特養に入所した義父は
家のことをしきりに気にします。
考えてみればあたりまえ。
予告なしに精神病院に入れられ
また事前通告なく
特養に移されてしまいました。
ただ自分の意志をはっきり言いません。
「帰りたい」とは一言も言わない。
義母が同居を拒んでいることを
知っているようでした。
それでも義母が元気か気になるようで
「ばあちゃんはどうしとるんや」
必ず訊かれることになります。
「連れて来なければ示しがつかない」
何故かそう思いました。
ですが連れて来ようとすると
「足が痛くて立てない」などと
義母は拒みます。
「他の入所者のご家族は見えているよ。
行かなければ世間体が悪くなる」
かなり無理な口実でしたが
これが効いたようで
痛い筈の足を引きずりもせず
ついて来ました。
ただ義父の顔を見た途端
帰ろうとします。
まるで怒られるのがいやな子供のよう。
身を引きながらも
「何か欲しいものはない?」
一応訊きました。
「家ごと持ってこい」と義父。
これはなかなか名言でした。
すべてを語っているようでした。
ただ義母の顔を見て安心した様子。
何か割り切れない気持ちで
特養をあとにしました。