ドラクエに関する秀逸な記事があったので全文引用する。

引用元:http://zenmind.exblog.jp/

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サラボナ商人道
 ようやくDS版のドラクエ5が終わったので、ルドマンのことでも書くことにする。
 ルドマンは、サラボナ在住の商人であるが、単なる武器屋だの道具屋だのといった零細の個人商店ではない。各国が航路の手仕舞いをはじめる中、最後まで自前の船を走らせていたところからみて、おそらくは、貿易商であり、現代ならば海運王などと呼ばれるような大商人であろう。
 彼の財力がいかに抜きん出ているかについては、サラボナという、実質、彼の支配下にある町を持っておることからも明白であり、これは、トヨタ自動車を彷彿とさせる。
 また、ゲマなどの暗躍により、世界は確実に下り坂に向かっている中、あえて、船一隻を丸ごとカジノに仕立てて客を呼ぶなど、貿易だけでなくエンターテインメントの世界においても大きな存在感を発揮しておる。
 さらに言えば、ブオーンを封じた先祖のルドルフは、かなりの腕前の魔術師、もしくは僧侶であったと考えられ、ゲーム中にそういった情報は無いが、単なる成金ではなく、それなりの家柄も備えておるものと思われる。
 いずれにせよ、ゼロから町を築きはしたものの人心掌握に失敗した3の商人や、王国相手の商売や、トンネルを通すなどの大事業をこなしたものの、最後には自分の店に帰っていった4のトルネコなどより、スケールの大きい商人であるということが言えるだろう。
 そういえば、彼は類稀な強運の持ち主でもある。
 彼が塔で見張っている間は、決してブオーンは復活せず、一時的に主人公達に見晴らせて準備のために自宅に戻るや、ブオーンが復活して塔へ向かってくるのである。
 主人公も、運で言えばかなりのものであるが、主人公の場合は、ニルス・カタヤイネンもかくやという、幸運と不運がどっちも全力でやってくるタイプであるから、一概に強運とは言えぬところがある。
 このように、ルドマンはただものではない。
 外見こそ冴えぬオッサンだが、一筋縄で行くような人物ではないのだ。
 しかしながら、娘の婿取りに際して、彼らしからぬところを見せる。
 ドラクエ5において、プレーヤーがどの女性を嫁に選ぶかについては、SFC版発売当初よりの大問題であった。
 今日に至るまで、ゲーマーの間では、ビアンカかフローラかという問題は、飲み会の席で掴み合いの大喧嘩に発展する可能性のある話題である。
 だが、ルドマンにとっては更なる大問題である。
 というのも、ルドマンは最初からフローラの婿取りには勇者かその縁者と決めていた可能性が高いからである。
 理由は実にシンプルだ。
 天空の盾を嫁入り道具として持たせると、宣言しておるからである。
 勇者のみが扱える伝説の防具というのは、確かに、貴重であり、世界でただの一つものであろう。
 骨董品として、また、その希少価値としても、かなりのものとなる。
 だが、勇者でなければ、その優れた防具としての性能の恩恵を受けることはできぬし、単なる美術品として評価に値するかと言えば、微妙なところである。
 要するに、一般的に有難いものではあるのだが、いわば、仏像だの壷だのといったようなものと同じで、本当に欲しがるのはマニアやコレクターであり、世紀の豪商ルドマンが提示するにしては、しょうもない物であると言わざるをえない。
 そんなものより、むしろ、ルドマンの下で修行させることを約束し、ゆくゆくはルドマン海運(仮称)を継がせると言った方が、耳目を集めるはずである。
 あえて、天空の盾の方を大きく喧伝した理由は、伝説の勇者かその縁者がやってくるかもしれないと踏んだからに違いないのである。
 あまりにも可能性の低い話だと思うかもしれぬが、実のところそうでもない。
 パパスが天空装備を求めて各地を旅していたため、パパスを伝説の勇者だと誤認しているものが居た位であるから、勇者が天空装備を求めて旅をしているという噂は常に流れていたものと思われる。
 また、件の怪しい宗教団体も、権威付けのためか天空の鎧を展示しておったことから、教団をあげて天空装備の収集を行なっていたフシがある。(これはある種、自衛のためであろうが)
 さらに言えば、ルドマンは、パパスのことも知っておるし、DS版では間違いなくその息子(主人公)の存在も知っておる。
 ルドマンがどこまで噂の実態を把握していたかにもよるが、本当に勇者が来ればよし、来なかったとしても、パパスの耳に入らぬはずがなく、そうなれば、出るところへ出れば王子様であるところの主人公が来るという計算があったのである。
 さて、ここまで準備していながら、ルドマンは自分の娘が選ばれなかった場合にも鷹揚である。
 流石に結婚後の援助(フローラ、もしくはデボラと結婚した場合、金銭や装備品をもらえる)まではしてくれぬが、そもそもの目的である天空の盾はもらえるのだ。
 となると、ルドマンの目的は、娘に最高の婿を用意したい、という親心や、あるいは、王家もしくは伝説の勇者の外戚となって権力をふるいたい、という野心ではないのではないかと判断せざるをえない。
 無論、そのような要素も全く無いとは言えぬが、優先順位として、もっと高い何かがあるのではないか。
 ここで改めて、ルドマンについて考えてみよう。
 彼は現時点で、すでに、個人としては世界一、悪くとも5本の指には入る金持ちであり、商業の分野では、頂点を極めた人物であることは間違いない。
 ということは、その言動からはあまり読み取れぬが、自分の商才に相当な自信を持っていてもおかしくはなく、あえて、娘を差し出してまで伝説の勇者や王家とのつながりを持つ必要は感じていないのかもしれぬ。
 商売の世界で、もはや敵無しと考えるルドマンにとって、商人としての成功を、世界の貿易を一手に牛耳ることに置いたとしても、その実現は、もはや、遅いか早いかの問題でしかない。
 そんなルドマンにとっての不確定要素は何か。
 ブオーンである。
 祖先が封印したブオーンが復活すれば、間違いなく、ルドマンを殺しに来るだろう。
 町を持ち、監視塔まで建てさせて尚、ブオーンに確実に勝てる保障はない。
 DS版になってより判り易くなったが、ブオーンは、もうほとんどゴジラ並みの巨大さである。
 金にあかせて傭兵を集めたところで、そんな大怪獣には無力であろう。
 ドラクエ世界において、そうした人知を超えた化け物と戦うのに必要なのは、軍勢ではなくて、優れた戦闘能力を持つ個人である。
 最も判り易いのは伝説の勇者だ。
 また、旧知の間柄であったパパスも、ルドマンの知る限り、その役割を果たせそうな人物であると判断されたのかもしれぬ。
 パパス自身に娘をやるのは年齢的に厳しいとしても、その息子の嫁となれば、パパスにとっては大事な家族であり、パパスがそれを助けないわけがない。
 パパスが既に死んでいて、息子しかいないのを残念に思ったかもしれぬが、主人公もまた、パパスに勝るとも劣らぬ逸材であると見抜いたのではないだろうか。
 結婚の条件が、ダンジョン攻略であったのも、娘を渡したくないという男親の複雑な心境の表れではなく、最低限、この程度のダンジョンを攻略でぬ者では、用を成さないとの冷徹な判断からであろうと推測できる。
 すなわち、自身の人生計画における最大の不確定要素に対抗する手段として、伝説の勇者、もしくは、自身の知る最高の戦士を求めたのである。
 だがそれでも、主人公がビアンカを選び、家族とならなかった場合には不安が残る筈である。
 しかし、あくまでもルドマンは冷徹だ。
 主人公の目的は天空の盾であり、それは、親子2代に渡る悲願を達成するために必要なものである。
 それを失う可能性があって尚、主人公が幼馴染を選んだとしたら、それは、主人公が情を重んじ、義を裏切れない人物である証左だ。
 あえて政略結婚のような真似をせずとも、ブオーンのような大怪獣が大暴れすると知れば、討伐に乗り出してくれることは、疑う余地もない。
 逆に、フローラ、デボラを選んだ場合の結婚後の援助は、金に目が眩んだと見えなくもない主人公への、ある種の不信感の表れと言えるかも知れぬ。
 このように、ルドマンは、類稀な商才と、人を見る眼とを、二つながらに備えた傑物であることがよくわかるかと思う。
 冴えないオッサンだと思っていた者は、これを期に考えを改めるべきであろう。
 最後に生き残るのはルドマンのような男である。
 ルドマンの商人道は、まだまだ、これからだ。
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慧眼であろう。