営業譲渡
1 営業譲渡の法的意義
営業譲渡は、商人一般に関する商法総則上の概念であり、会社法上の事業譲渡とはここでは一応区別します。
そもそも商人の営業には、①営利活動(主観的意義の営業)と、もう一つは、②営業財産(客観的意義の営業)の意味があります。
客観的意義の営業には、積極財産と消極財産があり、積極財産には、物(動産・不動産)、権利(物権・債権・有価証券・商標権や特許権などの無体財産権)のほか、営業上の秘訣・ノウハウ(Know How)・得意先、創業の年代、社会的信用、立地条件などの事実関係(暖簾・老舗・営業権)があります。消極財産には、営業上の債務などがあります。
営業譲渡とは、営業そのものの全部または重要な一部を譲渡することです。最高裁は、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって営業的活動の全部または重要な一部を譲渡人に受け継がせ、譲受人が譲渡の限度に応じて法律上当然に、競業避止義務を負うもの(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)と解しています。
要するに、営業譲渡は、組織的有機的一体としての営業財産を一個の契約によって移転する債権契約です。このように営業譲渡により営業を一括譲渡することが可能であるが、営業譲渡は相続や会社合併、会社分割のように包括承継ではないため、個別的移転手続、つまり合意が必要であり(その際、一部の財産を除外することもできる)、かつ、必要に応じて第三者に対する対抗要件を備えなければなりません。
営業譲渡の要件は、①有機的一体としての営業財産を譲渡して(これには事実関係の移転も含まれる)、②営業の譲受人が譲渡人の営業活動を承継し、③譲渡人が競業避止義務を負うこととされます。なお一部の学説には、事業譲渡を企業の経営者の地位の交代を目的とする行為を要件とする見解もありますが、これは上述の要件①②の結果にすぎないとの反論もあるところです。
2 営業譲渡の経済的意義
営業財産を個々別々に処分すると企業は解体してしまうが、有機的一体として譲渡できるならば、譲受人はそのまま営業活動を継続することができ企業維持に役立ちます。
また、営業財産を個々別々に処分するよりは、有機的一体として譲渡する方が、より高い価格で売却することができ、譲渡人にとって有利です。
さらに、営業譲渡・譲受けによって、規模を拡大したり、営業力を強化したり、逆に、不採算部門の切り離しによる商人組織の再編、合理化に役立ち、また、後継者がいない場合には、廃業・転業のための清算手続を円滑に行えるという利点もあります。
3 営業譲渡人の競業避止義務
商法総則は、一般の商人がその営業を譲渡する場合に、譲渡人は競業避止義務を負うことを定めています。
営業を譲渡した商人(譲渡人)は、原則として(つまり、当事者の合意で排除・緩和できる)、同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、その営業譲渡日から20年間、同一の営業を行ってはなりません(商法16条1項)。
この20年という期間は、特約で延長することもできるが、その場合でも、営業譲渡日から30年を超えてはいけません(同条2項)。
もちろん、不正の競争の目的があるなら、前2項の場所的または期間的制限に関係なく、競業を行ってはいけません(同条3項)。
譲渡人に競業避止義務を課す理由は、譲渡人が営業を売却しておきながら、同種の営業を継続すれば、譲受人は対価を支払って暖簾等の事実関係を譲り受けた意味がなくなるからです。しかし、他方で、競業を無制限に禁止すると、譲渡人の営業の自由を侵害することにもなるから、競業できない場所、期間に制限を設けることにより微妙なバランスをとっているのです。
4 営業譲渡の第三者に対する関係
営業譲渡が行われても、第三者にとっては、営業の移転(営業主体の交替)がわからない場合があり、そのため、営業譲渡人の債権者または債務者を保護する必要がある。
すなわち、譲渡人の営業上の債務が特約で譲渡されなかった場合、債務は譲渡人に残るが、その債権者は営業主体の交替に気付かず、譲受人に請求したり、逆に、営業上の債権が特約で譲渡されなかった場合、その債務者は譲受人に弁済をしてしまうことにより二重弁済の危険を負うことになります。
(1) 商号の続用がある場合
営業譲受人が営業譲渡人の商号をそのまま使用(続用)する場合、営業譲渡人の債権者は営業主の交替に気付かない場合があり、仮に知っていたとしても、債務が譲受人に移転したと誤認しやすいわけです。
そこで、債務が移転していなくても、譲受人による商号の続用があれば、譲渡人の営業上の債務につき、譲受人も弁済の責任を負う(商法17条1項、会社法22条1項)。つまり、譲渡人の営業上の債務が、譲渡人と譲受人との不真正連帯債務となり、移転していない債務について譲受人も弁済しなければなりません。債権者の外観信頼保護がその趣旨であるとされるが、債権者は営業主の交替を知り得ない場合、譲受人を自己の債務者と信じたわけではないとする反論もあります。そこで、営業財産が移転したことを根拠にすべきでしょう(担保説)。
なお、営業譲渡の後、譲受人が遅滞なく譲渡人の債務について責任を負わない旨を登記するか、その旨を譲渡人および譲受人から第三者に通知すれば、譲受人は責任を免れます(商法17条2項)。
さらに、譲渡人の営業上の債権について、その債務者が商号を続用した譲受人に対して弁済をした場合、弁済者が善意・無重過失であれば有効です(商法17条4項)。なぜならば、それを有効としなければ、債務者には二重払いの危険があるからです。
(2) 商号の続用がない場合
商号の続用がなければ、譲渡人の債権者を保護する必要はないが、譲受人が譲渡人の債務をあえて引き受ける旨の広告をしたときは、禁反言の原則により、その債権者は譲受人に対して弁済請求ができます(商法18条)。
営業譲渡は、商人一般に関する商法総則上の概念であり、会社法上の事業譲渡とはここでは一応区別します。
そもそも商人の営業には、①営利活動(主観的意義の営業)と、もう一つは、②営業財産(客観的意義の営業)の意味があります。
客観的意義の営業には、積極財産と消極財産があり、積極財産には、物(動産・不動産)、権利(物権・債権・有価証券・商標権や特許権などの無体財産権)のほか、営業上の秘訣・ノウハウ(Know How)・得意先、創業の年代、社会的信用、立地条件などの事実関係(暖簾・老舗・営業権)があります。消極財産には、営業上の債務などがあります。
営業譲渡とは、営業そのものの全部または重要な一部を譲渡することです。最高裁は、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって営業的活動の全部または重要な一部を譲渡人に受け継がせ、譲受人が譲渡の限度に応じて法律上当然に、競業避止義務を負うもの(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)と解しています。
要するに、営業譲渡は、組織的有機的一体としての営業財産を一個の契約によって移転する債権契約です。このように営業譲渡により営業を一括譲渡することが可能であるが、営業譲渡は相続や会社合併、会社分割のように包括承継ではないため、個別的移転手続、つまり合意が必要であり(その際、一部の財産を除外することもできる)、かつ、必要に応じて第三者に対する対抗要件を備えなければなりません。
営業譲渡の要件は、①有機的一体としての営業財産を譲渡して(これには事実関係の移転も含まれる)、②営業の譲受人が譲渡人の営業活動を承継し、③譲渡人が競業避止義務を負うこととされます。なお一部の学説には、事業譲渡を企業の経営者の地位の交代を目的とする行為を要件とする見解もありますが、これは上述の要件①②の結果にすぎないとの反論もあるところです。
2 営業譲渡の経済的意義
営業財産を個々別々に処分すると企業は解体してしまうが、有機的一体として譲渡できるならば、譲受人はそのまま営業活動を継続することができ企業維持に役立ちます。
また、営業財産を個々別々に処分するよりは、有機的一体として譲渡する方が、より高い価格で売却することができ、譲渡人にとって有利です。
さらに、営業譲渡・譲受けによって、規模を拡大したり、営業力を強化したり、逆に、不採算部門の切り離しによる商人組織の再編、合理化に役立ち、また、後継者がいない場合には、廃業・転業のための清算手続を円滑に行えるという利点もあります。
3 営業譲渡人の競業避止義務
商法総則は、一般の商人がその営業を譲渡する場合に、譲渡人は競業避止義務を負うことを定めています。
営業を譲渡した商人(譲渡人)は、原則として(つまり、当事者の合意で排除・緩和できる)、同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、その営業譲渡日から20年間、同一の営業を行ってはなりません(商法16条1項)。
この20年という期間は、特約で延長することもできるが、その場合でも、営業譲渡日から30年を超えてはいけません(同条2項)。
もちろん、不正の競争の目的があるなら、前2項の場所的または期間的制限に関係なく、競業を行ってはいけません(同条3項)。
譲渡人に競業避止義務を課す理由は、譲渡人が営業を売却しておきながら、同種の営業を継続すれば、譲受人は対価を支払って暖簾等の事実関係を譲り受けた意味がなくなるからです。しかし、他方で、競業を無制限に禁止すると、譲渡人の営業の自由を侵害することにもなるから、競業できない場所、期間に制限を設けることにより微妙なバランスをとっているのです。
4 営業譲渡の第三者に対する関係
営業譲渡が行われても、第三者にとっては、営業の移転(営業主体の交替)がわからない場合があり、そのため、営業譲渡人の債権者または債務者を保護する必要がある。
すなわち、譲渡人の営業上の債務が特約で譲渡されなかった場合、債務は譲渡人に残るが、その債権者は営業主体の交替に気付かず、譲受人に請求したり、逆に、営業上の債権が特約で譲渡されなかった場合、その債務者は譲受人に弁済をしてしまうことにより二重弁済の危険を負うことになります。
(1) 商号の続用がある場合
営業譲受人が営業譲渡人の商号をそのまま使用(続用)する場合、営業譲渡人の債権者は営業主の交替に気付かない場合があり、仮に知っていたとしても、債務が譲受人に移転したと誤認しやすいわけです。
そこで、債務が移転していなくても、譲受人による商号の続用があれば、譲渡人の営業上の債務につき、譲受人も弁済の責任を負う(商法17条1項、会社法22条1項)。つまり、譲渡人の営業上の債務が、譲渡人と譲受人との不真正連帯債務となり、移転していない債務について譲受人も弁済しなければなりません。債権者の外観信頼保護がその趣旨であるとされるが、債権者は営業主の交替を知り得ない場合、譲受人を自己の債務者と信じたわけではないとする反論もあります。そこで、営業財産が移転したことを根拠にすべきでしょう(担保説)。
なお、営業譲渡の後、譲受人が遅滞なく譲渡人の債務について責任を負わない旨を登記するか、その旨を譲渡人および譲受人から第三者に通知すれば、譲受人は責任を免れます(商法17条2項)。
さらに、譲渡人の営業上の債権について、その債務者が商号を続用した譲受人に対して弁済をした場合、弁済者が善意・無重過失であれば有効です(商法17条4項)。なぜならば、それを有効としなければ、債務者には二重払いの危険があるからです。
(2) 商号の続用がない場合
商号の続用がなければ、譲渡人の債権者を保護する必要はないが、譲受人が譲渡人の債務をあえて引き受ける旨の広告をしたときは、禁反言の原則により、その債権者は譲受人に対して弁済請求ができます(商法18条)。
発起人の権限
会社設立の請負人は発起人です。発起人とは形式的には、定款に発起人として署名した者です。発起人も株式を1株は引き受けなければならないので(25条2項)、会社が設立するとそのまま株主になります。発起人はなにができるか、という権限の範囲は重要な問題です。発起設立の手続としては、①定款の作成・認証、②出資者の株式の引受け・払込み、③機関の具備、④設立登記などがありますが、それらは設立それ自体の行為といえ、当然に発起人の権限の範囲内です。それ以外に、会社設立にとって必要な行為についても発起人の権限であり、その行為の効果を設立後の会社に帰属させてもよいでしょう。しかし、営業行為は明らかに会社設立とは関係がないことから、発起人の権限とは認められませんが、開業準備行為については議論が分かれているところです。たしかに、設立中に営業所や営業財産などを買い入れる契約をしておくと、設立後、速やかに営業を開始できることから会社にとって都合がよいことからそれに賛成する意見も少なくありません。しかし、開業準備行為はやはり会社設立とは関係がなく、また、幅広く開業準備行為を発起人の権限であるとすると、発起人の浪費、利益相反的取引などにより、設立後の会社の財産的基礎を弱められる危険があり、ひいては、株主や債権者の利益が害されるおそれがあります。そこで、通説判例は、原則として開業準備行為を発起人の権限としては認めていません。ただし、開業準備行為の中でも財産引受け(28条2号)については、法の厳格な規制(変態設立事項→定款への記載と検査役の調査を受けること)の下で、例外的に認めています。
名板貸し(ないたがし)
商号は、営業を廃止するか、営業と一緒にでないと譲渡、すなわち売却はできないのですが、商号を貸すこと(賃貸など)は単独でも可能ですね。これを名板貸しといいます。名板貸しの問題は、名板借人(商号を借りている人)と取引をした相手方が、取引当事者を名板貸人と誤認してしまうことです。そこで、自己の商号を使用して営業または事業を行うことを他人に許諾した商人(名板貸人)は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して、当該他人(名板借人)と取引した者(相手方)に対して、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負わされます(商法14条)。会社が商号を貸した場合も同様です(会9条)。この規定は、ドイツ法の権利外観法理や英米法の禁反言の原則にその根拠があります。
名板貸人の責任発生要件は、①名板借人が名板貸人の商号を使用して営業をしているという外観が存在すること(外観の存在)、②名板貸人が自己の商号を使用して営業をなすことを許諾したことで、外観作出上の帰責性があること(外観作出上の帰責性)、③相手方が名板貸人を営業主体であると誤認して名板借人を取引をしたという外観に対する信頼があること(外観に対する信頼)の三つです。
外観に関して、商号は、完全一致でなくても、支店、出張所など一部付加したものでもよいとされます。
使用許諾の方法は、明示的方法でも黙示的方法でもよいとされます。ただし、他人が自己の商号を使用しているのを黙認し、ただ放置しているというだけでは、ただちに使用許諾があったとされるわけではなく(なぜなら、使用の阻止義務が当然に存在するわけではないから)、営業主が自己の事務所や土地、看板などを使用させているなど、社会通念に照らしてなんらかの帰責性がなければなりません。
直接的には名板貸しの事例ではありませんが、大型店舗スーパーのテナントのペットショップが販売したインコの病気が原因で購入者の家族が死亡してしまった事件で、最高裁は、スーパーとテナントの営業主体の区別が外観上明らかではなかったことを理由に、名板貸人の責任に関する規定を類推適用したものがあり(最判平成7年11月30日民集49巻9号2972頁)、帰責性の参考になります。
名板借人の営業が名板貸人の営業と同一または類似でなければならないかどうかについては、従来は同一・類似でなければならないと解されていましたが、最近の企業は業務の変化が頻繁であることに鑑みて、必ずしも同一・類似である必要はないとされています。
名板貸人の責任発生要件は、①名板借人が名板貸人の商号を使用して営業をしているという外観が存在すること(外観の存在)、②名板貸人が自己の商号を使用して営業をなすことを許諾したことで、外観作出上の帰責性があること(外観作出上の帰責性)、③相手方が名板貸人を営業主体であると誤認して名板借人を取引をしたという外観に対する信頼があること(外観に対する信頼)の三つです。
外観に関して、商号は、完全一致でなくても、支店、出張所など一部付加したものでもよいとされます。
使用許諾の方法は、明示的方法でも黙示的方法でもよいとされます。ただし、他人が自己の商号を使用しているのを黙認し、ただ放置しているというだけでは、ただちに使用許諾があったとされるわけではなく(なぜなら、使用の阻止義務が当然に存在するわけではないから)、営業主が自己の事務所や土地、看板などを使用させているなど、社会通念に照らしてなんらかの帰責性がなければなりません。
直接的には名板貸しの事例ではありませんが、大型店舗スーパーのテナントのペットショップが販売したインコの病気が原因で購入者の家族が死亡してしまった事件で、最高裁は、スーパーとテナントの営業主体の区別が外観上明らかではなかったことを理由に、名板貸人の責任に関する規定を類推適用したものがあり(最判平成7年11月30日民集49巻9号2972頁)、帰責性の参考になります。
名板借人の営業が名板貸人の営業と同一または類似でなければならないかどうかについては、従来は同一・類似でなければならないと解されていましたが、最近の企業は業務の変化が頻繁であることに鑑みて、必ずしも同一・類似である必要はないとされています。
商号譲渡について
商号は財産的価値があるから他人に譲渡することができるが、その譲渡は営業の譲渡とともにする場合か、または営業を廃止する場合にしか認められない(商15条1項)のはなぜか?それは、商号の財産的価値と、商号の背後の商人についての公衆の誤認を避けるためとされている。
なお、会社の商号は、会社の唯一の名称であるから、会社法上は、商法15条1項に相当する規定は存在しない。
なお、会社の商号は、会社の唯一の名称であるから、会社法上は、商法15条1項に相当する規定は存在しない。
法人格否認の法理
法人格否認の法理は、会社がその出資者とは別人格であることを利用して、取引の相手方を困らせるような場合に、会社とその背後にいる支配者的出資者とを同一視して、衡平妥当な解決を図ろうとする便利な法理です。でもこの法理が、権利濫用といった法の一般原則に依拠し、要件もあいまいであり、また、個別的な規範解釈で十分に間に合う場合もあるため、その適用に慎重な意見もあります。ただし、立法と実務がイタチごっごの世界において、法の隙間、抜け穴がいつ露見するかわかりません。そこで最後の手段として、この法理を残しておく価値はないとはいえません。私はこの点に関して慎重派ですが、発想の柔軟性が求められる学問的には興味ある分野だと思いますね。
商号について
商号とは商人がその営業上自己を表す名称である。商号は商人の名称であり、商品や役務(サービス)を表す商標とは異なる。
商標は文字はもちろん、図形、紋様、記号でもよいが、商号は文字(ローマ字でもよい)で記載され、かつ発音できるものでなければならない。
一個の営業には一個の商号のみが許されており、これを商号単一の原則という。だが、商法に明文の規定があるわけではない。
商号選定は原則として自由であり、商人の氏名の全部または一部でなくてもよく、また、実際の営業内容と一致しなくても構わない。しかし、商号選定の自由は以下のように制限を受ける。①会社の商号には、会社の種類に応じた会社の文字を用いなければならず、逆に会社でない者は、商号中に会社の文字を用いてはならない。また、銀行や信託会社は、商号に銀行や信託の文字を入れなければならず、逆に、銀行や信託会社でない者はその文字が使えない。②何人も、不正の目的をもって、他の商人または他の会社であると誤認されるおそれのある名称または商号を使用してはならない(12条1項、会8条1項)。ここで不正の目的とは、自己の営業(事業)活動を、当該他の商号を使用する者の営業(事業)活動であるかのごとく一般人を誤認させる意図である。他人の商号の不正目的使用により、営業上の利益を侵害されたか、または侵害されるおそれのある他人は使用の差し止めまたは予防を請求できる(12条2項、会8条2項)。この法律の目的は他人の商号を商号として使用するだけではなく、名称として使用することを禁止することから、不正競争の防止ではなく、他人の商号を保護することにある。
商人は商号を登記することができ、先に登記してしまえば、他人は同一商号を同一住所で登記することができなくなる(商登27条)。しかし、別に商号は登記していなくても、不正の目的がなければそのままその商号を使用してもよく、他人によってその商号の使用を妨げられるわけではない(商号使用権)。また、商号を登記していなくても、他人が自己の商号と同一または類似の商号を不正に使用することを排斥する権利がある(商号専用権)。
商号は、営業を廃止する場合か、営業(事業)を譲渡する場合に限って、それを譲渡することができる(15条1項)。
商標は文字はもちろん、図形、紋様、記号でもよいが、商号は文字(ローマ字でもよい)で記載され、かつ発音できるものでなければならない。
一個の営業には一個の商号のみが許されており、これを商号単一の原則という。だが、商法に明文の規定があるわけではない。
商号選定は原則として自由であり、商人の氏名の全部または一部でなくてもよく、また、実際の営業内容と一致しなくても構わない。しかし、商号選定の自由は以下のように制限を受ける。①会社の商号には、会社の種類に応じた会社の文字を用いなければならず、逆に会社でない者は、商号中に会社の文字を用いてはならない。また、銀行や信託会社は、商号に銀行や信託の文字を入れなければならず、逆に、銀行や信託会社でない者はその文字が使えない。②何人も、不正の目的をもって、他の商人または他の会社であると誤認されるおそれのある名称または商号を使用してはならない(12条1項、会8条1項)。ここで不正の目的とは、自己の営業(事業)活動を、当該他の商号を使用する者の営業(事業)活動であるかのごとく一般人を誤認させる意図である。他人の商号の不正目的使用により、営業上の利益を侵害されたか、または侵害されるおそれのある他人は使用の差し止めまたは予防を請求できる(12条2項、会8条2項)。この法律の目的は他人の商号を商号として使用するだけではなく、名称として使用することを禁止することから、不正競争の防止ではなく、他人の商号を保護することにある。
商人は商号を登記することができ、先に登記してしまえば、他人は同一商号を同一住所で登記することができなくなる(商登27条)。しかし、別に商号は登記していなくても、不正の目的がなければそのままその商号を使用してもよく、他人によってその商号の使用を妨げられるわけではない(商号使用権)。また、商号を登記していなくても、他人が自己の商号と同一または類似の商号を不正に使用することを排斥する権利がある(商号専用権)。
商号は、営業を廃止する場合か、営業(事業)を譲渡する場合に限って、それを譲渡することができる(15条1項)。
営業所の法的意味
営業所というのは、内部的には指揮命令が発せられ、外部的には営業上の主要な活動が行われる、営業活動の中心となる一定の場所のことである。単なる工場や倉庫、駐車場などは営業所とは認められず、営業所であるかどうかは、客観的実質的に判断される。営業所が全営業を統括している場合、そこを本店といい、その他の従たる営業所のことを支店という。
営業所は法的にはどのような意味があるかというと、①商行為によって生じた債務の履行場所(516条1項)、②裁判管轄(民訴4条・5条、破4条、民再5条、会更4条)、③商号登記の登記場所(商登28条)、④民事訴訟上の書類の送達場所(民訴103条)がそれによって決まるということである。
営業所は法的にはどのような意味があるかというと、①商行為によって生じた債務の履行場所(516条1項)、②裁判管轄(民訴4条・5条、破4条、民再5条、会更4条)、③商号登記の登記場所(商登28条)、④民事訴訟上の書類の送達場所(民訴103条)がそれによって決まるということである。
営業能力
商法上、営業能力とは、口八丁手八丁で商売が上手いことを意味するのではなく、自分で営業活動を行う能力のことである。商法では、商取引において取引の安全が重視されるため、営業能力がない者と取引をしてしまって、その効力が取り消されることにより、取引の相手方が不利益を受けることのないよう、また、円滑な取引が行われるよう、営業能力に問題のある者またはその関係者の公示規定を設けている。
未成年者は、法定代理人の同意がなければ法律行為ができないが(民5条)、ただし、法定代理人が一種または数種の営業を許可しておけば、いちいち法定代理人の同意を得なくとも、営業を行うことができる、つまり営業能力があるとされている(民6条)。商法は未成年者が営業をする場合、商業登記簿中の未成年者登記簿に登記することを要求している(5条、商登法6条2号、35条~39条)。
成年被後見人の場合、日常生活に関する行為以外はすべて取り消しうるから(民9条)、自ら営業をすることはできず、後見人に営業をしてもらうほかない(民859条、民864条参照)。この後見人が営業をする場合にも商法は登記(後見人登記簿)を要求しており(6条1項、商登法6条3号、40条~42条)、後見人の代理権に制限を加えたとしても、そのことを知らない善意の第三者に主張すること(対抗)ができない(6条2項)。でも、そもそも法定代理人である後見人が営業活動を行うことができるのは当たり前で、なぜその者の登記が必要なのだろうか?それは、後見監督人がいる場合にはその者の同意が必要であるが、同意がなければ営業行為が取り消されることになり(民864条、865条)、後見監督人の有無によって取引の効力が変わってくるため、後見人が適法な代理人であることを公示させる目的で登記させているのである。
被保佐人の場合、被保佐人が民法13条1項各号の行為をするには、保佐人の同意がなければ取り消されることになるが、それらの行為は営業行為に該当するため、被保佐人は自ら営業行為をすることはできない。また、保佐人は法定代理人ではないから、被保佐人のために営業を行うことができないため、制限行為能力者の中で最も不利な立場におかれかねない。そこで、学説は、保佐人の同意を得て支配人を選任し、自己に代わって営業をさせることができると解している。
被補助人は、民法13所1項各号に列挙された行為の一部をなす場合、補助人の同意を得なければならない旨の審判が家庭裁判所によって下された場合(民17条1項、15条3項)、同意を得ないでなされた行為は取り消されうるし(民17条4項)、また、被補助人には営業許可制度がないため、被保佐人の場合と同様、被補助人が営業活動をすることは事実上困難である。
未成年者は、法定代理人の同意がなければ法律行為ができないが(民5条)、ただし、法定代理人が一種または数種の営業を許可しておけば、いちいち法定代理人の同意を得なくとも、営業を行うことができる、つまり営業能力があるとされている(民6条)。商法は未成年者が営業をする場合、商業登記簿中の未成年者登記簿に登記することを要求している(5条、商登法6条2号、35条~39条)。
成年被後見人の場合、日常生活に関する行為以外はすべて取り消しうるから(民9条)、自ら営業をすることはできず、後見人に営業をしてもらうほかない(民859条、民864条参照)。この後見人が営業をする場合にも商法は登記(後見人登記簿)を要求しており(6条1項、商登法6条3号、40条~42条)、後見人の代理権に制限を加えたとしても、そのことを知らない善意の第三者に主張すること(対抗)ができない(6条2項)。でも、そもそも法定代理人である後見人が営業活動を行うことができるのは当たり前で、なぜその者の登記が必要なのだろうか?それは、後見監督人がいる場合にはその者の同意が必要であるが、同意がなければ営業行為が取り消されることになり(民864条、865条)、後見監督人の有無によって取引の効力が変わってくるため、後見人が適法な代理人であることを公示させる目的で登記させているのである。
被保佐人の場合、被保佐人が民法13条1項各号の行為をするには、保佐人の同意がなければ取り消されることになるが、それらの行為は営業行為に該当するため、被保佐人は自ら営業行為をすることはできない。また、保佐人は法定代理人ではないから、被保佐人のために営業を行うことができないため、制限行為能力者の中で最も不利な立場におかれかねない。そこで、学説は、保佐人の同意を得て支配人を選任し、自己に代わって営業をさせることができると解している。
被補助人は、民法13所1項各号に列挙された行為の一部をなす場合、補助人の同意を得なければならない旨の審判が家庭裁判所によって下された場合(民17条1項、15条3項)、同意を得ないでなされた行為は取り消されうるし(民17条4項)、また、被補助人には営業許可制度がないため、被保佐人の場合と同様、被補助人が営業活動をすることは事実上困難である。
商業登記の効力
商業登記は、商人が自己に関する重要事項を、取引の相手方となりうる一般公衆に知らせ(公示)、信用を得、取引の安全、円滑化に役立っています。商業登記簿は、商号登記簿、未成年者登記簿、後見人登記簿、支配人登記簿、株式会社登記簿、合名会社登記簿、合資会社登記簿、合同会社登記簿、外国会社登記簿の9つがあります。商業登記簿は登記所である、法務局、地方法務局、支局、出張所に備え置かれているので、誰でも閲覧謄写ができます。また、一定の要件を満たせばインターネットでも閲覧謄写することができます(詳しくは、http://www1.touki.or.jp/ を参照)。
さて、商業登記には、登記前の効力と登記後の効力があります。
登記前は、登記すべき事実を、悪意の第三者に対抗はできますが(もちろん主張者が立証できれば)、善意の第三者には対抗できません(商法9条1項前段)。これを消極的公示力といいます。
登記後は、原則として、善意の第三者にも対抗することができます(商法9条1項前段、会社法908条1項前段)。これを積極的公示力といいます。この場合、第三者は悪意が擬制されます。ただし、登記後であっても、第三者に正当事由があり、その登記があることを知らなかったことを証明できれば、例外的にその第三者に対抗できません(商法9条1項後段、会社法908条1項後段)。正当事由とは、災害等による交通途絶などを指します。
この商業登記の積極的公示力は、、登記があるのにそれを見なかったため、登記事実を知らなかった第三者に対しても対抗できるというものですが、これは、外観保護規定との関係で問題があります(商法24条・会社法13条、会社法354条、民法112条など)。これにつき、通説は、外観保護規定が例外的に、商法9条1項に優先適用されると解しています(例外説)。判例は逆に、商法9条1項・会社法908条1項のみが適用され、民法112条の適用ないし類推適用の余地はないと解しています。その他学説には、登記に優越するような外観がある場合、たとえば、代表取締役が退任し、退任登記をしたにもかかわらず、依然として代表取締役であるかのような外観が存していた場合、それを正当事由に含めるべきとする見解(正当事由弾力化説)や、商法9条1項・会社法908条1項を登記義務励行の趣旨と解し、外観保護規定とは次元が異なるためなんら矛盾はないと解する見解があります。通説のように、例外を認めていくと、登記後に悪意を擬制する制度が骨抜きになってしまうのではないかと思うし、その意味では、判例の立場がスッキリはするのですが、あらゆる例外を排除してしまうと相当気の毒な善意の第三者を救済できなくなってしまう場合もありそうなので、私は正当事由弾力化説を支持したいと思います。
さて、商業登記には、登記前の効力と登記後の効力があります。
登記前は、登記すべき事実を、悪意の第三者に対抗はできますが(もちろん主張者が立証できれば)、善意の第三者には対抗できません(商法9条1項前段)。これを消極的公示力といいます。
登記後は、原則として、善意の第三者にも対抗することができます(商法9条1項前段、会社法908条1項前段)。これを積極的公示力といいます。この場合、第三者は悪意が擬制されます。ただし、登記後であっても、第三者に正当事由があり、その登記があることを知らなかったことを証明できれば、例外的にその第三者に対抗できません(商法9条1項後段、会社法908条1項後段)。正当事由とは、災害等による交通途絶などを指します。
この商業登記の積極的公示力は、、登記があるのにそれを見なかったため、登記事実を知らなかった第三者に対しても対抗できるというものですが、これは、外観保護規定との関係で問題があります(商法24条・会社法13条、会社法354条、民法112条など)。これにつき、通説は、外観保護規定が例外的に、商法9条1項に優先適用されると解しています(例外説)。判例は逆に、商法9条1項・会社法908条1項のみが適用され、民法112条の適用ないし類推適用の余地はないと解しています。その他学説には、登記に優越するような外観がある場合、たとえば、代表取締役が退任し、退任登記をしたにもかかわらず、依然として代表取締役であるかのような外観が存していた場合、それを正当事由に含めるべきとする見解(正当事由弾力化説)や、商法9条1項・会社法908条1項を登記義務励行の趣旨と解し、外観保護規定とは次元が異なるためなんら矛盾はないと解する見解があります。通説のように、例外を認めていくと、登記後に悪意を擬制する制度が骨抜きになってしまうのではないかと思うし、その意味では、判例の立場がスッキリはするのですが、あらゆる例外を排除してしまうと相当気の毒な善意の第三者を救済できなくなってしまう場合もありそうなので、私は正当事由弾力化説を支持したいと思います。
商人はいつ商人になったのか?
固有の商人は、自己の名をもって商行為を業とする者であり、擬制商人は、商行為は行わないが店舗的設備で物品の販売を行うか、鉱業を営む者ですが、そもそもその商人は商人資格をいつ取得したのかという論点があります。固有の商人の定義における、商行為を業とするとは営利の目的をもって反復継続することですが、反復継続しているのが商人であるとしても、最初の第1回目の行為をしている者は未だ反復継続しているわけではないから、商人の定義には当てはまらないのではないかという疑問がわきそうですね。そこで、営利の目的をもって反復継続することを予定し、計画していれば第1回目の行為も業に含めるという解釈がなされてきました。また、擬制商人は商行為すらしていないのです。ここまではいいのですが、では、基本的商行為(絶対的商行為・営業的商行為)または店舗的設備による物品販売、鉱業の営みをする以前の開業準備行為、たとえば、店舗用不動産や営業資金を借りる行為についてはどうでしょうか?もしこの時点で商人になっていれば、開業準備行為は営業のためにする行為なので、その開業準備行為は附属的商行為(商503条)となって、債権の消滅時効、法定利率、多数当事者間の債務に関し、商取引の迅速性や営利性などに鑑みて民法を修正した商行為法が適用されることになるのです。ちなみに債権の消滅時効は、民法では10年(民167条1項)、商法では5年(商522条)、法定利率は民法では5%(民404条)、商法では6%(商514条)、多数当事者間の債務は、民法では分割債務(427条)、商法では連帯債務(商511条1項)となり、行為がなされた際にそれが商行為であったかどうかの判断が当事者の利害にかかわる問題となります。
さて、先ほどの問題に戻りますが、附属的商行為となる開業準備行為は商人が行った場合を前提としていますが、その商人はいつ商人になったのでしょうか。これにつき、一般には、営業行為を開始する前であっても、営利目的が明らかにされている以上、商人資格が認められると解されています(近藤)。それ以上の根拠が示された文献には未だ触れたことはありませんが、おそらく、商人が行った開業準備行為は附属的商行為となるとする商法503条の規定と「営業のためにする行為」に開業準備行為が含まれることからすれば、開業準備行為時にすでに商人資格を取得していることが認められる場合がなければならないという考えに基づいているのでしょうか。
その上で、では実際にいつ商人資格は取得されたのかについては、学説判例が分かれています。①表白行為説は、単に営業の準備行為を行っているというだけでは不十分であり、営業の意思を外部に発表しなければならないとするもので、たとえば、店舗の開設や開店広告などが外部への意思の発表にあたると解されています。次に、②営業意思主観的実現説は、営業意思が準備行為によって主観的に実現されれば、表白行為がなくても商人資格が取得されると考えます。最高裁昭和33年判決(最判昭和33年6月19日民集12巻10号1575頁)もこのような立場に立っているものと読むこともできます。当事者の利害にかかわる商人資格時期の判断を、一方当事者の主観に委ねるのは公平を欠くように思われます。そこで、次に、③営業意思客観的認識可能説は、営業意思が客観的に認識可能であることを要求します。これだと、両当事者にとって公平ですので、学説では多数説となっています。最高裁昭和47年判決(最判昭和47年2月24日民集26巻1号172頁)は昭和33年判決を踏襲しつつも、「準備行為は、相手方はもとよりそれ以外の者にも客観的に開業準備行為とみとめられうるものであることを要すると解すべきところ」と述べていることから、この説に近いものと思われます。さらに、有力説として④段階説もあります。これは、まず第一段階として、行為者の営業意思が準備行為によって主観的に実現された場合、この段階で相手方は、営業のために行ったと立証できれば、その行為者の商人性を主張できるが、行為者の方からはそれを主張できないとし、第二段階として、行為者の営業意思が特定の相手方に認識されたかまたは認識されうべき状態となったときには、相手方からのみならず、行為者からも商人性を主張でき、第三段階として、行為者の商人性が一般的に認識されるようになったときは、その行為者の行為について附属的商行為の推定が生じるとする見解です。この説は、条文規定にその根拠が見当たらないのがやや難点ですが、当事者間の対抗問題あるいは立証責任の分配問題としてきめ細かい利害調整が行われている点ですぐれたものと評価できます。
さて、先ほどの問題に戻りますが、附属的商行為となる開業準備行為は商人が行った場合を前提としていますが、その商人はいつ商人になったのでしょうか。これにつき、一般には、営業行為を開始する前であっても、営利目的が明らかにされている以上、商人資格が認められると解されています(近藤)。それ以上の根拠が示された文献には未だ触れたことはありませんが、おそらく、商人が行った開業準備行為は附属的商行為となるとする商法503条の規定と「営業のためにする行為」に開業準備行為が含まれることからすれば、開業準備行為時にすでに商人資格を取得していることが認められる場合がなければならないという考えに基づいているのでしょうか。
その上で、では実際にいつ商人資格は取得されたのかについては、学説判例が分かれています。①表白行為説は、単に営業の準備行為を行っているというだけでは不十分であり、営業の意思を外部に発表しなければならないとするもので、たとえば、店舗の開設や開店広告などが外部への意思の発表にあたると解されています。次に、②営業意思主観的実現説は、営業意思が準備行為によって主観的に実現されれば、表白行為がなくても商人資格が取得されると考えます。最高裁昭和33年判決(最判昭和33年6月19日民集12巻10号1575頁)もこのような立場に立っているものと読むこともできます。当事者の利害にかかわる商人資格時期の判断を、一方当事者の主観に委ねるのは公平を欠くように思われます。そこで、次に、③営業意思客観的認識可能説は、営業意思が客観的に認識可能であることを要求します。これだと、両当事者にとって公平ですので、学説では多数説となっています。最高裁昭和47年判決(最判昭和47年2月24日民集26巻1号172頁)は昭和33年判決を踏襲しつつも、「準備行為は、相手方はもとよりそれ以外の者にも客観的に開業準備行為とみとめられうるものであることを要すると解すべきところ」と述べていることから、この説に近いものと思われます。さらに、有力説として④段階説もあります。これは、まず第一段階として、行為者の営業意思が準備行為によって主観的に実現された場合、この段階で相手方は、営業のために行ったと立証できれば、その行為者の商人性を主張できるが、行為者の方からはそれを主張できないとし、第二段階として、行為者の営業意思が特定の相手方に認識されたかまたは認識されうべき状態となったときには、相手方からのみならず、行為者からも商人性を主張でき、第三段階として、行為者の商人性が一般的に認識されるようになったときは、その行為者の行為について附属的商行為の推定が生じるとする見解です。この説は、条文規定にその根拠が見当たらないのがやや難点ですが、当事者間の対抗問題あるいは立証責任の分配問題としてきめ細かい利害調整が行われている点ですぐれたものと評価できます。
