‘感じる’の濫用についても、このことがいえる。自然を感じる、光景を感じる、笑い声を感じる、臭気を感じる、痒さを感じる、匂を感じる等、‘感じる’を他動詞に使っている。これは英語風、そして知的な印象を与えるが英語にはない表現である。五感の活動について、英語は各々異なる動詞をもっている。see,smell,hear,itch等々。


英語文の中核をなすのは動詞であり、日本語では形容語である副詞句を伴う擬音表現も、英語では動詞一語をもって足りる。これらを知らぬ筈のない芥川だが、‘感じる’が彼の狙う効果をあげると判定すると、濫用してはばからない。


文末の「・・・」にも度々出会う。だが、使われ方は一定ではなく、効果をあげている例もあるが、概して濫用気味である。洋風の言いまわしをする時、日本語として効果があるかどうかに重点があり、語本来の性格について考えた形跡はあまり見当たらない。


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