僕がそういうと、彼女は

「なぁんだ、やっぱり戦争関連じゃない」

と言って、僕から「日本の思想/丸山真男」を取り上げた。

「危ない事はやめて。私、戦争は嫌いなの」

僕は彼女の積極的な様子に少し驚きながら、

「僕はどちらとも言えないな。戦争は組織を純化するからね」と言った。

「人が死ぬのよ?恐いと想わないの」

「戦争でなくても人は死ぬよ。それに、どうせ死ぬなら戦争で死ぬ、っていう人も現代にはいるんだよ」

「本当?」

「戦争で何かのために死ぬのと生き恥をさらすのだったら前者を選ぶっていう人もいておかしくないんじゃないかな」

「生き恥?時代錯誤よ」

「うん。でも、実際に自分は生き恥さらしてるって実感してる人はいるみたいだよ。僕は戦争は必要悪とまではいかなくても人類の生き甲斐みたいなところがあると想ってるよ。暴力には反対だけどね」

「矛盾してるわ」

「うん、そうだね。でも、これが今の僕の正直なところだよ。戦争を放棄する、っていうのはどこかの国(もちろん日本)の憲法だけど、まだ人類には無理なんじゃないかな」

「そんな大上段に構えないで、素朴に応えてほしいわ」

「暴力には反対って言ったはずだけど」

「そ。戦争には反対なのね」

「なんか違うけど、スーパーハイポリティクスをスーパーローポリティクスでなんとかするには、『戦争反対』しかないんじゃないかな」

「そう。そういう事よ」と彼女は言った。

「ごまかしたでしょ」僕は素朴に言った。

「それはお互い様」彼女も素朴に返した。