★4/5話 魔女とアラディア★
>アマラ深界・第3カルパの覗き穴。
喪服の淑女は、高尾 祐子についた神・アラディアについて、フィフス・バベルたちに語る。
喪服の淑女「アラディア…このボルテクスに居る事が許されない、異世界より迷い込んだ虚構の神…」
>彼女の言葉と共に、あるイメージがフィフス・バベルたちに流れ込んでくる。
コダマ「わー?」
>それはまるで宇宙の星々を表したかのような、闇と光る球体、そしてその軌道を示す円状の線たちだった。
コダマ「なんだか、宇宙みたいだねー」
カハク「そうね…」
喪服の淑女「時空の解け流れるアマラ宇宙…ここには無数のボルテクスが存在しています」
光介「あの球体は星…っていうよりも、世界そのものと考えた方がいいかもしれないね」
ウィルオウィスプ「ホシ ジャナクテ セカイ… ウォレ イミ ワカランチン!」
カハク「あたしもよくわかんないけど…要するに、あの球体がボルテクスってことよね」
光介「ああ。こんな世界が、アマラ宇宙にはたくさんあるってことだよ」
喪服の淑女「その内の一つが、アラディアが本来、在った所」
カハク「…」
喪服の淑女「あなたも知ってのとおり…このボルテクスは、元の世界から真なる力で生み出された正統なる世界」
光介「氷川が起こした受胎によって、ボルテクスになったこの世界は正統って意味で…」
喪服の淑女「しかし、その影には、世界で虚構とされた者が集う世界もあります」
光介「そうじゃないもの…つまり、現実とは違う世界もあるってことだね」
喪服の淑女「そう、それがアラディアが元居たボルテクスなのです」
カハク「ゴメン、コースケに説明されても、淑女さんに『そう』って言われても、あたしにはさっぱりわかんないわ…」
ウィルオウィスプ「…ウォレ モウ ウォーバーヒート…」
コダマ「…ぐぅ」
>コダマは既にピシャーチャの口の中で寝ている。
光介「あらら…コダマはもう寝ちゃってるか。お前たちも無理しなくていいよ。ここは俺が聞いておけば問題ないんだから」
カハク「…もうちょっとがんばってみる…」
ウィルオウィスプ「ウォレモ…」
光介「そうか? ここで無理する必要はないんだけど…まあ、それじゃ静かに聞いててくれな」
カハク「うん」
ウィルオウィスプ「ワカッタゾ」
喪服の淑女「そこに住む者達の願い。それは虚構たる自らの存在を現実へと変える事。その手立てを探すため、彼等は自らの世界を飛び立ち、アマラの海を越え、創世の力を持つボルテクスへと向かうのです」
光介「作り物の自分を、現実のものにするために、旅立った…か」
喪服の淑女「アラディアは、夢想にて創り出された、悲しき救い神」
>フィフス・バベルたちに、新たなイメージが流れ込んでくる。
それは、黒い布で顔を隠してうなだれる人間たちが集った光景だった。
カハク「…この人たち…」
光介「魔女たち、だね」
喪服の淑女「強き神に追われ、迫害を受けた魔女らの求めから産まれた存在です」
カハク「アラディアは、魔女たちの神…」
喪服の淑女「魔女らは、アラディアに、自分達が力を授かり自由を得ること、そして生に苦しむ民衆らが救われることを祈りました」
ウィルオウィスプ「マジョ イイヒト タチダナ」
光介「そうだね。ただ、どんな力を得ようとしていたかによって、いい人たちなのかどうかが変わるけど…まあ、今問題にすべきことじゃないから、それは置いておこう」
喪服の淑女「しかし、アラディアはその姿を地上に現すことは無く、魔女らも救われる事はありませんでした。アラディアはただ徒に希望を与えるだけの神でしかなかったのです」
カハク「希望だけの神…何かを起こすような、力はなかったってことなのね」
光介「そして魔女たちは、魔女狩りに遭い続けたんだ。女の人だけじゃない、男の人だって『魔女』と決め付けられて、かなりの数の人々が殺されたんだよ」
カハク「…」
喪服の淑女「神が創りし人間が、新たな神を創り出す…アマラの宇宙であれば、そういった神もありましょう」
光介「…」
喪服の淑女「ですが、所詮アラディアはよそ者。このボルテクスに許されぬ者にどこまでの事ができましょうか。『救われぬ自由』の神に…」
>フィフス・バベルたちに流れ込んでいたイメージが消える。
視界には、また喪服の淑女たちが見えてきた。
>彼女は、フィフス・バベルを真っ直ぐに見る。
喪服の淑女「様々な者達が、様々な言葉をあなたに投げかけているでしょう」
光介「…」
喪服の淑女「混沌の魔人たち…絶対なる者の声…そして私たち」
カハク「…ん?」
光介「どうした?カハク」
カハク「魔人たちと、淑女さんっていうのはわかるんだけど…絶対なる者の声、ってなに?」
光介「ああ、それは…第2カルパの台座の前で、俺に語りかけてきた何者かの声だよ。この時もお前たちは寝てたんだ」
カハク「そうなんだ…って、あたしたち移動中は寝てばっかよね…」
光介「敵が出ない場所だったし、俺が寝といていいよって言ったしね。だからお前たちは気にしなくていいんだよ」
カハク「そう? それなら気にしないわ」
ウィルオウィスプ「ナニモノカ ッテ ダレダ?」
光介「んー…これは説明しづらいんだけど、簡単に言えば光の絶対神とかそういう感じかな」
ウィルオウィスプ「ヨースルニ オエライサン カ」
光介「そうだね。そう考えればわかりやすいと思うよ」
カハク「それで、そいつがコースケになんて言ってきてたの?」
光介「そいつ、って…カハクも言うね。これもざっくり言えば、メノラー集めをやめろってことだよ」
カハク「それはできない相談ね」
光介「ああ。俺もカハクとの約束を放り出すつもりはないよ」
>フィフス・バベルたちは、喪服の淑女の話にまた耳を傾けた。
喪服の淑女「これだけは覚えておいてください。私達はアマラの悠久の流れの中、あなたが来るのを…時が至るのを待っていたのです」
カハク「…」
喪服の淑女「メノラーとこのアマラ深界の因果。全ての者が待ち焦がれている新たな混沌の悪魔。そして我が主が待つ最後の刻…」
>彼女はここまで言って、途端に口調を変えた。
喪服の淑女「…………理解できない事だらけよね」
光介「…」
喪服の淑女「光介君…もし君が全てのメノラーを集めて、もう一度ここまで来たら…その時には教えてあげるわ…全ての疑問の答えを」
>そしてゆっくりと緞帳が下りる。
喪服の淑女と車椅子の老紳士の姿が見えなくなり、その直後に第4カルパへの入口が開いた。
カハク「…これで、終わり?」
光介「ああ。淑女さんの話は終わりだよ」
カハク「ふぅぅぅぅ……」
>カハクは、思い切り息を吐き出した。
その流れのまま、深呼吸をする。
光介「さすがに疲れたかい?」
カハク「難しい話を集中して聞いてたから、ドッと疲れが出たって感じ…でも、そこまでがんばった割には、あんまし意味がわかんなかったわ」
ウィルオウィスプ「…」
>ウィルオウィスプは、静かにその場でたたずんでいる…
光介「ウィル?」
ウィルオウィスプ「…」
>ただただ、たたずんでいる…
光介「お、おい、ウィル!?」
>フィフス・バベルは、ウィルオウィスプを揺り動かした。
ウィルオウィスプ「…ウォ?」
カハク「ウィル、大丈夫?」
光介「どうしたんだよ、ボーっとしちゃって…やっぱりお前にも、難しい話だったかい?」
ウィルオウィスプ「ウォレ… トチュウカラ ハナシ キコエテ ナカッタ」
カハク「え? アンタ聞いてなかったの?」
ウィルオウィスプ「トチュウマデ ウォレ ガンバッテタ。 デモ… コエガ ダンダン トオクニ キコエテ ソコカラ キコエナク ナッテイッタ」
光介「ま、まさか…話が難しすぎて、軽く気絶してたとかそういうことか?」
ウィルオウィスプ「タブン ソウ」
カハク「なによそれ! あはははははっ!」
>カハクは笑い出した。
カハク「確かにあたしも頭がボーっとしてきてたけど、話の途中に気絶って…きゃははははは!」
>カハクは笑いながら、覗き穴がある柱を強く叩き続ける。
光介「お、おい。それを叩いちゃダメだって」
カハク「だ、だって…! なにか叩いてないと、おかしすぎて死ぬ…ふふふふふふっ!」
ウィルオウィスプ「…マア ワラウ キモチ ウォレモ ワカル」
>ウィルオウィスプは冷静にそう言った。
光介「ウィル…笑う理由、わかっちゃうんだね…」
ウィルオウィスプ「ギャクノ タチバ ダッタラ ウォレモ ワライコロゲルト オモウ…ソレヨリモ」
光介「ん?」
ウィルオウィスプ「シュクジョサン ケッキョク ナンノセツメイ シタ?」
カハク「だからアラディアのことでしょ! っくふふふふ…!」
>カハクはなおも笑い転げている。
光介「…笑い倒してるカハクはほっといて…まあ要するに、アラディアっていうのは『魔女たちがつくった力のない神』っていう説明だったんだよ」
ウィルオウィスプ「ソレ ウォレノ ケンゾク ヨリ ヨワイ?」
光介「眷属って、それは…病院で出てきたウィルオウィスプたちのことかい?」
ウィルオウィスプ「ウン。 ウォレ アイツラヨリ レベル カナリ タカイケド アイツラハ レベルイチノ ママ」
光介「ん~…」
>フィフス・バベルは数秒考えて、ウィルオウィスプにこう言った。
光介「でも、俺はそのアラディアから力を得て仲魔のストックを増やせたんだし、このボルテクスでは『全くの無力』というわけじゃないと思うよ」
ウィルオウィスプ「ソウカ… ナルホド」
カハク「なるほど、ってアンタほんとにわかったの?」
ウィルオウィスプ「ナントナク ダケドナ。 コースケノ セツメイノ オカゲ」
カハク「え…わかったんだ」
>カハクは笑うのをやめた。
ウィルオウィスプ「アラディア マジョタチノ カミ デモ イマハ ユーコセンセーノ カミ」
光介「そうだね。今は祐子先生について、俺に力をくれたり祐子先生を連れ去ったりしてる。もしかしたら創世の争いに乗じて、何かしてくるかもしれないけど…」
カハク「そうなの?」
光介「いや、その可能性は低いと思うよ。っていうか、ない」
ウィルオウィスプ「ドウシテダ?」
光介「そもそも祐子先生が、俺と戦うつもりがないからだよ。それに、俺たちが創世の切り札になるなんて、考えてもいないんじゃないかな」
カハク「そっか…コースケがセンセーっていうことは、センセーにとってはコースケって教え子だもんね」
ウィルオウィスプ「ユーコセンセー オシエゴニ テ ダサナイ?」
光介「そういうことだね。それじゃ、ここでの用事は終わったし、ぼちぼち戻ろう」
カハク「戻るって…どこに戻るんだっけ?」
光介「アサクサだよ。俺たちはあそこから、オベリスクを目指したんだ…忘れたのかい?」
カハク「あ、オベリスクか…魔人との戦いとかライドウとの鬼ごっことかで、すっかり忘れちゃってたわ」
ウィルオウィスプ「ウォレモ」
光介「俺も実は、ちょっと忘れそうになってたけどね。それじゃ、ターミナルでアサクサに戻ろう」
>フィフス・バベルたちは、アマラ深界の入口まで戻った。
そしてそこにあるターミナルの転送機能を使い、アサクサへと戻った。
>5/5話へ続く…
→ト書きの目次へ