ある菓子屋の前で毎日のように駄菓子を眺めている7歳ぐらいの貧しい身なりの少年がいた。

 

しかし、毎日来るけど、その少年は駄菓子を眺めているだけで、一度も買ったことがなかった。

 

 

ある時、店の奥から店主の男がその少年に声をかけた。

「駄菓子、買わないのかい?」

 

するとその少年は「お金がないから買えないの」と、寂しそうに言った。

 

すると店主は「ビー玉持ってる?」と少年に尋ねた。

少年は「ビー玉なら、持ってるよ。家に帰ったらあるよ。」と言った。

 

それを聞いて店主が言った。

「じゃあ、紫色のビー玉とうちのお菓子ひとつと交換してあげるよ」

 

少年は一瞬考えて悲しそうな顔で「紫色のビー玉はないかもしれないよ」と言った。

 

すると、店主は「じゃあ、紫色のビー玉が手に入ったら持ってきなさい。それと交換だ。でもお菓子は先に渡しとくから、好きなの選んでいいよ」

 

少年は「本当にいいの?」と店主の目を疑い深く見た。

 

店主は笑顔で「君の名前は?」

少年は「サトシです」

 

「サトシ君、おじさんは君を信じるよ。だから、お菓子は先に渡しておくよ」と言うと、少年は嬉しそうにお菓子を一つ選んだ。

立ち去りかけた少年に店主は声をかけた「明日も又来なさい。」

 

それから、少年は毎日駄菓子屋に来て、店主からお菓子を一つ貰った。

 

実は、当時紫色のビー玉はこの世に存在していなかった。

 

少年が店に来る度に、店主は「紫色のビー玉が見つかったら持ってくるんだよ。急がないからね。いつでもいいよ」と言って駄菓子を渡した。

 

それから半年くらいして突然少年は店に来なくなった。

噂で、少年の家族が他の街に引っ越したと店主は知った。

 

そして二十年後、一人の立派な青年が店を訪れた。

 

店は雑貨店に変わっていた。

青年は店番をしている年配のご婦人に声をかけた。

 

「以前、ここは駄菓子屋だったと思うのですが、以前の店主さんはどちらにいらっしゃるかご存知でしょうか?」

ご婦人は「はい、そうですよ。主人が駄菓子屋をやってました。主人が亡くなってから息子と雑貨店をすることになり、改装したんですよ。主人をご存知ですか?」

 

青年は、子供の頃、毎日駄菓子をもらっていた経緯を婦人に話した。

 

青年の話を聞きながら、婦人は涙を流して「そう、あんたがあの時のサトシ君なのね・・・・・立派になったねぇ」と言った。

青年は重そうな箱を婦人に差し出して言った。

 

「遅くなったけど、約束の紫のビー玉を持ってきました。」

 

婦人が箱の蓋を開けると、箱の中には眩いばかりの紫のビー玉がぎっしり詰まっていた。

 

その後、成功したサトシさんは、その雑貨店やその家族に多大な支援をしたそうです。

成願義夫