『河原町のジュリー』

 

 

そろそろ街にはクリスマスモードを盛り上げる飾り付けがちらほらと見え始める今日この頃。
今から30年以上前のある日のことを毎年この時期になると鮮明に思い出します。

 

その年の12月半ば頃の夕方、京都の四条河原町交差点付近を歩いて通りがかった時、ある男性が当時の阪急百貨店の対角の歩道に立ち止まり、クリスチャンのように両手を胸の前に合わせて一生懸命お祈りをしている光景に出くわしました。

 

髪はボサボサの長髪でボロボロに汚れた服装のその男性は、当時その界隈では「河原町のジュリー」と言われていたホームレスでした。

ふと彼の視線の先に目をやると、阪急百貨店がクリスマスムードを盛り上げるために壁に飾った巨大な十字架がありました。

私はホームレスの彼が何をお祈りしているのか、とても興味が湧き、そっと彼のすぐ後ろに立ち、聞き耳を立てました。

 

彼の口からつぶやかれていた祈りの言葉は・・・・
なんと、神への感謝と京都の人々の幸せと、人類の平和でした。それを繰り返し祈っていたのです。
自分のことを一言も祈っていないのです。

私は、驚きと感動で震えました。

 

人々が慌ただしく足早に通り過ぎる師走の夕方、夕日に照らされた彼の姿はとても神々しく、

私は思わず彼に向かって「ありがとうございます」と一礼して、しばらく彼の祈りの姿を見つめていました。

彼の周りだけ時間が止まり、雑踏の音が消え、不思議な静寂の中で祈りの言葉だけが聞こえてきました。
その姿の美しさは今も目にはっきりと焼き付いています。

 

その翌年の2月早朝、円山公園で彼が凍死しているのが発見さたというニュースを京都新聞で知りました。


河原町のジュリー逝く。享年66歳