建築に不可欠な窓。その中でも引き違い窓という、住宅などで一般的に使われるものでは、アルミサッシ、樹脂サッシともに断面形状の工夫や、摩擦に強くしかも抵抗の少ない気密材(パッキン)の開発により、通常のクレセントでも、高気密を実現しています。
しかし、昔は高気密を実現するためには、気密材が塩化ビニルやゴムといった、摩擦に弱く常時擦れ合うと開閉が重くなってしまうため、開閉時は気密材を離し、施錠時に押しつけて気密を得る「引き寄せ機能」が必要でした。
アルミサッシよりも前、スチールサッシの時代にも引き寄せて高気密を得るものがありました。
「エヤ(エア)タイトサッシュ」と呼ばれていた窓です。
これは、今はなき横浜松坂屋ビルにあった窓です。当時は引き違いでの引き寄せ技術が困難だったため、片引きという、片方のガラス窓が固定(嵌め殺し)の形式でした。この写真では、開閉できるのは左側のガラス窓だけで、右側は動きません。
当時の一般的なスチールサッシでは、真鍮かステンレスプレスのクレセントでしたが、これは締まりハンドルという、引き寄せ機能の付いたものです。受け側が斜めになっていて、施錠すると強制的に引き寄せられて気密材が圧着する仕組みでした。これは左側のハンドルです。
スチールサッシですが、気密ゴムの当たる面は塗料が干渉しないように、真鍮かステンレスの薄板を取り付けて、固着を防ぐ仕組みになっていました。
これは右側。完全に施錠すると、受けの斜めになった頂点まで移動して、密着します。
しかし、このスチールのエヤタイトサッシュは、維持管理に問題がありました。
スチールですから、定期的に塗装をする必要があります。その時、写真のように元々黒だったであろう気密ゴムや固着防止だった薄板まで塗装されてしまうことが多かったのです。(正式には塗装前にゴムや薄板を取り外すか、マスキングしておく必要がありました)
これが正規の姿。黒で示した気密ゴムと、黄色で示した薄板は塗装してはならないのです。
そのため、塗料によって気密ゴムが固着してしまい、冷暖房完備のビルでは閉め切っておくことが多いため、いざ開けたくても、ビクとも動かないケースが多かったようです。
私も、某病院の旧館でどうしても動かない「実質嵌め殺し」の片引きエヤタイトサッシュを体験したことがありますし、1982年のホテル火災でも、窓はスチールのエヤタイトサッシュで、宿泊客の証言で「窓が開かずガラスをたたき割るしかなかった」と聞きます。
逆に、ゴムや薄板を塗装せずワックスなどでお手入れをしている某公共施設では、50年以上経った今でも軽快な開閉でした。
スチールのエヤタイトサッシュは、その後のメンテナンス次第で、明暗が分かれる窓だと、この古い写真を眺めながら思いました。