やかであり、揺らめく藍色のベールが海面を漂っているようにも見える。
ただ征司たちは沖に背中を向けているため、その一部分しか目にすることができない。

静まり返った深夜の港町を見つめるふたりの間を、潮の香りに染まった風が吹き抜けた。
風の感触を肌で、潮の香りを鼻で感じながら、征司はこんなことを思う。

(もう、ここに来ることもないんだろうな)

脳裏に焼き付けるように、征司はパカラ港の風景を見つめている。
瞬きはまるでアナログカメラのシャッターのようであり、灯りが消えた何ということもない建物の光景が、少しずつ彼の心の中へたまっていく。

(アイツの情報を集めるのは、もっと大きな街に行ってからだ…もしこの近くで戦うようなことがあったら、みんなを巻き込まないとも限らない。できるだけ遠く、そしてできるだけ『なんとか』いう貴族の屋敷に近い街へ行こう)

弱小貴族だったレブリエンタ家が、それより勢力の強いカッシード家を飲み込んだということで号外が出たのは、もうかなり前の話である。

ミュゼ誘拐事件のせいで詳細な名前は記憶から飛んでいたが、それはまた明日になって調べ直せばいいと征司は思っていた。

そんな時にふと、再びカリスに声をかけられる。

「ねえ」

「ん?」

「あんたさ…深夜に女とふたりきりでいるってのに、何も感じないのかい?」

「何もって、あんたはオレのことキライなんだろ? 怒られるのももう慣れたし、別に何もないさ」

「はーん…こりゃいよいよ、あたしも『曲がり角』曲がっちまったようだねえ」

「曲がり角?」

「女にはいろんな曲がり角があんのさ。あたしの色気も、ついに子ども向けじゃなくなったって思ってね」

「ははっ」

征司は思わず笑う。
その笑いに、カリスはこれまでにないスピードでナイフを抜いた。

「笑い事じゃないんだけどね」

「ごめんごめん」

「ったく…」

ナイフを突きつけられても全く動じない征司に、カリスはつまらなそうにため息をついた。
その後でナイフをしまい、彼にこう尋ねる。

「あんたさ、別の世界から来たっつってたけど」

「ん? ああ」

「誰か大事な人とか、置いてきたんじゃないのかい?」

「大事な人…」

征司は考える。
とはいっても、彼にとっては「自分を知っていて生きている人間」の方が少ないため、その中で味方といえば思い浮かぶ顔はひとつしかない。

「大事な人っていうのかどうかはわかんないけど…うん、いることはいる」

弥生の顔を思い出しながら、征司はカリスにそう言った。
すると彼女は突然、やけに神妙な表情で彼に尋ねてくる。

「そっちの世界に帰る方法とか、その人と連絡を取る方法とか…そういうのはあるのかい?」

「いや、全然わからないな。だけど、ここは魔法の世界なんだろ? なんかうまい方法があるんじゃないかなとは思ってるけど」

「そうかい…魔法に関する知識とかっていうのは全然ないから、あたしたちは役に立てないけど…時間が許す状況になったら、できるだけ早くその人に無事を知らせてやりな」

「ああ、そうするよ」

「絶対だよ」

「…なんであんたがそこまで言うんだ?」

「わかんないかねえ」

カリスはそう言って、征司から視線を外す。
また静まり返った港町を見ながら、彼にこう言った。

「待つってのは、精神的にキツいもんなんだよ。無事かどうかわかるだけでも違うもんさ」

「……」

「どうせ待った分のキツさを理解しろったって、あんたにゃ無理だろ? だったらせめて、そういうとこで愛情見せてやりな」

「…ど、努力するよ」

「努力じゃダメだ。絶対に連絡をとるんだよ」

「わ、わかった」

「よろしい」

カリスは満足げにうなずき、その場から立ち上がる。
軽快な動きで縁から甲板へふわりとジャンプし、下り階段に向かって歩き出した。

「あたしからの話はこれで終わり。明日、出発の時間に寝坊すんじゃないよ」

「ああ」

「それじゃね」

カリスは征司の方を見ないまま手を振り、階段を下りていった。
彼は彼女の背中を見送った後で、縁の近くに行ってそこに座る。

(連絡、ったってな…どうすりゃいいんだか)

あぐらをかき、腕組みをして考える。
ヴァージャも偽魔たちもこの時は姿を現さず、彼にアドバイスをする者は誰もいなかった。


翌日。
朝食をみんなと食べた後で、征司はアージスタル号を降りた。

波止場に見送りに来たのは、ロダフス、カリス、ミュゼと数人のメンバーのみであり、他の船員たちは朝食後に食堂で軽く挨拶を交わした後、船の整備に向かっていた。

大多数はいつもどおりに仕事をし、特に世話になったいつものメンバーが最後の見送りに来ているという格好だった。
船長ロダフスは、満面の笑みで征司の肩を叩きながら言う。

「いろいろあったが、世話になったな! 何かあったらいつでも言ってこい! 海に関することなら任せろ!」

「ああ、ありがと…船長、痛い」

「はっはっは! あと、ちゃんとミュゼを迎えに来るんだぜ!? 待ってるからな!」

「いて、いてて」

力任せに肩を叩かれ、征司は痛がるのだがロダフスは笑って無視する。
そんな彼らを見て、カリスは笑いながらこう言った。

「大の男が、ぶっ叩かれたくらいで痛い痛い言ってんじゃないよ! あと、食い物と水には気をつけることだね。何をするにも、元気が一番だからね」

「あ、ああ…気をつける」

「セージ!」

彼の名を呼びながら脚に抱きついたのはミュゼである。
彼女はしばらく抱きついたまま、顔を上げようとはしなかった。

「……」

じっとしているが、体が小刻みに震えている。
しかししばらくすると、彼女は征司のズボンに顔をこすりつけてから、彼の顔を見上げた。

「気をつけてね! いってらっしゃい!」

「ああ、行ってくるよ。ミュゼ」

「ぜったい、ぜったいぜったいぜぇーったい、むかえにきてね!」

「…ああ」

征司は微笑みながら彼女にそう言った。
ズボンの布地が少し湿ったのを感じながら、こんなことを思う。

(アイツを倒しても、きっとここにはもう戻らない…でも、今はそんな野暮なこと、言わなくていいよな)

その思いが、彼を微笑ませた。
そしてミュゼも目元を濡らしながらにっこりと微笑み、彼から離れてカリスのそばへと下がっていった。

「急な話だったからよ、パンくらいしか用意できなかったが…腹が減ったら食うといいぜ! ただししばらく暑いみてーだから、早めに食うようにな!」

ロダフスがそう言うと、一緒に見送りに来ていた船員からパンの入った袋が征司に手渡された。
思わぬ餞別に征司は目を丸くする。

「え…だってオレ、急に言ったのに」

「だろ? 急な話だったからパンしか用意できなかったっつっただろーが。まあ遠慮すんなこれくらい。な!」

征司が急に船を降りると言ったのには、ロダフスたちに気をつかわせまいという思いがあった。
しかしロダフスたちは彼の思いをくんだ上で、持っていても困ることのない食料を餞別として彼に渡してきたのだ。

「…ありがとう」

食料が貴重であること、そして食べるタイミングというものさえも貴重であることを実感していた征司にとって、このプレゼントは望外の喜びだった。
みんなに深く頭を下げる。

そして優しい時間をくれた人たちに、彼はこう言った。

「それじゃ、また!」

別れの言葉は、言わなかった。
そして彼の言葉に呼応して、皆の言葉が返ってくる。

「またな!」

「またね、セージ!」

「しっかりやんな!」

「またなー!」

「がんばれよぉー!」

(…ありがとう)

その声を受けながら、征司は彼らに背を向けた。
長いような、過ぎてみればとても短い時間を過ごし、その思い出が心の中に蘇ってくる。

(オレにも、楽しいことがあるんだって…思いっきり笑ってもいいことがあるんだって、教えてもらったんだ。この先、きっと何があってもがんばれる気がする)

蘇る思い出を反芻しながらも、足は前に進む。
その一歩は、新たな一歩を生む。

(帰る場所、っていうんじゃないけど…なんかすごい、いい場所を見つけた気がするんだ。心が帰る場所っていうのか…そんな感じだ)

胸が熱くなり、唇が震える。
瞳に貯まる雫がこぼれ落ちそうになる。

しかしそれがギリギリのところで耐えているのは、征司が胸を張って前へ進んでいるからである。
力強い一歩を、前へ踏み出しているからである。

(オレは必ず、アイツを倒す…このままずっと何もしなかったら、きっとこの世界でもアイツは悪いことをする。その前にオレが止めなきゃいけない…オレが守らなきゃいけないんだ!)

今までは、恭一を倒すことは征司にとっても「個人的な戦い」という思いが強かった。
使命感などは全くなかった。

だがこの世界で楽しく過ごしてきたことで、彼はその使命感を手に入れることとなる。
それは「自分も誰かを守りたい」という、これまで彼の中には存在しなかった欲求が生まれたからに他ならない。

(必ずやりきってみせる…まずは手がかりだ。大きな街に行って、アイツの手がかりを探していこう!)

ズボンのポケットには、小さく折りたたまれた号外が突っ込まれている。
それを、餞別としてもらったパン入りの袋へ入れ直しつつ、まずは情報収集をしていくと行動の確認をしていた。

当然、レブリエンタ家とカッシード家という貴族の名前も、今はもう思い出している。
彼の中でしておくべき準備はすべて終わり、あとはパカラ港の鉄道駅から大きな街へと向かえばいい。

この日も海は穏やかであり、潮の香りと潮騒の音が征司の嗅覚と聴覚を心地良く刺激している。
それはある種の郷愁を感じさせるが、出発したばかりの彼はそれを力強く振り払った。

(寂しい思いはある…だけど、これはオレがやらなきゃならないこと。オレはそう決めて、ここに来たんだ)

郷愁を振り払い、そう思った瞬間だった。
少しだけ強い風が吹き、征司の周囲から潮の香りと潮騒を少しだけ遠ざける。

その後で、足に何かの震動を感じた。
震動は少し強く、征司は思わず振り返る。

(ん? 誰か何か落としたのか?)

すぐ後ろで作業をしている誰かが、荷物でも落としたのだろうと彼は思った。
振り返ったのは、何気ない行動だった。


ぱた
ぱた
ぱたり


「…え?」

直後に、そんな音が聞こえた。
音をした方を征司が見ると、陽光で輝く沖の海面が見えた。

その後、彼の視覚はもう少し手前を見る。
そこにはふたりの人間が立っている。

(…え?)

ふたりの人間の片方は小さく、片方は大きい。
そのふたりは親子のように手をつないでいる。

奇妙なことに、その人間たちの前には何か赤いものが落ちている。

「あ…?」

大きい物と小さい物が6つずつ、計12個の物体が落ちている。
大きい物は赤い液体を吹き出しており、小さい物は球体に近い。

物体が落ちている周囲は、大きい物が吹き出した赤い液体で濡れている。
それはつい先ほどまでその場所にはなかったものだった。

(なん…なんだ? 何が落ちて…?)

征司は思わず左側を見る。
そこには、つい今しがた自分が降りたアージスタル号がある。

アージスタル号から視線を移動させていくと、自分が出発した場所に自然と目が向かう。
だがそこにいるのは、ふたりの人間。

そしてそこにあるのは、計12個の何か。
赤い液体を吹き出す大きな物6個と、その手前に転がる小さな物6個。

「…? ……?」

何度も確認する。
だが、わからない。

そんなものはそれまでそこにはなかった。
自分が振り返るまで、そこに大きな物と小さな物などなかった。

赤い液体などなかった。
存在しなかったはずのものが、今彼には見えている。

(何が…何が起こって…?)

今は、旅立ちの朝だった。
征司にとってはそうだった。

だが振り返っても、彼を見送ってくれた人はいない。
ただひとりを除いては。

「…ちゃんとむかえにきてね? ぜったいだよ…セージ」

そして今までいなかったはずの人間は、「彼女」の手を握りながらこう言った。

「お前に幸せな時間が訪れることなど、絶対に無い…この私が生きている限りはな」

そう言った後で、その人間は笑った。
そして手をつないだ小さな人間とともに、その場から姿を消した。

「なに、が…ああ……?」

征司は力を失い、ひざから崩れ落ちる。
潮風は鉄錆の臭いへと変わり、その臭いは彼の中の何かを狂わせる。

へたり込んだ彼のそばに、計12個のうち小さな物ひとつが転がってくる。
何とはなしにそちらを見ると、心の中に誰かの言葉が浮かんできた。


”誰か大事な人とか、置いてきたんじゃないのかい?”


転がってきた小さな物を見て、なぜかそんな言葉が浮かんだ。
だが征司には理解できない。

自分のそばに転がってきたものが、たった今別れを告げたカリスの頭部であることなど、理解できようはずもない。

「なんだよ…? 連絡、とれって言いたいのか? そんな話…もう、終わったはずじゃ……」

カリスの頭部から目を離し、計11個となった「大きな物と小さな物」を見る。
彼女の服を着た体が、首の切断面からまだ大量に血を吹き出させている。

征司に理解などできはしない。
その隣で、ロダフスも同じようになってしまっているなど、彼にはわからないのだ。

そしてミュゼだけがそうならず、どこからともなく現れた恭一によって彼女が連れていかれたことも、彼には理解できなかった。
だがその目は見ている。

アージスタル号の降り口に、ロダフスとカリスを含む6人分の死体が突然現れたのを、征司の目は見続けていた。

しかし彼はそれを理解することはできず、へたり込んだまま…
ただ全身を震わせるばかりだった。


>その3へ続く