今日「こどもの日」のネタとしてはいささか気が引けるが、我が親愛なる若松孝二監督の、それも監督の存在を強く意識した、初期のピンク系映画(と敢えて書いておく)の名作に『犯された白衣』という作品がある。今からかれこれ60年近く前のパートカラー作品だ。

 

 元ネタになったのは、作品が制作される1年前にアメリカで実際に起こった、「シカゴ看護婦8人殺人事件」である。これはシカゴのジェフリー・マナーという、まるで「ミルウォーキーの食人鬼」の名前のような名称の都市にある看護婦(と敢えて書く)寮に、リチャード・スペックというアル中のろくでなし男が押し入り、9人中8人の看護婦(と敢えて書く)を凌辱し殺害した、許すべからざる蛮行の事件である。この事件にヒントを得た若松監督が、僅か3日で撮り上げたのが『犯された白衣』である。

 

 

 

 映画の方は、深夜の女子寮で同性愛行為(と敢えて書く)に耽っていた看護婦が、からかい半分で美青年を寮に連れ込んだら、実はとんでもない拳銃男で、実際の事件通り、一人また一人と男の餌食になっていくというストーリーだった。印象的だったのは、婦長が命乞いのために綺麗ごとを並べている過程で出た「白衣の天使」という言葉に男が反応する場面だ。「『天使』? 女にも『天使』がいるのか?」なんて哲学的に嘯いた男は、おびえる看護婦の一人を連れ出し、別室で柱に縛り付けると、ナイフでじわじわと切りつけて殺害する。そして息絶えた血まみれの看護婦に中途半端な装飾を施して、生き残っている看護婦たちに見せつける(このカットでいきなりそれまでのモノクロ画面がカラーに変わる!)。「これが『白衣の天使』か」と。そして返す刀で「お前も『天使』になるか?」という男の言葉に、悲鳴を上げて逃げ惑う看護婦たち(特に婦長)の姿が鮮烈に記憶に残っている。

 

 

 初期の若松映画の魅力は、何といっても言葉の応酬(しかも哲学的)だが、本作においても上記の如くで、かの名作『新日本暴行暗黒史復讐鬼』に匹敵する高尚さだ。結局男は、最後に彼に母性を感じさせ彼を説得する新米看護婦のみを生かし、それが仇となって、新米看護婦の通報を受けた警察に御用になる、という結末を迎える。この新米看護婦を演じたのが坂本道子、後の夏純子である(坂本名義は本名)。その後も可憐ながら「小悪魔」や「ズベ公」役が似合う女優になっていくが、その原点が『犯された白衣』だったわけだ(;^_^A

 

 

 ちなみに、件の男を演じたのが、若き日の唐十郎氏である。今日、その唐氏の訃報を(休日)出勤途中のカーラジオで聴いた時、脳裏をかすめたのが、この『犯された白衣』だった。氏の偉大さはここで語るまでもなく、まさに芸能界(という言い方を氏は好まないかも知れないけど)の‟巨星墜つ”という事態なんだけれど、私の中では大好きだったNHKスペシャルドラマ『匂いガラス』の作者として、それに主演した大鶴義丹の父として、そして『女囚さそり けもの部屋』の李礼仙の夫としての唐十郎氏の印象が深い。そして、『犯された白衣』の男役として……合掌

 

 

 

 

 

 

 アングラ演劇の旗手として活躍した劇作家の唐十郎(から・じゅうろう、本名大鶴義英=おおつる・よしひで)さんが4日、東京都中野区の病院で死去した。唐さんが主宰する「劇団唐組」が5日、発表した。84歳。東京都出身。  劇団は「5月4日21時01分に(右)急性硬膜下血腫で永眠致しました」と発表。1日午前中に自宅で転倒し、中野区内の病院に緊急搬送されたという。  唐さんは、1940年(昭15)2月11日生まれ、東京・下谷万年町出身。明大文学部演劇学科卒。63年に「シチュエーションの会」(64年に劇団「状況劇場」に改名)を結成し、67年、新宿花園神社で“紅テント”公演を行う一方、根津甚八、小林薫、佐野史郎ら多くの俳優を輩出した。  86年の公演を最後に状況劇場を解散。88年に唐座をつくり、3月東京・浅草に巨大テントでつくった“下町唐座”を完成させた。  劇作家として70年に「少女仮面」で岸田戯曲賞を受賞。小説家としても78年に「海星・河童」で泉鏡花文学賞、83年に「佐川君からの手紙」で芥川賞を受賞した。横浜国立大や母校・明治大で教壇にも立った。  2021年に文化功労者。67年に李礼仙(李麗仙)さんと結婚するが、86年4月離婚。俳優の大鶴義丹は長男。

 

 

 

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