この3色の縞が何の色か、お分かりになりますでしょうか?

直ぐに分る人は歌舞伎通だと思います。
これは劇場の定式幕(じょうしきまく)です。
歌舞伎を観たことがない人でも、特に萌黄(緑)柿(オレンジ)黒の3色の組み合わせは、なんとなく見覚えのある色の組み合わせですね。
このような伝統的な色の組み合わせは、日本人の潜在意識に刷り込まれている共通の記憶といっても良いでしょう。
このことを利用してパッケージに採用しているのが、永谷園です。
これには商品認知度を高め購買に結びつける確かな心理的な効果があります。これは、アフォーダンス理論効果と言われる心理効果の一種です。
永谷園の凄いところは、誰でも採用しそうな定式幕の色をそのまま採用せずに、この記憶に自社商品を紐付けできる範囲で独自の縞模様と配色にアレンジしていることです。
プロが見ればその考え抜かれたデザインが理解できるはずです。

せっかくですので、定式幕の基本知識も書いておきます。
劇場の定式幕は、現在では萌黄、柿、黒の3色からなっていますが、劇場によって配列が一定していません。歴史的にみると、江戸三座時代よりそれぞれに違いがあり、舞台に向かって下手より中村座が『白、柿、黒』市村座が『萌黄、柿、黒』森田座が『黒、柿、萌黄』でした。明治期に入り森田座が新富座となり、九代目市川団十郎が歌舞伎界の中心になった為、現在の歌舞伎の定式幕は江戸三座時代の森田座の様式を取り入れ、黒、柿、萌黄と配列し、黒で上手を止めています。国立劇場の定式幕は現在でも市村座の様式を取り入れているそうです。

 


因みに、歌舞伎の定式幕はいずれも上手から下手に引いて閉じるのが現代では普通ですが、江戸時代には下手から上手に引いて閉じていたそうです。

京都に住んでいる皆様に身近な南座の定式幕は森田座の『黒、柿、萌木』を採用していますね。

デザイナー 成願義夫