第21話:アマラ神殿~アマラ深界・第4カルパ:1/5 | 魔人の記

魔人の記

ここに記された物語はすべてフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。オリジナル小説の著作権は、著者である「びー」に帰属します。マナーなきAI学習は禁止です。

★1/5話 ノア降臨★

>アマラ神殿・中枢。
逆ピラミッドの形をしたその場所へ入ると、そこには意外なほど広い空間がフィフス・バベルたちを待っていた。

カハク「わ…」

コダマ「すっごい広いねー?」

光介「ああ…」

>その中央には祭壇があり、4本の柱が円状の屋根を支えているのが見えた。
柱はどうやら二等辺三角形の形をしており、長い角の部分が中央を向いている。

ウィルオウィスプ「アレ イガイ ナニモナイ… ソレガ ココガ ジュウヨウダト オシエテ クレテイルナ…」

>屋根は祭壇の屋根であり、中枢の天井ではない。
それはここから見えないほど高かった。

カハク「…勇がいるわ」

>中枢の中は暗く、それ以外に見えるものといえば柱が取り囲む赤い液体のようなものと…

勇「…最後の仕事だ。もうちょっとガンバってくれよ」

>立ち上るマガツヒに体中を包まれているヒジリ、そしてそれを見上げる勇の姿だけだった。
ヒジリは円状の屋根に、はりつけにされている。

勇「こいつが終われば、好きなだけ休んでいいからさぁ」

>勇の言葉に、ぐったりとしていたヒジリが顔を上げる。

ヒジリ「……まったくだ。マガツヒがムズがゆくて、やってられねぇよ」

カハク「な、なにやってるの?あれ…」

光介「…」

ヒジリ「こんなバカげた仕事はさっさと終わらせて、一服したいね」

>すり切れそうな強がりを言うヒジリを、勇は無表情で見上げている。
フィフス・バベルたちは、そんな彼の背後に立っていた。

勇「まあ、お前らは人に使われていくらだからなぁ。少し苦しいかもしれないけど、しっかり頼むぜ」

>そう言った後、勇は振り向いた。

勇「ご苦労だったね、光介。おかげで助かったよ」

コダマ「なんだか態度が違うねー?」

ウィルオウィスプ「オモイドオリ ニ モノゴトガ ハコンデ ゴキゲン ミタイダナ」

勇「君のおかげで、異神たちの持っていたマガツヒを手に入れる事が出来た」

カハク「君、だってさ…さっきはさんざんオマエって呼んでたクセに」

勇「これだけあれば、ムスビのコトワリを啓ける」

光介「勇…一応言うが、止めろ」

>フィフス・バベルが言うと、勇は呆れてみせた。

勇「そんなナリで善人ぶろうってのか? ホント、オマエは何も分かってねぇな。大したお人好しだよ」

カハク「どう考えても、こっちが素よね」

コダマ「そだねー。もともとはコースケとトモダチだったみたいだしー」

勇「あそこに架けられてるのが、オマエかも知れなかったってのになぁ」

ウィルオウィスプ「…?」

勇「いいか、こんなやり方を思いついたのは俺じゃない、アイツなんだよ」

ウィルオウィスプ「ドウイウ コトダ?」

光介「…」

勇「もっとも、ヤツは自分がマガツヒを集める側で……あそこにはな、俺たち2人のうちどちらかを架けるつもりだったのさ!!」

カハク「!」

コダマ「えぇー!?」

ウィルオウィスプ「ヤハリ ヒジリ… コースケヲ ハメヨウト シテタ!」

ヒジリ「……俺は手法を考えてみただけだ。実際にそうしたかは分からんよ」

>その言葉に、勇はヒジリを見る。

勇「…オマエはやったさ」

光介「…」

勇「こんな世界だ、ヒトの命なんかに大して意味は無い……」

カハク「この言葉、あたしたちも聞いたわ!」

コダマ「アサクサのターミナルで、言ってたよねー?」

ウィルオウィスプ「ヒジリ コースケニ ナイショデ イサムトモ イロイロ ハナシテ タンダナ」

光介「どうやら、そうみたいだね」

勇「…これはアンタの言葉だろ?」

>ヒジリはまぶたを閉じ、笑う。

ヒジリ「…何を言っても、言い訳にしか聞こえんのだろう? 好きにするがいいさ」

カハク「アマラ経路3に突入する直前に、ヒジリが変わったのは…コースケを『使おう』とするつもりだったのかも…」

ヒジリ「手に入れるもののため、捨てるものもたくさんある」

コダマ「とはいってもー、あそこに架けられたらどうなるのか、全然わかんないけどねー」

ヒジリ「俺もそうしてきたしな。オマエが思う道を行けよ」

>ヒジリはまぶたを開いた。

ヒジリ「だが、オマエは多くの代償を払うことになる。それを忘れるなよ」

>勇はそれに、あざけりの言葉で応えた。

勇「言われなくても好きにするよ。ここを支配しているのは俺なんだからな」

>勇は振り返る。

勇「…見てな、光介」

光介「…」

勇「これが偉大なアマラの支配者、勇サマに逆らうヤツの末路さ」

>勇はヒジリに向かって、左手を突き出す。
親指だけを立て、そちら側が上になっていた。

勇「それじゃ、サヨナラだ。好きなだけ休んでくれ」

>唯一立っていた親指を、手首を反転させることで下に向ける。
その姿に、ヒジリは力なく笑った。

ヒジリ「ハハハ…まあ、せいぜいガンバるんだな……」

>直後。
ヒジリを拘束していたものが、解き放たれる。

ウィルオウィスプ「エ!」

コダマ「!」

カハク「なっ…?!」

>ヒジリは足下へ落ち…赤い液体のようなものに全身を侵食される。
やがてヒジリの身体は、一瞬にして糸がほどけるようになくなってしまった…

カハク「き…消えちゃった…わ」

コダマ「ど、どういうことなのー?」

光介「多分…ヒジリさんは、ナイトメア・システムのようにマガツヒ集めの道具に使われたんだろう。マガツヒが充分溜まったから、あとはヒジリさんの中にあるマガツヒも搾り取るために…」

ウィルオウィスプ「…オトシタ ノカ」

光介「俺の推測でしかないけどね。でも、ヒジリさんはターミナルでボルテクス界の様子を見ることができた…そこから考えれば、人の身体を使ってマガツヒを集める方法を思いついても、不思議じゃない」

カハク「完全に…道具あつかいね…」

光介「ただ、祐子先生が持ってるような力が俺や勇、ヒジリさんにはない…だから、マガツヒの流れをごっそりコントロールするまではいかない」

カハク「それでも、マガツヒ集めくらいはできる…そう判断したのね」

光介「ああ。そしてその思い通りに事が進んだ。でも、いざ実行しようっていう時に、勇においしいところをかすめ取られてしまったってところだろうね…」

勇「上出来だね」

>勇は満足気に言う。
彼自身も、ヒジリが落ちた場所に立ってはいるが、落ちてしまうようなことはないようだ。

ウィルオウィスプ「カブキチョウデ イサムガ イキナリ オカシク ナッタノモ… モシカシテ ヒジリノ セイカ?」

光介「それは俺にはわからないよ。マントラ軍の残党たちの拷問のせいで歪んでしまったのかもしれないし、ただ単に世界に絶望しただけかもしれない」

カハク「…」

光介「俺たちが知らない謎を残したまま、平然と世界は回るんだ…そういうものなんだよ」

コダマ「なんだかー…ボクさみしいよー…」

>赤黒い水溜りのようなもの。
ヒジリが消えたその場所に、勇は悠然と立っている。

勇「これだけマガツヒがあれば、心配ないだろう」

>勇とフィフス・バベルは向き合っている。
だがその距離は、目で見ているものよりもとてつもなく遠い。

勇「……経路の向こうの奥底、無限のアマラから俺の守護がやってくる」

光介「…」

勇「そこにいるのは、時間の流れからも外れ、名前すら失った存在……そう、そいつは絶対の孤独を支配する神なんだよ」

光介「絶対の孤独…そんなものは、存在しないよ。まあ、言ってみたところで…勇に俺の言葉は届かないけどさ」

カハク「コースケ…」

勇「……でも、名前がないままじゃ具合が悪いなぁ。そうだな、漂流する神………ノアとでも名付けておくか」

ウィルオウィスプ「ノア…!」

カハク「ノアって、あの箱舟のノア?」

光介「多分ね」

勇「出ておいで、ノア……」

>その言葉と共に、透明な何かが現れる。
勇の身体はそれに包まれ、小さな気泡をまといながらゆっくりと上昇する。

コダマ「おー…浮いていくよー…?」

>勇は身体を丸くし、突如現れた赤い球体に二重に包まれた。
その頃には、四つ足の巨大な物体がフィフス・バベルたちの目にもはっきりと見えてくる。

カハク「で、でかいわね…! っていうか、ノアって人間じゃなかったの!?」

光介「この世界では、こういう姿みたいだね」

ウィルオウィスプ「ナカナカ ツヨソウダ ナ」

>頭が大きく、足は短い。
全身には等高線のような曲線が入っているが、大部分は半透明だった。

光介「この姿を見るのも、随分久しぶりだな…」

>勇の体が入った赤い球体は、頭部へと移動する。
その移動を終えた頃、赤い球体はこの半透明な怪物の眼球部分であるかのような錯覚を、見る者全てに与えた。

光介「見ようによっては、体がずんぐりしてるからかわいくも見えるけど…」

カハク「こんな時にカワイイも何もないでしょ。コダマのマイペースぶりがうつったんじゃない?コースケ」

光介「そうかな?」

コダマ「さすがのボクでも、ここではおちゃらけらんないよー…トモダチと敵同士だなんて、やっぱりさみしいことだよー」

光介「…ああ、その通りだね」

>ノアの中から、勇の声が聞こえてきた……

勇「どうだい、光介? これが俺の神だ。すげぇだろ」

光介「すごいね。いずれ、倒させてはもらうけどさ」

勇「これでもうすぐ……もうすぐ、ムスビの世界ができるんだ」

カハク「…」

コダマ「……」

勇「誰も干渉しあわない、新しい幸せの世界がね……」

>そう言い残し、勇とノアは消えた……

ウィルオウィスプ「ム… キエタゾ」

光介「さて、アマラ神殿の用事は今回は終わりだ。外に出よう」

カハク「う、うん」

コダマ「…」

>フィフス・バベルたちは中枢を出た。
すると前方上空に天使パワー、天使ドミニオンが姿を現す。

パワー「……!」

ウィルオウィスプ「デグチノ トコニ テンシタチ…?」

カハク「戦うの?」

光介「…いや」

パワー「あの方の仰られた通り………遂に一つのコトワリが啓かれたようだな」

ドミニオン「案ずることはありません。千晶様も動き出されております」

コダマ「そっかー…千晶も守護を降ろすために、動いてるんだよねー…」

ドミニオン「私たちを導くヨスガの守護が、アサクサの地に降臨する時も近いでしょう」

カハク「…え?」

パワー「…では、我らも急ごうか。愚か者どもに裁きを与えねばならん……」

>天使たちはいなくなった。

カハク「ねえ、コースケ」

光介「ん?」

カハク「千晶は今、アサクサにいるの? 天使たちは、守護がアサクサに降臨するって言ってたけど…」

光介「…」

>フィフス・バベルは何も答えないまま、アマラ神殿への出口に向かおうとする。

カハク「ちょ、ちょっとコースケ! いきなりシカトはないんじゃない?」

光介「…いいから、まずはターミナルまで戻るんだ」

>フィフス・バベルの言葉の中には、今までになく険しいものが含まれている。

ウィルオウィスプ「コースケ…?」

コダマ「い、一体どうしたのさー? なんだか、コースケらしくないよー」

カハク「…そこまで戻れば、教えてくれるのね?」

光介「ああ…」

>重苦しい沈黙。
アマラ神殿の景色は、それとはまったく逆の穏やかな姿を見せている。

光介「…」

>回廊への扉を開け、フィフス・バベルたちはターミナルまで戻ってきた。

光介「これから…」

カハク「…」

コダマ「……」

ウィルオウィスプ「……」

光介「お前たちには、今までにない覚悟が必要になる」

コダマ「え?」

カハク「…どういうこと?」

光介「今から見る光景は、俺が何度も見てきた中でも…とびきりトラウマ度が高い。それは、ライドウとの『死の鬼ごっこ』を軽く超えるほどのものだ」

ウィルオウィスプ「ソレハ… ヨッポド ダナ」

光介「さらに、俺たちはヨスガルートを目指してここまでやってきた。お前たちにとって、ここから先の戦いは…想像を絶するものになると思う」

カハク「な、なによ…もったいぶっちゃって。みんないっしょなら最強よ、あたしたちは」

コダマ「そうだよー! 魔人たちだってあと1体ってトコまできたんだぞー★」

ウィルオウィスプ「…」

光介「…」

>フィフス・バベルは仲魔たちを見回した。
その中で、ウィルオウィスプと目が合う。

ウィルオウィスプ「…」

>ウィルオウィスプは、フィフス・バベルにうなずいてみせた。

光介「もし、見てられないほどつらかったら、コダマとカハク…お前たちは戦闘に参加しなくてもいい」

カハク「なっ…!」

コダマ「な、なに言ってるのさ、コースケー!」

光介「まともにこれからのことを見ていけるのは、多分…外道であるウィルと、幽鬼であるピシャーチャくらいのものだろうからね」

カハク「ば、バカにしないでよ! あたしたちだって、今までそれなりにつらい状況を乗り越えてきたつもりよ!」

コダマ「そ、そうだよー! さっきだって、勇と戦うのはつらいけど、がんばろうって決心したばっかりなんだからー!」

光介「どうするかは、お前たちに任せる。でも、あまりにつらくて投げ出してしまっても、俺はお前たちを責めない…それを、先に言っておくよ」

カハク「…なによ、それ…!」

コダマ「そんなさみしいこと言わないでよー! ボクら、ずっといっしょに仲魔としてやってきたじゃないかー!」

ウィルオウィスプ「カハク コダマ」

>ウィルオウィスプが、カハクとコダマの前に一歩踏み出す。

ウィルオウィスプ「ウォレ メノマエデ マネカタノ カワ ハガサレテテモ ベツニ キニシナイデ スム… サイショハ オドロクケド スグニ ナレルコト デキル」

カハク「サカハギと出会った時のこと言ってるの? 確かにあの時はひどいこと言っちゃったけど、ちゃんと謝ったでしょ!? それにその時の怖さだって、今はもう乗り越えてるわよ!」

ウィルオウィスプ「ソウイウ コト チガウ」

カハク「何が違うってのよ! 大体、なんでアンタとピシャーチャだけが平気だって言われちゃってるわけ? あたしたちの覚悟って、そんなに軽いと思われてんの?!」

ウィルオウィスプ「カハク」

>ウィルオウィスプは、カハクにさらに近付いた。

カハク「な…なによ」

ウィルオウィスプ「ウォレ イキノコルタメ ヒツヨウナラ マネカタタチノ カワ ハガセル。 デモ カハクハ キット ムリ」

カハク「…!」

コダマ「そ、それは…ボクもムリだよー……」

ウィルオウィスプ「コースケ ソノコト イッテル。 カハクト コダマノ ココロ ヨワイッテ イッテル ワケジャナイ」

カハク「じゃあ、なんだっていうのよ…ちゃんと説明してよ!」

ウィルオウィスプ「カハクタチ ト ウォレタチ… ココロノ シュルイ チガウ。 ダカラ コースケ ムリスルナ イッテル」

光介「ウィル…もういい」

カハク「心の種類が違うって…なによそれ! 心は心じゃない! 種類なんてあるわけないわ!」

光介「見てもらうしか、実感してもらうしか…わからないことはあるんだ。だからウィル、もういい。ありがとう」

ウィルオウィスプ「…ムゥ コトバタラズ ウォレ チョット クヤシイ」

>ウィルオウィスプは下がった。

光介「じゃあ、コダマにカハク…今からミフナシロに向かうけど、さっき俺が言ったこと、ちゃんと憶えててくれよ」

カハク「しつこいわね…! あたしたちはみんな一緒で最強なんじゃない! 何があったって、離れるわけないんだからね!」

コダマ「そ、そうだそうだー! そうなんだぞー!」

光介「…」

>フィフス・バベルは、黙ったままターミナルを起動させる。
転送機能により、ミフナシロのターミナルへと飛んだ。

カハク「…なによ、ターミナルの周りには全然異常なんかないじゃない! ビビらせてくれちゃって…」

光介「じゃあ、扉を開けて外に出るぞ…」

>フィフス・バベルは扉を開け、ターミナルから出た。
仲魔たちもそれに続く。

コダマ「…!」

カハク「……っ!?」

>マネカタたちの聖地・ミフナシロ。
そこにあるのは、おびただしい血痕、倒れた体。

カハク「な…」

>マントラ軍から解放された後、元気にのほほんと自分たちの街・アサクサを復興しようとがんばってきたマネカタたち。

コダマ「なんだ、これ…」

>そんなマネカタたちの体から立ち上るのは、死臭。
動かない体は、ただの骸。

カハク「なによ、これ…一体何だっていうのよ……!」

ウィルオウィスプ「……」

>それは、サカハギが行っていた「マネカタの皮を剥ぎ取る」などというものとは次元が違っている。
そもそもその数が、あの時を遥かに上回っていた。

カハク「ねえ、コースケ! なんなのよこれは! 一体何が…」

光介「…」

>そこら中に散らばる体。
聖地の土は、赤黒く染め上げられている…

カハク「言いなさいよっ! 一体何があったっていうのよぉっ!!」

>聖地の空気は、カハクの叫びでただ震えるばかりだった……

>2/5話へ続く…


→ト書きの目次へ


※ポチッとランキング投票※
→ランキングサイトへの移動画面が出ます。
そこでポチッとしていただくと、投票完了になりますのでよろしくお願いします★
人気ブログランキングへ